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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
八章・風が笑う日

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第八十二話 準備開始・風が動く日

 長月も半ば。

 秋の風が、窓の外の木々をやわらかく揺らしていた。


 学園は文化祭に向けて活気づいている。

 どの教室も装飾や資材であふれ、笑い声と紙の擦れる音がそこかしこから聞こえた。


 A組も例外ではない。

 机の上には配線やモニター、筆記用具、ペンキの缶が散乱している。

 誰もが手を動かし、騒がしくも楽しげに準備を進めていた。


 ――ただ、一人だけ姿が見えない。


 四月(しづき)レン。

 ⅩⅢ(サーティーン)としての任務があるらしく、最近は学園に顔を出すことが少なかった。


「四月が居れば、もっとすごい映像取れそうなのに」


 辻がペンを回しながらぽつりとこぼす。


「いや、ダメだよ! 電磁波で脳に悪影響与えたらダメだよ!」


 二階堂が即座に否定した。

 以前の話し合いで出た“お化け屋敷案”――あのとき四月は、自身の電撃能力で幻覚を見せると宣言したのだ。

 当然、即却下された。

 だが、その能力は映像アートにも応用できるだろうと、誰もが少しは思っていた。


「お化け屋敷の話、伏線かよ」


 夜騎士(よぎし)が軽く笑いながらつぶやく。

 教室には、ほどよい空気が流れていた。


 そのとき、明るい声が響く。


「できた〜!」


 五戸(いつと)このしろが、ノートを掲げて立ち上がった。

 鳩絵が「どれどれ」と覗き込む。


「このしろちゃん、なにこの表!」


 鳩絵の顔が引きつった。

 そこには、手書きでびっしりと計算された「人件費換算表」が並んでいた。


「そういう時だけ知恵を絞るなよ……」


 王位が額に手を当ててため息をつく。

 五戸は胸を張り、なぜか誇らしげだった。


 その用紙はすぐに破棄され、教室はどっと笑いに包まれる。


「賑やかだな、ほんと」


 風悪が、どこか安堵したように呟いた。

 騒がしさの中に、確かな“日常”がある――そんな空気が心地よかった。


 ふと視線を向けると、一ノ瀬が黙々とパソコンに向かって作業をしていた。

 風悪は彼女の隣に歩み寄り、穏やかに問いかける。


「一ノ瀬、どんな映像にしたい?」


 問いに応えるように、一ノ瀬はノートを取り出してペンを走らせた。

 小さな文字で、丁寧に一行。


 ――『風が笑うような世界を』


 それを見た風悪の瞳が、やわらかく揺れた。


「……いいな、それ」


 微笑む彼の頬を、そっと秋風が撫でた。

 まるで風そのものが、彼女の言葉に応えるように笑っているかのようだった。


 昼下がりの教室。

 A組の面々が展示用の映像を調整している最中、

 勢いよく扉が開いた。


「A組の皆さん! わたくし達の勝ちですわね!」


 B組の東風(こち)心地が、両手を腰に当てて高らかに言い放つ。


「……まだ勝負、始まってもないけど」


 王位が呆れ半分に返した。


「今回は売り上げ勝負ですのよ!? 映像展でどうやって売上を取るおつもり?」

「入場料とか?」


 王位のぼんやりとした答えに、東風は勝ち誇ったように笑う。


「その程度で勝てるとお思いで? こちらは――“異能メイドカフェ”ですわよ! 客単価は上ですの!」


 完璧な自信。

 そして高笑いを残して、東風は華やかに去っていった。


 教室の空気が一瞬で変わる。


「……何さ、あいつー!」


 五戸が歯噛みしながら唸る。


「安心して、五戸。あたしに任せて」


 妃がすっと立ち上がる。

 その瞳に、きらりと妖しい光が宿った。


「嫌な予感しかしないんだけど……」


 風悪が小声で言うが、妃の耳には届かない。


 ――彼女の異能は、“異性操作”。

 どうやら本気で客を奪いにいく気らしい。


「なら、四月にも頼んでさ。電磁波で幻覚を見せて客を──」


 辻の口から出た瞬間、


「いや、ダメだからね!」

「そ、そうですわ!」


 二階堂と七乃のダブルストップが炸裂した。

 思わず辻は口をつぐむ。


「お化け屋敷の話、やっぱり伏線かよ」


 夜騎士がぼそっと呟くと、また笑いが起きた。


 そんな喧騒の中、

 風悪たちが組み上げていた映像装置が、ふと動作を始める。


 風の流れ、菌糸の揺らぎ、精霊光の粒。

 三つの異能が重なり、教室の壁一面に幻想的な光景が浮かび上がった。


「……綺麗」


 三井野が息を呑む。

 七乃が微笑んで、手を合わせた。


「そうですわ、三井野さんの歌も合わせましょう!」


「えっ、あ、わたしが……?」


 頬を赤らめる三井野。

 照れながらも、小さく頷いた。


 その瞬間――

 空気が一瞬ざらついた。


 投影映像の端に、ノイズのような黒い揺らぎが走る。


「……今、何か」


 風悪が小さく呟く。

 映像の奥に、一瞬だけ“影”が通り過ぎた気がした。


「どうかしましたか?」


 黒八(くろや)が心配そうに顔を向ける。

 風悪は首を振ったが、その胸の奥には微かな違和感が残っていた。


 夕暮れ。

 教室に残った一ノ瀬は、窓辺に映る風の映像を眺めていた。

 穏やかな風がカーテンを揺らし、彼女の髪を撫でていく。


 スマホに指を走らせ、短い言葉を打つ。


 ――『風が笑ってるみたい』


 それを見た風悪の胸の奥で、何かがそっと熱を帯びた。

 人工の身体のはずなのに、心の中で確かに何かが動いた。


 秋の夕陽が、静かに差し込む。

 平穏な一日。

 けれど――それはほんの束の間のことだった。


 夜。監視棟。


 モニターの前に立つ宮中(みやうち)潤が、低くつぶやいた。


「……コード -02、魔の因子反応を検知」


 隣で端末を覗き込むのは四月レン。

 青白い光が彼の顔を照らす。


「-02yもかすかに反応してる……何も起きなければいいけどな」


 四月の瞳が、わずかに細められた。

 その奥には、冷静さと――かすかな不安の色。


 夜の学園に、風が吹いた。

 笑っていたはずの風が、今はどこか、ざわめいているように思えた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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