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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
八章・風が笑う日

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第八十九話 静寂を裂く声

 ――翌日、放課後。


 十三部の面々は一年A組に集まり、全員で情報の共有を行っていた。

 ユイという少女が“魔の模造品”であること。

 そして、B組の生徒全員が彼女の支配下に置かれ、人質同然の状態であること――

 そのすべてを包み隠さず話した。


 教室には四月(しづき)以外のA組メンバーが顔をそろえていた。

 昼間の喧騒は消え、夕陽が窓から差し込み、机の上に長い影を落としている。


 沈黙の中で、誰かの拳が静かに机を叩いた。


「ユイ……あいつが」


 怒りをあらわにしたのは、五戸(いつと)このしろだった。

 かつて、自分の友を“願い札”によって狂わせ、魂を濁らされた張本人――

 彼女にとって、ユイは決して許せない存在だった。


「さわらちゃん、やろう。何なら、私の異能も捕縛には使える。

 ユイって奴を、吊るし殺してもいい」


 声が震えていた。

 憎しみだけではない、悔しさと、あの日救えなかった自分への怒りが滲んでいた。


 一ノ瀬さわらは、静かに頷いた。

 声を出せない彼女のその仕草は、短く、けれど確固たる意思を宿していた。

 菌糸の主は、無言で“共に行く”と告げている。


「……ただ、何か仕掛けてるかもしれない。慎重に行こう」


 王位が穏やかに言葉を挟む。

 その声音には冷静な判断と、仲間を守るための警戒が滲んでいた。


 その時だった。

 教室の扉が、カチリと音を立てて開いた。


 全員が一斉に振り向く。


 そこに――ユイが立っていた。


 白い髪が夕陽に照らされ、淡い赤の瞳が光を帯びている。

 その姿は穏やかで、しかし異様なほど“場違い”だった。


「ユイ……」


 風悪(ふうお)が小さく名を呼ぶ。


「あんたが……!」


 五戸が椅子を蹴って立ち上がり、今にも掴みかからん勢いで叫ぶ。

 だが、王位が素早く手を伸ばし、彼女の肩を押さえた。


 ユイは感情のない笑みを浮かべながら、静かに口を開く。


「私を殺しますか?」


 その声は柔らかく、それでいて底の見えない深淵を含んでいた。

 教室の空気が一瞬にして凍りつく。


「けれど――B組の皆さんへの支配は、止まりませんよ?」


 淡々とした声。

 まるで事実を述べるだけのように、ユイは言った。


 そのままゆっくりと教室内を見渡し、視線を一ノ瀬へ向ける。


「一ノ瀬さんは、ずっと“捕縛”し続けるつもりですか?」


 挑発的な微笑。

 まるで、一ノ瀬の限界を試すかのように。


 一ノ瀬の表情がわずかに変わる。

 唇が固く結ばれ、目の奥で怒りの火が燃え上がる。


「こいつ……」


 妃が低くうなった。

 全員の指先がぴくりと動き、異能の発動の気配が走る。


 しかし、王位が小さく首を横に振る。

 誰も軽率に動けなかった。


 ――分かっていた。

 ユイを殺したところで、B組の生徒たちの自殺行動は止まらない。

 捕縛しても止まらない。

 そう、ユイ自身がそう“言っている”のだ。


 彼女はその構造を、完全に理解した上で――笑っていた。


「このクラスはいいですね。羨ましいです。

 本当はこちらに入りたかったのですが……仕方ありませんよね」


 ユイは相変わらずの無機質な表情で、微笑ともつかない薄い表情を浮かべていた。

 その声音には感情の温度がまるでない。

 それがかえって、教室の空気を凍らせる。


「仲間に入れてもらおうって……そういうことか」


 六澄(むすみ)が淡々とした声で言った。

 その口調には怒りも驚きもない。

 ただ、冷たく観察しているような響きだった。


 鳩絵が不安げに首を傾げる。


「はい。私も皆さんと、学園生活を送ってみたかったんです。

 だって――“創造主”も、“魔の檻”も、学園を楽しんでいるのに。

 私だけが、仲間はずれなんですもの」


 ユイの赤い瞳がゆらりと揺れる。

 そこに浮かぶのは、悲しみか、それとも嘲笑か。

 彼女自身にも分かっていないのかもしれなかった。


「……“創造主”? “魔の檻”?」


 王位が眉をひそめ、誰もが息を呑む。

 その言葉が意味するものが、あまりに重い。

 “創造主”――この世界を作った者の名。

 “魔の檻”――“魔”が誰かの中に居る暗示。


 なぜユイがそれを知っている?

 彼女はまるで、全てを見てきたかのように、それを“自然に”口にした。


 誰も言葉を返せないまま、ユイは微笑を残して一歩下がった。


「それでは皆さん。――よい学園生活を」


 淡々とした声を残し、彼女はA組の教室を後にした。

 扉が閉まる音が、妙に長く響いた。


 静寂。

 誰も動かない。誰も息をしない。


「くそっ!!」


 五戸このしろが机を叩き、拳を震わせた。

 その声が教室の沈黙を破る。


 一ノ瀬がそっと五戸の背に手を置いた。

 彼女は、共に怒りを共有するだけだった。


「……いったい、どうすれば」


 三井野が小さく呟く。

 その言葉が、誰の心にも重く沈んだ。


 夕陽が窓の向こうで傾いていく。

 その光の中で、誰もが――ユイの言葉の意味を反芻していた。


 同刻、ⅩⅢ監視棟。


 暗い室内で、宮中(みやうち)潤が無言のままモニターを見つめていた。

 モニターには学園全域の因子波形が映し出されている。

 無数の青い線が、ひとつの点――“一年B組”を中心に脈打っていた。


「-02y……この因子は、ユイのものか」


 マスクの下から、低く押し殺した声が漏れる。


 その隣で四月レンが端末を操作し、データを読み上げる。


「支配は強力だ。-02y因子がB組全員から反応している。」


 四月の声は静かだが、その表情にはわずかな怒りが見えた。


「どうしますか? 師――」


 宮中が言いかけた瞬間、四月はそれを遮るように言葉を放つ。


「ⅩⅢへ報告を。

 ――上位封印局長を呼べ。」


 短く、しかし決定的な言葉だった。


 宮中の目が大きく開かれる。


「……何を──、あの権限を使う気か」


「ああ。

 ――B組もろとも、封印する」


 四月の瞳に、淡い光が宿った。

 迷いも、躊躇もなかった。


 沈黙。

 機械の稼働音だけが、遠くで唸っている。


 モニターの中央では、B組の教室が静かに映っていた。

 その中央に――笑うユイの姿が、はっきりと映っていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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