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魔を滅ぼすために造られた少年は、異能学園で仲間と出会う ― ⅩⅢ 現代異能戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第二章・風が交わる日

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第二十一話 陽の記憶

 黒八(くろや)空の中に宿る“太陽”は、

 この世界のものではなかった。


 彼女の魂の奥底に眠る存在――

 それは、遥か遠く、“外の世界”から来たもの。


 そこでは、彼を太陽神と呼んだ。

 天を照らし、季節を巡らせ、命を芽吹かせる者。

 十柱の太陽が交代で空を渡り、

 世界に昼を分け与えていたという。


 だが――ある日、ひとつの声が天に響いた。


 > 「太陽は、一つでいい」


 それは人間の言葉だった。

 文明を手にした者たちは、

 光の秩序を“制御”しようとした。


 やがて太陽神たちは弾かれ、封じられ、墜とされた。

 天から追放された九柱。

 その中の一柱が、光を失いながら逃げていた。


 逃げても逃げても、夜は追ってくる。

 肉体は裂け、光は血のように滴り、

 ついに世界の縁で力尽きた。


 そして――落ちた。


 世界と世界の狭間を通り抜け、

 この“新しい世界”の形成に巻き込まれる形で、

 彼は取り込まれた。


 時間軸が歪み、記憶は薄れ、

 気づけば、荒れ果てた地でひとつの光が息絶えかけていた。


 ――その時。


 「大丈夫ですか?」


 澄んだ声が、弱った彼の耳に届いた。


 見上げると、そこに少女がいた。

 風のように柔らかい髪、どこまでも真っ直ぐな瞳。

 黒八空――この世界の少女だった。


 彼女はためらわず、倒れ伏す太陽へと駆け寄った。


 「放っておけ……直に、消える」

 遠くで、少年の声が聞こえた。

 辻――後に“鎌鼬”と呼ばれる少年だ。


 けれど黒八は首を振った。


 「そんな……そんなこと、できません!」


 彼女は迷わなかった。

 どんな危険があるかも分からず、ただ――助けたいと願った。


 「あなたを助けるには、どうしたらいいですか?」


 震える声で問う。

 太陽は目を閉じ、しばらく沈黙した。


 「……もう、遅い」


 息をするたびに光が零れる。

 それでも黒八は彼の手を握りしめた。


 「何か方法は、あるんでしょう?」


 その言葉に、太陽は初めて顔を上げた。

 その瞳には、微かな驚きと――温度があった。


 「……なぜそこまで。見知らぬ他人のために?」


 当然の疑問だった。

 この世界で、そんな無償の行為をする者はほとんどいない。


 黒八は少しだけ笑って言った。


 「私、性善説を信じてるわけじゃないんです」


 太陽はまばたきをした。

 意外な返答だった。


 「でも――もし、目の前で子どもが井戸に落ちそうになったら、助けます」

 「……他人の子でも?」

 「もちろんです」


 黒八はまっすぐに言い切った。

 その声音は強く、けれど優しかった。


 「私、たぶん、そういう人間なんです」


 太陽は一瞬だけ息を漏らした。

 それは笑いとも、ため息ともつかない音だった。


 「……変な奴だな」


 小さくこぼれた言葉に、黒八は微笑みを返した。


 「方法は……あるには、ある」

 「では!」


 黒八が勢いよく身を乗り出す。

 その真剣な顔を見て、太陽はわずかに眉を下げた。


 「勧めはしない。この身体はもう滅ぶ。だが、魂だけなら――お前の中に入ることはできる」


 「魂を……?」


 「お前が器となれば、オレはその中で生きられる。だが拒絶反応が起きれば……お前も死ぬぞ」


 黒八は息をのむ。

 それでも目を逸らさなかった。


 「それでも――助けます」


 即答だった。

 迷いなど、一片もなかった。


 太陽は目を細める。

 それは、遠い昔に見た“光”のような笑みだった。


 「お前の中で眠るのも、悪くはないか……」


 その言葉とともに、光が彼女を包み込む。

 温かく、痛く、けれど穏やかな感覚。


 こうして、黒八空の中に“太陽”が宿った。


 そして今――

 彼は静かに彼女の中で息づいている。


 > 「元の世界に未練はない。

 > ならば、この世界で、空と共に生きよう」


 それが、太陽の本心だった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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