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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第七章・風鈴と鬼火

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第八十話 風鈴の鳴る方へ

 一条会の事件から、数日が過ぎた。

 校舎は静まり返り、校庭の封印痕はまだうっすらと残っている。


 学園は休校状態。

 生徒たちはそれぞれの寮や家に戻り、ようやく訪れた“日常”を取り戻そうとしていた。


 だが、すべてが元に戻ったわけではない。


 群集熱の中心にされた少女――北乃ムラサキは、いまだ眠ったままだった。

 呼吸は穏やかだが、意識は戻らない。

 何を願い、何を見たのか。

 その答えは、いまも闇の中にあった。


 * * *


 一方、四月(しづき)レンは動き続けていた。

 未だ逃走中の一条会の残党を追って、各地を転々としている。

 過去視で痕跡を探すものの、敵が結界を張って逃げ込めば追跡は不可能。


「結界の中に逃げられたら、過去視なんて意味ないな……」


 そんな愚痴をこぼしながらも、彼女は歩みを止めなかった。


 * * *


 その頃、学園の近く――。

 夕暮れの光が赤く差すアパート前の公園に、三人の姿があった。


 風悪(ふうお)、一ノ瀬さわら、そして六澄(むすみ)わかし。


「六澄、ちょっといいか」


 風悪は呼び出した本人をまっすぐに見つめた。

 傍らの一ノ瀬は、スマホを握りしめたまま黙っている。


「回りくどいのはなしだ。単刀直入に聞く。

 お前――あの黒い妖精なのか?」


 風悪の声は静かだったが、確かな緊張が走った。

 半ば冗談、半ば本気。

 だが、内心は確信に近かった。


 六澄は一瞬、目を細めた。


「黒い妖精か……。

 あいにく、自分には“妖精の翅”なんてないが?」


 当然の返答だった。

 確かに、風悪にも、かつて見たラウロスにも、透明な翅があった。

 だが、六澄にはない。


 それでも――彼の雰囲気は、どうしても“あの存在”を思い出させた。

 声の調子、間の取り方、そしてあの冷たい笑み。


『……はぐらかさないで、ちゃんと答えて』


 一ノ瀬がスマホの画面に文字を打ち、見せる。

 六澄は小さく息を吐いた。


「はぐらかしてはいない。事実を述べているだけさ」


 表情は変わらない。

 まるで感情というものをどこかに置き忘れたように。


「お前は、あの黒い妖精と似てるんだ。

 見た目も、話し方も、雰囲気も。

 そして、あの言葉――“近くで見られてよかった”。

 ラウロスが言ってた、“見られなくて残念だった”って言葉に、似すぎてる」


 風悪は息を詰めながら言葉をぶつける。

 六澄の瞳は静かに光を宿し、どこか遠くを見つめていた。


「翅は妖精の力の源だ。

 それがない者を、妖精とは言わない」


「……力の源……」


 風悪がその言葉を繰り返す。


 六澄は一歩近づき、風悪の肩にそっと手を置いた。

 その指先は冷たい。


「自分のことより――君たちは、“魔”を追うべきなんじゃないのか?」


 その声は穏やかだったが、どこか底の見えない響きを持っていた。


 そして、囁くように耳元で言った。


「“魔”は――誰の中にいるんだろうな?」


 ぞくり、と風悪の背筋を冷たいものが走る。

 言葉の意味を理解する前に、六澄は背を向けて歩き出していた。


 夕焼けの光の中、黒い影がゆっくりと遠ざかっていく。


「六澄……」


 風悪がその背中を見送る。


 一ノ瀬がスマホに短く打った。


『わかし君、絶対なにか隠してる』


「ああ……」


 風悪は小さく頷いた。

 確信は掴めなかった。

 だが、胸の奥で“何かが繋がり始めている”のを感じていた。


 * * *


 遠くから、風鈴の音が響いた。


 ──チリン。


 夏の終わりを告げるような、かすかな音。


 風が止むと、残されたのは静寂と、

 心の奥に残るわずかな違和感だけだった。

 

 それが新たな章の始まりを告げていることを、

 まだ誰も知らない。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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