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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第九章・風、疾る日

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第九十八話 怒りと覚悟

 観客席では、先ほどの風悪(ふうお)チームの勝利を讃える歓声がまだ続いていた。

 けれど、A組の空気だけはどこか張りつめている。


 黒八(くろや)はいつになく真剣な表情をしていた。

 彼女の中には“太陽”がいる。

 けれど太陽は、戦いの場に積極的に出てくることはない。

 黒八が限界に追い込まれた時だけ――。


 その理由を、黒八自身がよく知っていた。

 太陽の力を使えば、確かに強くなれる。

 だがその代償は、黒八の生命そのもの。

 力を使うたびに、命の炎が少しずつ削れていく。


 それでも、仲間の足を引っ張るわけにはいかなかった。


「足だけは引っ張りません! 頑張ります!」


 黒八は自分に言い聞かせるように声を上げ、

 一ノ瀬と五戸(いつと)の方へと視線を向けた。


 一ノ瀬は無言のまま、淡々と菌糸の展開準備を進めている。

 指先から、細い糸のような菌糸が静かに地面へと走る。

 その無表情さが、かえって決意の強さを物語っていた。


 五戸は軽口を叩きながらも、指先が僅かに震えている。

 心の奥底では、やはり緊張しているのだ。


「……ま、吊るだけだし。吊るのは得意だから」


 何でもない風を装いながらも、言葉には微かな力がこもっていた。


 A組の観客席、前列から声が飛ぶ。


「一ノ瀬、制圧しちまえ!」

「黒八さん、無理はしないでくださいまし!」

「このしろちゃん! ファイトー!」


 応援が飛び交い、三人の背を押す。

 それぞれの声に、温度があった。

 優しさ、緊張、そして願い。


 対するは無名学園の三人。


 白影エン。

 緋ノ宮スズ。

 灰刃ユウガ。


 いずれも無名学園でも異質な存在――

 その立ち姿には、研ぎ澄まされた静けさがあった。


 教育庁異能管理局の職員が、審判台から声を上げる。


「それでは第二回戦、チーム戦――決闘、開始!」


 瞬間、空気が震えた。

 アリーナ中央が波打ち、床の表面が黒く滲み始める。


 無名学園の白影エンが前へと歩み出る。

 その足元から、まるで墨を垂らしたような黒い液体が広がっていく。


「幻像顕現――展開」


 その声と同時に、黒い水面のような揺らぎがアリーナ全体に広がった。

 観客席からはただの光の歪みにしか見えない。

 だが、範囲内に立つ者たちには――異様な光景が映り始めていた。


 五戸の背後に、かつて吊り上げ、命を奪ってしまった“友達”の影。

 一ノ瀬の目の前には、彼女の声を奪った“暴走した友人”の幻。

 黒八の足元には、光を失い崩れ落ちる“太陽”の姿。


 “心の恐怖”を具現化する異能〈虚映〉

 白影エンの力が発動していた。


 それぞれの影が、ゆらりと動き出す。

 幻なのに――確かに存在している。

 冷たい空気が、肌に触れる感覚までも。


 黒八の呼吸が乱れた。

 胸の奥で、かすかに太陽が脈打つ。


「太陽……あなたまで……」


 五戸の手が震え、糸が揺れる。

 一ノ瀬は表情を変えぬまま、菌糸の先を地面に走らせた。


 観客席前列で、夜騎士(よぎし)が眉をひそめる。


「どうしたんだ……みんな」


 隣に立つ王位が、腕を組んだまま冷静に分析する。


「何か……見せられてるとか?」


 空気の揺らぎを見つめながら、彼の言葉に周囲のⅩⅢ(サーティーン)監視員たちが顔を見合わせた。


 戦いは、すでに肉体の戦闘ではなく――心の闘いへと変わっていた。


 五戸は息をのんだ。

 そして、わずかに口角を上げる。


「悪手だったよ、あんたら。」


 その声には、いつもの軽さではなく、どこか鋭い確信があった。


 その瞬間――一ノ瀬の内で、何かが切れた。


 彼女の無表情な瞳の奥に、暗く、深い感情が渦を巻く。

 かつて“声”を奪った暴走した友人。

 その原因は“魔”だった。


 “魔”への怒り。

 滅ぼしたいほどの憎悪。

 そして、あの封印の日から続く焦燥。


 ――夢に入れず怒っていた。

 ――“魔の模造品”に何も出来ず怒っていた。

 ――“魔”の正体が解けずに怒っていた。

 ――六澄と黒い妖精の繋がりが掴めず、怒っていた。


 そのすべてが、今、一気に爆発した。


 一ノ瀬の足元に、淡い光を帯びた菌糸が広がる。

 黒い土を突き破り、白く細い糸が次々と生えていく。

 それは瞬く間にキノコの群生となり、アリーナを覆い尽くした。


「な、なんだこれ!」

「動けない!」


 無名学園の三人が声を上げる。

 見えない菌糸が絡みつき、彼らの四肢を拘束していた。


 一ノ瀬の表情は変わらない。

 だが、瞳の奥には烈火のような怒りが宿っていた。


「……」


 言葉は無い。

 ただ、菌糸が蠢き、幻影ごと現実を絡め取る。


 白影の〈虚映〉が消える。

 幻像も、恐怖も、すべてが菌糸に呑まれていった。


 一人だけ、灰刃ユウガが抵抗しようと灰化して逃れかけた。

 その瞬間、五戸の黒い縄が空を走り、灰刃の腕を絡め取る。


「だから、悪手だって言ったじゃん?」


 五戸は冷ややかに言い放つ。

 縄が締まり、灰刃は宙へ吊り上げられた。


 一ノ瀬は無言のまま、捕縛した敵を見つめている。

 黒八はその光景を見て、思わず息を呑んだ。


「すごい……」


 その呟きが、アリーナに響いた。


 審判の教育庁職員が高く手を上げる。


「勝者――切ノ札学園チーム!」


 観客席がどっと湧いた。

 歓喜の声が波のように押し寄せ、アリーナにこだまする。


 白影は拘束されたまま、静かに顔を上げた。


「君たちは……心が強いんだな」


 穏やかで、どこか嬉しそうな声だった。


 その言葉に応えるように、黒八が一歩前へ出る。


「正直、怖かったです。

 でも――背負ってでも、生きる覚悟はできています」


 その言葉に、一ノ瀬と五戸も黙ってうなずいた。


 一ノ瀬は静かに菌糸を引き戻す。

 彼女の指先には、微かに“心の震え”が残っていた。


(恐怖を見せられても、今はもう負けない。

 だって――みんながいるから)


 五戸はため息をつきながら、吊るした縄を解く。


「……ったく、幻影だの、ややこしいのばっかり」


 言葉とは裏腹に、その声にはどこか安堵が混じっていた。


 黒八は空を見上げる。

 烏が彼女の頭上を旋回し、光を反射する。


「でも、私たちの勝ちです!」


 笑顔で言ったその声に、観客席のA組が立ち上がる。


「やったー!」

「黒八さん、最高!」

「このしろちゃんもカッコよかったー!」


 歓声が響く中、アリーナの光がゆっくりと落ちていく。


 まるで戦いの幕が、ひとつ閉じるように。


 ──第二試合、切ノ札学園二連勝。

 けれど、誰もが気づいていなかった。

 その勝利の裏で、“影”が再び動き出していることに。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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