表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
八章・風が笑う日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/109

第八十三話 風が揺らぐ夜

 翌日に文化祭の本番を控え、学園は熱気に包まれていた。

 A組の教室にも完成した展示機材がずらりと並び、各班が最終調整に追われている。


「こっちの方がいいから!」

「派手すぎない?」


 五戸(いつと)と妃が、看板のデザインをめぐって言い合っていた。

 どちらも譲らず、机の上にはカラーペンと紙くずが散乱している。


「……もうどっちでもいいだろ」


 王位は半ば呆れ顔で椅子にもたれた。


 一方その横では、二階堂と七乃が真剣な表情でノートを広げていた。

 来客対応のマニュアルを作っているらしい。

 「いらっしゃいませ」をどう言うかで、既に五分ほど議論している。


 黒八(くろや)と辻は当番表を作成中。

 几帳面な黒八が担当時間を丁寧に書き込んでいく横で、辻は「サボり枠はある?」などと冗談を飛ばしていた。


 三井野は、音声確認のために小さく鼻歌を歌っている。

 その旋律を、夜騎士(よぎし)が真面目な顔で聞き取り、音響の設定を調整していた。


 そして、教室の隅。

 風悪(ふうお)と一ノ瀬は映像装置の最終チェックをしていた。


 風が光を運び、菌糸が映像を結び、精霊の粒が軌跡を描く――

 教室の中に、幻想的な空間が広がる。


「……これで完成、だな」


 風悪が息を吐き、微笑む。

 一ノ瀬は静かに頷いた。

 その瞬間――風が微かに揺らいだ。


 投影された映像の端で、“影”のようなノイズが一瞬だけ走る。


「今……」


 風悪が思わず立ち止まる。


「……?」


 一ノ瀬が首をかしげるが、再生し直しても映像は正常。

 ノイズは、どこにも見当たらなかった。


「気のせい……だった?」


 そう呟きながらも、風悪の胸の奥には小さな不安が残った。

 風の流れが、どこか違って感じられた。


 ──そのころ、B組。


 教室の中では「異能メイドカフェ “B’s♡Charm”」のリハーサルが行われていた。

 東風(こち)は完璧なマネージャーのように立ち回り、的確に指示を飛ばしている。


「もう少し笑顔を! お辞儀の角度は四十五度ですわ!」


 彼女の異能〈風操作〉は、空気の流れを整え、来客を“心地よくする”演出にも応用できる。

 風の香りを変え、室内の温度さえ微調整できるという完璧ぶりだった。


「A組の映像展なんて、地味すぎて眠くなりますわ!」


 と、高笑いしながら宣伝ポスターを貼りまくる心地。

 B組の生徒たちは「はいはい」と半ば呆れながらも、その勢いに押されて準備を進めていた。


 ――そのとき。


 背後の照明が、ふっと揺らいだ。

 風も吹いていないのに、光が波打つように揺れる。


「……?」


 心地の指先に、冷たい空気が触れた。

 異能を感知する感覚が、わずかに乱れる。


「……気のせい、かしら」


 すぐに首を振って気を取り直すが、

 その背後――照明の影が、一瞬だけ“逆方向”に揺れていた。



「当日のB組だけど……」


 五戸が口を開く。

 隣の妃がすぐに頷いた。


「分かってるわ、任せて」


 ふたりは先ほどまで看板の色合いを巡って揉めていたが、

 今は珍しく意見が一致していた。


「男子は全部、こっちの客にする」


 妃の瞳が怪しく光る。

 その異能――〈異性操作〉を使えば、男性客の心を一瞬で掴むことなど容易だった。


「任せた」


 五戸が笑みを浮かべる。

 まるで悪だくみの共犯者同士のようだった。


「……不正じゃない?」


 三井野が苦笑いを漏らす。

 しかし二人とも悪びれる様子はない。


 そんな中、教室の隅で椅子に腰かけていた四月(しづき)が口を開いた。

 いつもはⅩⅢ(サーティーン)の任務で居ないが、今日は珍しく居残っていた。

 

 その声はいつになく真面目な声色だった。


「そのことだが……」


「四月、電磁波は禁止だからね?」


 二階堂が素早く釘を刺す。

 七乃もうんうんと力強く頷いた。


 四月は軽く肩をすくめる。


「毒で食中毒を起こす。飲食系は信用第一だからな」


「余計ダメだよ!?」


 二階堂が勢いよくツッコんだ。


「安心しろ、死なない程度にする」


「全然安心じゃない!!」


「すまん冗談だ」


「言っていいことと悪いことあるからね!?」


 四月が淡々と返すたびに、教室のあちこちから笑いが起きた。

 空気は軽く、どこか和やかだった。

 長く続いた不穏な日々のあとに訪れた、ようやくの“日常”だった。


 やがて調整も終わり、片付けの時間になる。

 皆が帰り支度をする中、風悪は最後まで展示装置を確認していた。


 ――その時。


 背後から、風の流れが変わるのを感じた。

 何も触れていないのに、装置が自動的に起動する。


 スクリーンに光が走り、展示映像が再生を始めた。

 風の流れが逆向きに回転し、

 どこからともなく――聞こえるはずのない“風鈴の音”が響いた。


 風悪は立ち尽くす。

 その音に、胸の奥のどこかがざわめいた。


 画面の中では、風が揺れている。

 そして――

 光の反射の奥で、“もう一つの影”が微かに笑った気がした。


 風悪は一歩近づいたが、次の瞬間、映像はふっと消える。

 ただの機械的な停止音が残るだけ。


「……気のせいか」


 小さく呟き、風悪は教室を出た。

 夜の廊下には、涼やかな秋風が吹き抜けていた。


 夜。

 監視棟――ⅩⅢのモニタールーム。


「-02の沈黙……?」


 宮中(みやうち)潤が、淡く光る端末に目を走らせた。

 画面には奇妙なデータ波形が映っている。


「代わりに-02yが活性……これは、どういうことだ」


 静かな声が室内に響く。

 四月レンがその隣で、複数の波形を確認していた。


「魔はなりを潜め、代わりが動く……か」


 四月は小さく息を吐き、椅子にもたれた。

 青白い光が、その横顔を照らす。


「何が起ころうとしている……?」


 宮中の声は低く、しかしわずかに揺れていた。

 それは職務的な警戒というより――どこか“懸念”に近い響きだった。


 宮中は端末を閉じ、窓の外を見やった。

 夜風が吹き抜け、学園の灯が遠くで瞬く。


「……頼む、何も起こるなよ」


 呟きが静かに落ちた。


 その祈りを嘲笑うかのように、

 モニターの隅で、ほんの一瞬だけ“風の影”が波打った。


 ――期待と、わずかな不安。

 そのどちらともつかぬ感情を胸に、夜は更けていく。


 やがて夜明け。

 長月の空が、静かに白み始める。


 文化祭の朝が、訪れようとしていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ