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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
八章・風が笑う日

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第八十五話 風と菌糸、動く日

 一ノ瀬さわらは、静かに怒りの炎を燃やしていた。

 その眼差しは冷たく、しかし揺るぎない光を宿している。


(……これは、魔の真似事)

(“願いを叶える”という餌を与え、殺し合わせる――狂気への誘い)


 彼女はその構造を理解していた。

 それがただの暴走ではないことも。

 背後で蠢く“誰か”の意志があることを。


 この学園で起きた異能現象の裏を追ってきたのは、十三部だけではない。

 一ノ瀬、五戸(いつと)、鳩絵、六澄(むすみ)――

 この四人もまた、独自に“魔”を追っていた。


 そして、今回の“魔に似た別の存在”。

 それは単なる模倣ではなく、“魔”に憧れた存在。

 その正体は、五戸の過去とも深く関わっていた。


 一ノ瀬は何も言わず、指先から菌糸を放つ。

 見えない糸が蛇のように伸び、武器を手にした生徒の腕と足を絡め取った。

 抵抗する間もなく、相手は床に倒れ込む。


「さわらちゃん! これって!」


 鳩絵が叫びながら走り寄り、ペンを振る。

 彼女の異能〈具象化の描写〉が発動し、

 生徒の手にあった黒い武器が、瞬く間に“絵”へと変わった。


 一ノ瀬は頷く。


「どういうことだ?」


 風悪(ふうお)が混乱した様子で問いかける。

 黒八(くろや)も隣で、状況を読み取ろうと眉をひそめた。


 言葉を発せない一ノ瀬の代わりに、鳩絵が前に出て叫ぶ。


「今はまず、武器持ちの生徒を抑えて!」


 その声に、A組の生徒たちが動いた。


 四月(しづき)からも通信が入る。


『こちら制圧中。そっちは頼んだ』


 夜騎士(よぎし)が短く返す。


「了解。十三部、出動!」


 号令と同時に、教室側で大剣を持った生徒が暴れだした。

 周囲の机が砕け、風圧が走る。


 辻が前へ出る。

 風を纏い、爪を伸ばして構えた。

 刃と刃がぶつかり、金属音が鳴り響く。


 辻の爪が大剣の軌道を受け流し、床を蹴って一瞬で背後を取る。

 そして、踵を振り上げ――


 ドンッ!


 生徒の背中に強烈な蹴りを叩き込み、相手を気絶させた。

 だが、次の瞬間。


「後ろ!」


 別の生徒が背後から襲いかかる。

 刃が光る――その前に、風が割り込んだ。


 風悪の突風が襲撃者を吹き飛ばす。


「辻、大丈夫か!?」


 風悪が駆け寄り、手を差し出す。

 辻は短く「うん」とだけ答え、立ち上がった。


 廊下の向こうでは、妃が異能を発動していた。

 その能力は“異性限定の洗脳”。

 男子生徒たちが一瞬で動きを止め、力を失っていく。


 妃は冷ややかに微笑んだ。


「ごめんねー。少しだけ、おとなしくしてて?」


 男子生徒たちは糸が切れたように膝をつき、意識を手放す。


 そのすぐ隣。

 二階堂が襲われかけた瞬間、七乃が駆け寄った。

 精霊の光が彼女の手のひらに集まり、淡い結界を形成する。


「大丈夫ですか!? 秋枷(あきかせ)君!」


 七乃の声が響く。

 二階堂は盾の光越しに、驚いたように彼女を見つめた。


「う、うん。ありがとう……七乃さん!」


 精霊の結界が弾け、攻撃の波が止まる。

 A組の生徒たちはそれぞれの異能を駆使し、連携しながら“模倣魔の影響者”を抑えていった。


 混乱の中でも、

 一ノ瀬は静かに、しかし確実に状況を見極めていた。


(まだ終わっていない。この“声”の主――必ず突き止める)


 菌糸が再び広がり、光を帯びる。

 その中心で、一ノ瀬さわらの瞳だけが、鋭く光っていた。


 ――ステージ側。


 夜騎士が青黒い影を広げる。

 腕から伸びた影が形を変え、やがて大鎌へと変質した。

 その刃は空気を切り裂き、まるで闇そのものが形を得たかのようだった。


「退け――」


 夜騎士の声とともに、影の鎌が振るわれる。

 杖を持った生徒、槍を持った生徒、大斧を持った生徒。

 次々と立ちはだかる暴走者たちを、

 夜騎士は迷いなく打ち倒していく。


 青黒い残光が舞い、床を焦がす。

 彼の動きは鋭く、無駄がなかった。

 ただ、そこにあるのは“守るための刃”。


 ステージの上では、三井野がマイクを手にしていた。

 彼女の歌が風に乗り、観客席に響く。

 その旋律は人々の心を落ち着かせ、避難を促す。


「皆さん、落ち着いて――出口は右側です!」


 声は震えていたが、それでも必死だった。

 彼女の歌声に導かれ、生徒たちは安全地帯へと退避していく。


 一方、王位もまた光をまとっていた。

 掌に集まった光が、一本の剣となって形を取る。

 淡く白い輝きが、彼を照らす。


 迫る武器を受け流し、構えを崩さずに一人、また一人と倒していく。

 その所作には静かな重みがあった。


「無益な願いほど、脆いものはない……」


 王位は小さく呟き、剣を振り下ろす。

 光が弾け、最後の暴走者が倒れた。


 その頃、校舎裏の出店通りでは――


 五戸このしろと六澄わかしが、混乱の中を駆け抜けていた。


「どっかにいるはず!」


 五戸が息を切らしながら叫ぶ。

 その声に、六澄がふと足を止め、指を差した。


「このしろ、あれ」


 その先――人の波に紛れて、ひとつだけ“異質な屋台”があった。

 手書きの札が吊るされた、願い札屋。


 木札の香りと、淡い煙のようなものが漂っている。

 輪郭が霞んでいて、誰が店主なのかは見えない。


「あいつ……」


 五戸の顔が強張る。

 とん、とん、とん――。


 木を三度叩く癖。

 それは、彼女の記憶の奥に焼き付いている仕草だった。


「踏み込む! 今日こそ、捕らえる!」


 五戸は躊躇なく踏み出した。

 その瞬間――足元の床が、ぐにゃりと歪む。


「なにこれ!?」


 声を上げる間もなく、視界が闇に包まれた。

 光も音も消え、ただ無限の暗闇が広がる。


「……夢の中だな」


 六澄が淡々と呟く。

 その表情には焦りも驚きもなかった。


 暗闇の中で、どこからともなく声が響く。


『ね、私もね。仲間に入れてもらおうと思ったの』


 それは女とも男ともつかない声。

 柔らかく、だが底の見えない声だった。


「仲間……?」


 五戸は拳を握り、静かな怒りを滲ませる。


「お前が“魔の模倣”か……!」


 声の主は笑うように息を漏らした。


『だって、“魔”って――素敵じゃない』


 その言葉と同時に、暗闇の端が白く弾けた。

 五戸と六澄の身体が光に包まれ、現実へと引き戻される。


 ――次の瞬間。


 屋台は跡形もなく消えていた。

 風に木札の破片が舞い、地面に散らばる。


「逃げられた!」


 五戸は歯噛みし、悔しさのあまり六澄の足を軽く蹴った。


「……仲間に、ね」


 六澄は表情を変えぬまま、呟く。


「どういうこと?」


 五戸が問い詰めるが、六澄はただ肩をすくめた。


「さあ?」


 その声は、まるで他人事のように淡々としていた。

 だが、その瞳の奥には――わずかに光る何かが宿っていた。


 その頃、夜空には冷たい風が吹いていた。

 闘いの痕跡を残した校舎の上で、風が、笑っている。


 けれど――その笑みの中に、確かな“影”が潜んでいる気がした。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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