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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第七章・風鈴と鬼火

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第八十一話 長月、風が笑う日

 長月も半ば。

 学園は文化祭の準備で賑わいを見せていた。

 廊下では紙や布の匂いが混ざり合い、教室にはいつも以上に人の声が響いている。


 A組も例外ではない。

 黒板には「出し物案」と書かれた文字。

 その下に、誰かが書き殴ったような案がいくつも並んでいた。


「……文化祭って、何すんだ?」


 風悪(ふうお)が首を傾げる。

 外から来た人工妖精である彼には、そういった“学生行事”の記憶などない。

 思い出せるのは、妖精として改造された無機質な部屋の映像だけだった。


「クラスで出し物をする感じでしょうか」


 黒八(くろや)が穏やかに答える。

 その声には、いつもの柔らかさがあった。


「出店とか並ぶんだよ。あとはカフェとか劇とか」


 夜騎士(よぎし)が説明を加える。

 興味があるのかないのか、机に肘をついたまま淡々と。


「なんでも良いのか?」

「予算の範囲内で、かな」


 風悪の素朴な質問に、王位が目を閉じたまま答えた。

 彼の声は静かで、少しだけ思案を含んでいた。


「オレ、中学の時まともに参加してない」


 辻が小さく呟く。

 彼は人付き合いを避けていた過去がある。

 その瞳の奥に、かすかな影が差していた。


「じゃあ高校では、一緒に盛り上がろうぜ!」


 風悪は明るく笑った。

 その無垢な笑顔に、辻も短く「うん」と頷く。


「でもさ……何する?」


 二階堂が言葉を続ける。

 七乃も隣で「確かに」と頷いていた。


「ねえねえ! 売上から報酬貰える? 人件費!」


 五戸(いつと)がスマホを操作しながら、元気よく声を上げる。


「出るわけないでしょ、このしろちゃん!」


 鳩絵がすかさず突っ込んだ。

 教室が笑いに包まれる。


「はいはい! あたしが王子役で、残り女子みんながヒロインの劇やりたい!」


 妃が自信満々に手を挙げる。


「男子は?」と三井野が尋ねると、

「端役だけあげる」

 と即答。三井野は苦笑するしかなかった。


 ――そんな中。


「ちょっと! A組、煩いですわよ!」


 勢いよく扉が開き、B組から東風心地(こち ここち)が乗り込んできた。

 復帰後も変わらぬエネルギー。彼女らしい登場だ。


「何よB組。そっちだってワイワイやってるでしょ?」


 五戸が椅子の背にもたれながら言い返す。


 四月(しづき)六澄(むすみ)、一ノ瀬は静観していた。

 火花を散らすふたりのやり取りを、まるで他人事のように眺めている。


「A組は煩すぎますわ!」


 東風がぴしゃりと言い放つ。


「なら、A組とB組で売上勝負でもする?」


 五戸の挑発に、東風はすぐさま顎を上げた。


「良いですわ。乗ってあげましょう」


 ふたりの間に、ピリッとした空気が走る。

 目に見えない火花が散った。


「まじ?」


 二階堂がぽつりと呟く。

 周囲のざわめきが、さらに大きくなっていった。


 こうして、休校明けの学園で――

 「復興記念文化祭」の開催が正式に決定した。


 A組対B組の売り上げ勝負もまた、学園長公認の“特別競技”として成立。

 優勝クラスには「異能使用許可+特別報奨金(学内ポイント)」が与えられるという。


「学内ポイントは、学園内で使える専用通貨だと思ってくれ」


 宮中(みやうち)が説明を締める。

 生徒たちはざわめき、五戸は机をばんっと叩いた。


「課金には使えないけど、節約にはなるか。よし、勝つわよ!!」


 勢いよく立ち上がり、拳を掲げる。

 その目は既に“勝負モード”だった。


「五戸は盛り上がってんな」


 夜騎士が冷静に言う。

 だがその口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

 ――彼もまた、文化祭という非日常をどこか楽しみにしていた。


「でもさ、休み時間にも話してたけど……何する?」


 王位が穏やかな声で切り出す。

 問題はそこに尽きた。


「異能が使えるんだから、生かしたいわよねぇ」


 妃が腕を組み、顎に手を当てて言う。


「おい、四月・六澄・一ノ瀬! さっきから黙ってないで、何か案出せよ!」


 夜騎士が促すと、静かに手を上げたのは四月だった。


「そうだな。ボク……いや、私がやるなら“お化け屋敷”だな」


「お化け屋敷……?」


 風悪が小さく息をのむ。

 四月は机に指を組み、薄く笑った。


「電磁波で、怖い幻想を見せてあげようじゃないか」

「脳に悪影響を与えようとするな!!」


 二階堂がすぐさまツッコミを入れる。


「恐ろしいですわね……」


 七乃が身をすくめ、黒八は苦笑いした。


「六澄君とかは……」


 三井野が訪ねる。


「自分は別に、何でも……」


 相変わらず関心が薄い。

 六澄の声は風のように淡かった。


 一ノ瀬は口を開こうとして、躊躇した。

 声を発せない彼女は、劇も接客も難しい。

 けれど、ふと何かを思いついたようにノートにさらさらと書く。


 ――『映像展示とかどうでしょう?』


「映像展示?」


 風悪が首を傾げる。


「絵を描いたり、映像を流したり……みんなの異能で“動くアート”を作るのも面白いかもしれませんね」


 黒八が補足する。

 その瞬間、教室に静かな感嘆が走った。


「いいじゃん、それ!」


 五戸がすぐさま反応した。


「A組らしいっていうか、バカ騒ぎより本格的でいいじゃない」


 妃も腕を組みながらうなずく。


「異能アート展……って感じか」


 王位がぼそりと呟き、風悪はにっと笑う。


「オレも、風で動かす展示とかやってみたい!」

「それいいな」


 夜騎士が頷く。

 “動く展示”――人工妖精としての風悪の力が最も輝く舞台だった。


「決まりね!」


 五戸が手を叩く。

 教室中にその音が響き、誰も異論を挟まなかった。


 ――こうして、A組の出し物は

 『異能アート&幻想展示館』

 に決定した。


 生徒たちはすぐに準備班と演出班に分かれ、文化祭に向けて動き出す。


 外では秋の風が吹いていた。

 妖精の翅を持つ風悪が、教室の窓辺でその風を感じながら小さく呟く。


「……なんか、楽しみになってきた」


 その言葉に、隣の辻が微笑んだ。


 ──学園は再び、笑い声に包まれていく。

 長く続いた静寂のあとに訪れた、ほんの束の間の“平和”の時間だった。


余裕が出来たので八章も毎日更新です。

主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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