表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第九章・風、疾る日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/107

第九十六話 紅蓮と白風

 会場、ⅩⅢ(サーティーン)異能結界アリーナ第三層――〈闘技の演壇〉

 半透明の結界膜が陽光を反射し、ステージ中央には六つの影が向かい合っていた。

 観客席の前列から、A組の仲間たちの声援が飛ぶ。


風悪(ふうお)君がんばってー!」

「辻! 斬っちゃいな!」

「かじかちゃん、無理はしないで!」


 それぞれの声が重なり、アリーナの空気を震わせる。

 緊張と興奮が、まるで風のように流れ込んできた。


「賑やかだな。」


 焔堂カイが呟く。

 その声音には、どこか愉しむような響きがあった。

 彼の身体からは、すでに微かな熱が立ち上っている。


 風悪は静かに目を閉じ、風の流れを読む。

 炎の温度、空気の密度、呼吸のリズム――すべてを“風”として感じ取っていた。


 対面する焔堂は炎を纏い、闘志を隠そうともせず笑っている。

 隣の凪原リオは両手を組み、冷気を孕んだ水鎖を生み出す準備をしていた。

 もう一人、影沼トウヤは床に片手をつき、影の中へと身を沈める準備をする。

 すでに三者三様、開戦の構えだ。


「がんばろう。」


 辻がぽつりと口にした。

 その声音は静かだが、確かな覚悟を含んでいる。


「うん。」


 鳩絵が短く返す。

 手にはスケッチブック、指先には震えがある。だが、その瞳は真っすぐだった。


「負けられない。」


 風悪もまた、翅の奥に宿る微かな光を感じながら応える。

 胸の奥で、風がざわめく。


(風は熱をはらむ……だが、風が吹けば炎は揺れる。やれる──)


 その言葉を心の中で繰り返した。


 審判役である教育庁異能管理局の職員が手を上げる。

 静寂が訪れ、空気が張りつめる。


「――決闘、開始!」


 合図と同時に、影が走った。


 影沼トウヤが床の影に沈み込み、姿を消す。

 凪原リオの掌からは水の鎖が現れ、音もなく地面を這う。

 焔堂カイは両腕を広げ、赤熱を帯びた大地が鳴動した。


 次の瞬間、炎の波動が爆ぜる。

 床一面が焼け焦げ、空気が一気に熱を帯びた。


 風悪は反射的に両手を掲げ、風を操る。

 瞬間、目に見えぬ風壁〈風障壁〉が展開。

 炎の熱波を受け止め、気流を捻じ曲げて受け流す。

 しかし熱気で空気が歪み、視界が揺らいだ。


 背後で辻が風を纏い、爪を変形させる。

 爪先が鋭利に伸び、鎌状の風刃となって迸った。

 その風刃が焔堂へ向けて放たれ、炎の中で弾け散る。


 牽制――だが確かに、熱の壁を一瞬だけ切り裂いた。


 そのさらに後方で、鳩絵がペンを走らせていた。

 スケッチブックの上に、流れるように描かれる線。

 描かれたのは“翼を持つ風の鳥”。


 次の瞬間、絵が淡く光を放ち、ページから飛び出した。

 半透明の鳥が羽ばたき、風悪の周囲を旋回する。


「かじかが補助するよ!」


 鳩絵の声が響く。

 具象化の描写――彼女の異能が顕現した瞬間だった。


 風の鳥が空を裂き、炎の渦に突っ込む。

 鳴動、爆ぜる熱、唸る風――

 炎と風が、アリーナ中央でぶつかり合った。

 凪原が掌を前に突き出す。

 空気中の水分が一瞬で集まり、鎖の形を成して凍りついた。

 冷気を帯びた水の鎖が、蛇のように蠢き――風悪の足元を絡め取る。


 凪原の異能〈水縛(すいばく)〉が発動。

 結晶の鎖がきしみながら締めつけ、風悪の動きを封じた。


「動きを止めたところを、燃やす!」


 焔堂の叫びと同時に、彼の掌から爆炎が迸る。

 炎が咆哮を上げ、空気を震わせ、衝撃波を伴って爆ぜた。


 鳩絵が慌てて防壁を描き始める。

 ペンが走り、紙の上に風の盾が形作られる――が、

 その瞬間、熱気が押し寄せ、スケッチブックの端が焦げ始めた。


「ちょ! 熱すごい!」


 鳩絵の悲鳴。

 立ち上る熱波に視界がゆらめく。


 風悪は足を拘束されたまま、瞬時に判断する。

 両腕を振り抜き、風圧を一点に集中させた。

 ――爆発の圧力を外へと逸らす。


 風の奔流が壁のように広がり、鳩絵と辻を庇った。

 爆炎がアリーナの外縁で弾け、轟音が響く。


 その直後。背後の影が揺らぐ。


 床に映る風悪たちの影――その中から、人影が飛び出した。

 影沼トウヤ。異能〈影踏(えいとう)〉。

 影から影へと潜行し、死角から奇襲を仕掛ける能力だ。


 影の刃のような蹴りが、辻の背後を狙う。


 辻は振り向きざま、風を纏った爪を振り抜いた。

 風圧が弧を描き、刃となって影沼を弾き返す。


「後ろは任せて、風悪」


 短い言葉に、風悪はうなずきで応えた。


 影沼は舌打ちし、再び影の中へ溶けていく。

 闇が波紋のように揺らぎ、消えた。


 観客席の前列。

 五戸(いつと)このしろが、拳を握りしめて息をのむ。


「かじかちゃん……」


 隣で黒八(くろや)が真剣な瞳でスクリーンを見つめ、静かに言った。


「信じましょう」


 二人の声は届かずとも、仲間たちの想いは確かにステージにあった。


 アリーナ中央。


 鳩絵が新しい紙を取り出し、風悪の姿を描き始めた。

 筆の動きが速く、線が迷いなく走る。

 そして――描き終えると同時に紙を裂く。


 その瞬間、絵から風が噴き出し、描かれた“もう一人の風悪”が立ち上がった。

 半透明の風の分身。

 それは主の命令を待たずに動き出し、凪原の〈水縛〉を両手で掴み裂いた。


 鎖が砕け、冷気が霧散する。


「合わせるぞ! 辻!」

「うん!」


 二人の息が重なった。


 風悪が風流を形成する。

 流れを織り成すように空気を操り、渦を巻かせる。

 その風に辻の風刃が重なり、

 旋風と刃が合わさって一筋の斬撃となった。


 疾風が焔堂の前を駆け抜け、炎の壁を真っ二つに裂いた。

 朱色の火柱が、真白な風の線に貫かれる。


 観客席がどよめく。

 目の前の光景に、誰もが息を呑んだ。


「やるな! 切ノ札(きりのふだ)!」


 焔堂は笑った。

 その笑みは驚きではなく、むしろ嬉しそうだった。


 次の瞬間、彼の炎がさらに膨れ上がる。

 空気が焼け、足元の石がひび割れる。


 焔堂は指を鳴らした。


「楽しくなってきたな……じゃあ、少しだけ本気で行くか!」


 その言葉と同時に、彼の胸の奥が赤く輝く。

 炎とは異なる光――紅い“心核”が脈動を始めた。


「まさか、〈紅心(こうしん)〉を開放する気?」


 凪原が驚愕の声を上げる。


 焔堂の背後から噴き上がる紅蓮の柱。

 ステージ全体が朱に染まり、空気そのものが燃えるような熱気に包まれる。


 風悪の翅が光を帯び、白風が対抗するように吹き荒れた。


 炎と風――紅と白。

 その衝突の予感が、会場全体を震わせる。


 闘技の演壇が、今まさに沸騰しようとしていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ