第九十四話 編成会議
神無月の初め。
外では秋風が吹き抜け、銀杏の葉がひらひらと舞っていた。
昇降口を抜ける途中、五戸が大きく伸びをしながらぼやく。
「だあ……どうすっかね」
その隣を歩いていた鳩絵が首を傾げた。
「このしろちゃん、決闘体育祭の締め切りって……」
「明日よ」
「げげっ」
鳩絵が目を丸くし、声を上げる。
五戸は肩をすくめ、どこか投げやりに笑った。
二人はそのまま特別対策部室へ向かう。
今はA組の教室も兼ねた部屋だ。
中には、頭を悩ませた生徒たちが集まっていた。
黒板の前には「決闘システム 体育祭 チーム編成会議」と大きく書かれている。
机の上には書類、端末、ペン、そして軽い焦燥感。
「富はどう思う?」
夜騎士が腕を組みながら問いかける。
その声には、リーダーとしての重みがあった。
「四月を除けば、凶、七乃さん、一ノ瀬さん、六澄あたりが個人戦やれると思ってる」
王位は静かに答えた。
そして、黒板に書かれた名前を見つめながら分析を続ける。
「五戸さんや愛主もやれるポテンシャルはある。ただ、五戸さんの異能は“殺害を目的にしない決闘”では使い道が限られる。
愛主は言わずもがな、異性相手なら強い──」
淡々とした声が教室に響いた。
誰も反論できない。王位の言葉には、冷静な事実だけが並んでいた。
「王位自身は?」
風悪が率直に問う。
その言葉に、王位は少しだけ顔を伏せた。
「角を折って以来、弱体化してるからね。戦えるけど、個人戦みたいに“個の力だけで”戦うのは向かないかも」
静かな声。
その言葉に、教室の空気が一瞬だけ張り詰める。
王位には“見えざる角”が存在した。
かつて夜騎士凶を魔の手から救うため、自らの角を折ったのだ。
その犠牲の上で、特効薬が開発された――だが代償として、王位自身の異能は大きく衰えた。
角は彼の力の源でもあり、誇りでもあった。
「でも七乃は、二階堂と組みたがってる」
辻がぽつりと呟く。
その言葉に、王位が微かに笑んだ。
「どの道、黒八や二階堂を入れたチームは編成しなきゃならん。二階堂は七乃に託すか」
夜騎士は腕を組んだまま、冷静にまとめる。
チーム戦は三対三。
四チームを編成し、さらに個人戦に出る二人を選ばねばならない。
――そして、全員が必ず一度は出場しなければならない。
そのルールの重みが、教室全体を静かに包み込んでいた。
「中間テストと期末テストの組み合わせ、悪くなかったよな」
夜騎士が王位に話を振ると、王位は小さく頷いた。
「オレもそれ思った」
風悪も同意するように言う。
過去の連携戦――中間・期末での組み合わせは、確かに好成績を残していた。
「黒八は一ノ瀬とだったか?」
「はい、そうですよ」
黒八が穏やかに答えた。
あのときは一ノ瀬の制圧――菌糸による制圧力において最強クラスだった。
「いっそ四月を個人で出して、一ノ瀬と黒八を組ませるか?」
風悪が提案する。
「一ノ瀬さんの個人戦の弱点は“制圧しきれなかった時”にある。制圧できれば強いが、その分、彼女自身に物理的な力はない」
王位が冷静に分析する。
海皇高校との決闘で、一ノ瀬が自力戦闘に不向きであることは明白だった。
だが、見えない“糸”による制圧は――戦局を一瞬でひっくり返すほど強力だ。
「それに、個人戦ってことは、“個で強い”相手が出てくるのは明白。四月を個人戦に出すのは、確かにありかもな」
王位がさらに思考を深める。
四月――雷神。戦闘において、彼女は戦略そのものだ。
そのとき、ドアが開いた。
「おはよー」
「おはよう!」
五戸は気だるげに、鳩絵は元気いっぱいに挨拶しながら部屋に入ってくる。
「どうなった?」
「今、決めてるところですよ」
黒八が朗らかに答えると、五戸は椅子に腰を下ろして腕を組む。
「はー、あんましやる気出ないのよね〜」
「課金に繋がらないとやる気出ないの、このしろちゃんの悪いとこ」
「なにをー!?」
鳩絵の鋭い突っ込みに、五戸が机を叩いて反論。
クラス中に笑いが広がる。
いつもの日常――そんな空気が、久々に教室に満ちていた。
「中間と期末で言えば、オレと辻か……」
風悪が言うと、隣の辻が静かに頷いた。
その無駄のない反応に、夜騎士が軽く笑う。
「辻と風悪、三井野と凶、二階堂と七乃さん、一ノ瀬さんと黒八さん。これをベースに決めていこう」
王位が腕を組みながらまとめる。
全員の視線が集まった。
「あたしは燦とがいいー!!」
妃が教室のドアを勢いよく開け、手を挙げながら叫ぶ。
王位はため息をつき、軽くあしらった。
「三井野とオレと愛主ってわけか」
夜騎士が眉をひそめると、すかさず妃が叫ぶ。
「あたしだって、あんたとは嫌よ!」
声が教室中に響く。
誰も止められない。
「一ノ瀬はどう思う?」
風悪が穏やかに問いかける。
一ノ瀬はすぐにスマホを取り出し、素早く文字を打ち込んだ。
『いつも一緒にいるこのしろちゃんか、かじかちゃん居れば安心』
その画面を見せると、教室中が一瞬だけ和む。
一ノ瀬らしい――静かながらも温かい回答だった。
やがて議論がまとまり、王位が最終確認を取る。
「辻と風悪と鳩絵さん。三井野と凶と愛主。二階堂と七乃さんとボク。一ノ瀬さんと黒八さんと五戸さん……
個人戦は四月と六澄でいいかな?」
「異議なし」
王位の言葉に、クラス全員がうなずいた。
ようやく――A組のチームが決まった。
「はー……決まった。決まったら決まったで、なんか緊張してきた」
三井野は机に突っ伏しながら唸る。
「私も緊張してきました……皆さんの足を引っ張らないよう、頑張ります」
黒八が苦笑いを浮かべて言う。
そんな二人を見て、妃が立ち上がり、勢いよく拳を掲げた。
「ええい! A組! 頑張るわよ!!」
その声が、教室いっぱいに響いた。
笑い声と拍手が重なり――
秋の午後、A組の士気は静かに、しかし確かに燃え上がっていた。
主なキャラ
・風悪…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。
・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。
・二階堂秋枷…黒いチョーカーをつけている少年。
・三井野燦…左側にサイドテールのある少女。
・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。
・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。
・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。
・七乃朝夏…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。
・黒八空…長い黒髪の少女。お人よし。
・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。
・辻颭…物静かにしている少年。
・夜騎士凶…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。
・妃愛主…亜麻色の髪を束ねる少女。
・王位富…普段は目を閉じ生活している少年。
・宮中潤…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。




