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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第七章・風鈴と鬼火

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第六十七話 昼の光と、一枚のチラシ

 翌日。

 切ノ札(きりのふだ)学園・一年A組。


 秋の気配はまだ遠く、

 教室の窓から吹き込む風は、夏の名残を色濃く抱いていた。

 空は少しずつ高く、白い雲がゆるやかに流れていく。


 そんな昼のこと――。


「このしろちゃん、お弁当食べよ!」


 鳩絵(はとえ)が声を弾ませ、五戸(いつと)を手招きする。


 机を囲むのは、いつもの四人。

 一ノ瀬さわら、五戸このしろ、鳩絵かじか、そして六澄(むすみ)わかし。


 一ノ瀬、五戸、鳩絵はそれぞれ弁当を開く。

 六澄だけは、白いパッケージの固形栄養食を静かに口へ運んでいた。


「そんなので、よく足りるわね〜あんた」


 五戸が眉をひそめて言う。


「……食に興味は無い」


 六澄は淡々と答える。

 感情の起伏もなく、ただ事実だけを述べる声。

 本当に興味がないらしく、数分も経たずに食べ終えてしまった。


風悪(ふうお)君、今日はどうしますか?」


 隣の席の黒八(くろや)が、明るく声をかける。

 風悪は弁当を持ってきていなかった。

 いつものように、短く答える。


「学食、行く」

「なら、オレらも行くかー」


 夜騎士(よぎし)が伸びをして立ち上がる。

 王位も無言で後に続いた。


 教室の一番前――。

 四月(しづき)レンは、ノートの隅に何かを書き込みながら、

 無表情のまま小さな錠剤を水で飲み下していた。


 風悪は、ふとその姿に目を留めた。

 六澄、四月。

 どちらも“食”に対して異様に無頓着だ。


 少食な辻とは違う。

 もっと、根の深い何か――

 それを、この時の風悪はまだ知らなかった。


 *


 放課後。

 日が傾きはじめた校門の前で、腕章をつけた人物がチラシを配っていた。


「是非、集会へ来てください!」

「どうぞ、よろしくお願いします」


 何気なく通りかかった風悪は、一枚を受け取った。

 黒八も隣で覗き込む。


 紙には、太い筆跡でこう書かれていた。


 ――一条会。


 下にはスローガンめいた言葉。


『共に修行を重ね、“高み”を目指しましょう!』


「……高み?」


 風悪が眉を上げる。


「“修行”ってのも、ちょっと気になりますね」


 黒八が真面目な声で呟いた。


「黒八、まさか興味あるの?」


「いえ……そういう意味ではなく」


 黒八は首を傾げ、チラシを光に透かす。

 紙の隅に、奇妙な紋が見えた。


 “円”の中に一本の線――“一条”の印。


「なんか、きな臭いですね」

「壺でも売られたりして」

「……あ〜」


 二人は顔を見合わせ、同時に苦笑した。

 そんな他愛もないやり取りの間を、

 ぬるい風がすり抜けていった。


 夏の残り香が、まだ校門の上に揺れていた。


 *


 同刻・ⅩⅢ(サーティーン)本部


 分厚い強化ガラス越しに、都市の夜景が見える。

 青白いモニターの光が、部屋の空気を冷たく染めていた。


「師、過去視で追えないのですか?」


 黒いマスクの男――宮中(みやうち)潤が問いかけた。

 その声音には、焦燥をかすかに滲ませながらも冷静さを保っている。

 四月レンは、無言で端末を操作していた。

 画面には複数の波形データ。

 時系列を遡るごとに途切れ、ノイズが増えていく。


「一度襲撃してから、すぐに対策を組まれた。

 結界の中だ。……見えない」


 淡々とした返答。

 けれど、その一言には確信があった。

 ⅩⅢが追っているのは――一条会。

 最近になって学園内外で“勧誘”を始めた、正体不明の集団。

 その実態は、〈魔堕ち〉を理想とする信仰組織だった。


 四月の過去視をもってすれば、追跡など容易いはずだった。

 だが、今の彼女には“見えない”。

 異能の干渉を拒む無効化領域。

 その領域を、彼らは結界術によって人工的に生み出していた。


「……オレ――いや、私の異能は“過去”を視る。

 “未来視”や“予見”はできない」


 四月は端末を閉じ、宮中を振り返る。

 静かな笑みを浮かべながらも、目は笑っていなかった。


「“本体の私”なら……いや、それを言い出したら、この世界を救えてるか」


 冗談のような言葉。

 だがその口調には、どこか諦観が混ざっていた。


 宮中は腕を組み、低く呟く。


「なら、どうしますか」

「……私のやり方では、後手に回るな」


 四月はモニターの映像を切り替える。

 そこには、昼の学園の映像――

 校門前で配られる“ある紙”が映っていた。


 白地に黒筆の文字。


 ――《一条会》


 四月の指が止まる。

 そして、淡々と呟いた。


「……彼ら、“動き出した”か」


 立ち上がる。

 椅子が軽く軋んだ。


「宮中、現地に向かう。学園周辺にチラシがばら撒かれてる」


 四月が歩き出す。

 警告音が鳴り、モニターに“異能反応”の赤いラインが走った。


「祈りは熱、熱は魔、魔は力……」


 宮中が、そのフレーズを小さく復唱した。

 まるで、呪いのように。


 夜のⅩⅢ本部を、青い警報灯が照らす。

 ――学園で配られた一枚のチラシを発端に、

 また“風”が動き始めていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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