表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第七章・風鈴と鬼火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/109

第七十八話 背負う者たち

四月(しづき)の……過去……」


 風悪(ふうお)は夢を見ていた。

 群集熱が形を変え、世界を包むその中で、彼はただ立ち尽くしていた。


 見渡す限りの闇。

 その奥で、子供たちの声がこだまする。


「生きたい……」

「生きたい、生きたい、生きたい、生きたい――!」


 無数の声が重なり、渦となって吹き荒れる。

 風悪は耳を塞がなかった。

 痛みも、恐怖も、そのすべてを受け止めようとした。


(これが……四月の、過去……)


 胸の奥に何か熱いものが込み上げた。

 あの冷静な彼女が、なぜあそこまで強くなれたのか。

 なぜ“悪”を選んででも人を守ろうとしたのか。


 その理由が、今なら分かる気がした。


 風悪はゆっくりと目を閉じ、呟く。


「……生きたかったよな」


 風が揺れた。

 彼の頭の透明な翅が光り、柔らかな風が夢の中に広がる。

 群集熱が生む黒い靄を、優しく包み込むように。


「オレも、背負うよ――四月」


 その声は祈りのように静かで、

 夢の底を流れる“痛み”さえも穏やかにした。


 * * *


 現実――。


 四月レンは動きを止めていた。

 群集熱によって生まれた夢の中に囚われ、

 過去の記憶を繰り返し見せられていた。


 苦しみ、怒り、絶望。

 それでも彼女は立ち上がろうとしていた。


 そこへ歩み寄る白衣の女――久遠礼巳。


「これが、お前の限界だよ。

 群集熱の夢は、心を焼く。理性も意志も奪う。

 ……邪魔者は消す。私たちは還る」


 久遠の声が冷たく響いた、その瞬間だった。


 ――風が吹いた。


 優しい風。

 夢を撫で、靄を散らすような、穏やかな風だった。


 どこからか、声が届く。


「オレも、背負うよ――四月」


 その声に、四月の瞳が開く。


「……風悪」


 一言、名を呼び、顔を上げる。


 雷光が走った。

 次の瞬間、四月の姿が閃光と共に消え、久遠の懐に飛び込んでいた。


 蹴撃。

 久遠の身体が宙を舞い、壁を砕いて吹き飛ぶ。

 血飛沫が散る。


「馬鹿な……!」


 久遠が血を吐く。


 背後の研究員たちが慌てて端末を操作した。

 装置が唸りを上げ、風と群集熱が再び流れ込む。


 久遠の身体が紅い靄に包まれ、形を変えていく。

 肌が裂け、指先が枝のように伸び、骨が蠢く。


「外の風……制御可能……!

 これで、我々は“完全な理”へ還る!」


 その歓喜を、雷が貫いた。


 だが、弾かれた。

 靄が雷を散らし、久遠の身体はさらに膨張していく。


「ったく……お前に“背負える”わけねぇだろ」


 四月は小さく悪態をつくと、袖の中から一本のペンを取り出す。


 静かに、自分の左腕アームカバー越しに突き立てた。


 血が滲む。

 流れ出た赤に電気を通す。

 滲む血が電流を帯び、白い光を紅く染め上げる。


 流れた血が、刃の形を取る。

 夜騎士の“影装の大鎌”を思わせる、紅と雷の融合。


「――終わりだ」


 一閃。

 光が走る。

 久遠の無数の腕が四月を包もうとした瞬間、紅い刃がそれを断ち切った。


 鎌が風を裂き、雷鳴が響く。

 斬撃が久遠の身体を貫いた。


「無駄なことを……!」


 彼女は形を変えながら再生した。

 その瞬間、四月は鎌の形状を解除し、

 自らの血を久遠の体内に溶かし込む。


「な……何を――」


「毒だよ」


 その声には冷たさも怒りもなく、

 ただ、静かな哀しみがあった。


 身体が膨張し、内側から崩壊していく。

 靄がちぎれ、目が濁り、再生が止まる。


 毒。

 彼女の血は、毒耐性の特異体質を昇華させ、毒を生成するほどに至っている。

 当然、彼女血は毒の塊。


「……取り込んだ風は、言うことを聞いたか?」


 群集熱、風悪の風。

 久遠には制御できるはずもなかった。


「お……のれ……」


 最後に吐き捨てるような言葉を残し、

 久遠礼巳の身体は音もなく消えた。

 魔にも堕ちず、神にも還らず。

 ただ――空気に溶けるように。


 四月は大きく息を吐いた。

 風が吹く。

 優しい風。


 その風の中で、

 彼女は小さく呟いた。


「……ありがとう」


 その声は微笑のようで、

 祈りのようでもあった。


 風悪が目を開けたとき、そこは現実だった。

 夢の群集熱は消え、紅の靄も跡形もない。

 ただ、焦げたような匂いと、冷たい風だけが残っていた。


「……戻ってきたのか」


 息を整える間もなく、前方に人影が動く。

 流影(るえい)

 模唱異能者であり、一条会の信者のひとり。


「……しまっ――」


 反応が遅れた。

 流影の掌が伸びる。

 その刹那、風悪の身体が咄嗟に硬直した。

 影の槍が眼前に迫る。


 だが――届かなかった。


 黒。


 世界が、一瞬で黒に染まった。

 空気が沈み込み、光が吸い取られる。


「……っ!?」


 風悪が息を呑む。

 目の前で、流影の身体が闇に呑まれていく。

 叫び声が、まるで遠くの井戸の底から聞こえるように微かだった。


「た、たすけ……!」


 その声も、やがて掻き消える。

 闇の奥へ、完全に引きずり込まれた。


「この先は、真っ暗な闇だけだ」


 低く、冷ややかな声。

 振り向いた風悪の視線の先に、六澄(むすみ)わかしが立っていた。


 黒い闇の中心に、彼の姿は異様なほど静かだった。

 その瞳には光がなく、感情の欠片さえ見えない。


「六澄……」


 風悪は言葉を失った。

 その声の冷たさ、その佇まい。

 人間らしさが、まるで感じられない。

 

 六澄は淡々と、地面に手を下ろす。

 闇が波のように広がり、残っていた影たちを飲み込んでいく。


「今回は、近くで見られてよかった」


 ぽつりと零れた言葉。


 風悪の胸がざわついた。

 “見られてよかった”――

 それはまるで、あいつのような言い方だった。


 黒い妖精――ラウロス。

 その姿が、風悪の脳裏を過った。


「……どうした?」


 六澄が振り返る。

 感情のない声。

 ただ、淡々と観測者のように問う。


「お前……まさか……」


 風悪が言いかけた瞬間、六澄が再び口を開く。


「残党が残っている。片付けよう」


 それだけを言い、闇を走らせる。

 地面を這う黒が、影のように残敵を飲み込み、跡形もなく消していった。


 沈黙。

 そして静寂。


 風悪はその背中を見つめ続けた。

 六澄の放つ闇は、敵を消し去るためのものではない。

 もっと深く、もっと異質な“何か”のために存在している――

 そんな気がしてならなかった。


(六澄……お前はいったい、何なんだ……)


 風悪は息を詰めたまま、彼の姿を見つめる。

 六澄は振り向かず、闇の奥へと歩いていった。


 その足跡は音もなく、風だけが吹き抜けた。


 こうして、ひとつの戦いは終わった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ