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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第七章・風鈴と鬼火

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第六十八話 祈りは熱、熱は魔


 引き続き放課後。

 日が沈みかけ、学園の門の影が長く伸びていた。

 空は茜から群青へと変わりはじめ、街のざわめきがゆるやかに夜に飲まれていく。


 風悪(ふうお)黒八(くろや)と並んで歩いていた。

 放課後の帰路、いつもと変わらぬ道。

 けれど、風の流れが妙に重かった。


「……なんか、変な風」


 黒八が立ち止まり、首をかしげる。

 風悪も翅を微かに震わせた。


「風が……濁ってる」


 彼の声が低くなる。


 次の瞬間、角を曲がった先――

 薄暗い公園の中央に、人だかりが見えた。

 誰もがうつむき、手を組み、同じ言葉を繰り返している。


「祈りは熱、熱は魔、魔は力……」

「祈りは熱、熱は魔、魔は力……」

「祈りは熱、熱は魔、魔は力……」


 低く、抑揚のない声。

 それはまるで呪詛のように、空気を震わせていた。


「……これ、さっきのチラシにあったやつ……」


 黒八が息を呑む。


 人の輪の中心――

 黒衣を纏った女が立っていた。

 その声は、異様に澄んでいた。


「恐れず、共鳴せよ。」


 女が右手をかざすと、円陣を囲んでいた数人の生徒の体が、黒い靄に包まれた。

 靄が皮膚を侵食し、瞳が赤く濁る。

 暴走。


「……失敗作か」


 女は冷たく吐き捨てると、影のように揺らめいて消えた。


「風悪君、あれ!」


 黒八の声に、風悪が反応した。


「魔による暴走……!」


 風悪は翅を震わせる。

 風が走る。

 暴徒の群れを包み込むように、空気が円を描いて巻き上がる。


 


 黒八の髪が靡く。

 風悪は歯を食いしばり、風の層を一気に収束させた。


 ――ドン、と低い音。


 暴徒たちは宙に浮かび、力を奪われて地面に崩れ落ちた。

 気を失っている。


「……今の、なんだったんだ」

「人が急に暴走……。それも、人為的に見えました」


 黒八の声が震える。

 風悪も、眉をひそめたまま応えなかった。

 誰かが仕組んだ。

 それだけは確信できた。


 *


 一方その頃、市街を走るバイクの音が風を切っていた。

 運転するのは宮中(みやうち)潤。

 背に乗るのは、四月(しづき)レン。


「……魔によって暴れだした、か」


 四月が無線からの報告を聞きながら呟く。


「師、どうしますか?」


 宮中の声は低く落ち着いていた。


「先に行く」


 四月は短く答え、バイクの後ろから軽やかに飛び降りた。

 宮中はその背を見送る。

 ヘルメット越しの視線に、ほんの一瞬だけ哀しみが宿っていた。


「……まったく、危なっかしい人だ」


 *


 学園外れの広場。

 風悪たちはまだ、倒れた暴徒の確認をしていた。


「全員、気絶してるだけです」


 黒八が息を整えながら報告する。

 その時、背後で風が裂けた。


「遅かったか」


 聞き覚えのある声。

 振り返ると、四月レンが立っていた。


「四月!」

「四月さん!」


 風悪と黒八が駆け寄る。


 四月は辺りを見回しながら、淡々と言った。


「どうも後手に回りがちなのは、我々の弱点だな」


 ⅩⅢ(サーティーン)――それは基本的に“事後対応”の組織。

 事件が起きてから動く。

 予防策も講じているが、異能犯罪に先んじることは難しい。

 特に、四月の“過去視”という能力では。


「四月、こいつら──」


 風悪が言いかけた瞬間、四月が言葉を挟んだ。


「知ってるさ。一条会の連中だろ?」


 風悪は目を見開く。

 だが、すぐに納得の表情に変わった。


「“魔”による異能の強化。

 理性を保ったまま契約を果たす“魔堕ち”――それを目指すのが、奴らの目的だ」


「なっ……!」


 風悪と黒八が同時に息を呑む。

 四月は視線を落とし、淡々と続けた。


「学校も狙われる可能性がある。

 十三部も気を引き締めておけ」


 その言葉とほぼ同時に、宮中のバイクが広場に滑り込んだ。

 彼は状況を確認すると、マスクを外した。

 露わになった舌には、逆五芒星の魔方陣が刻まれている。

 彼は舌先を噛み、血を一滴地面へ落とした。


 瞬間――青い光が地を走る。

 逆五芒星を起点に、空間転送の陣が展開された。


「異能──起動」


 倒れていた暴徒たちの身体が光に包まれ、ゆっくりと消えていった。


「保護完了。……一条会、やはり動き始めたか」


 宮中の声は、わずかに苦く響いた。

 風悪はその様子を見つめながら、空を仰ぐ。

 風が、少しだけざわめいた。


 まるで、何かが――“目を覚まそう”としているかのように。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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