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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能学園戦線  作者: 神野あさぎ
第二章・風が交わる日

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第十九話 鎌鼬の記憶

 辻颭(つじ せん)は、いつだって静かだった。

 教室の窓際に座れば、風の中へと溶けていくように存在が薄れ、放課後の校門では誰よりも早く人の群れから離れた。

 その外見は穏やかで、誰にでも無害に見える。


 けれど、その胸の奥には――絶えず疼く何かがあった。


 名づけるなら、それは“斬りたい”という衝動。

 理屈も意味もない。ただ、鋭く確かな欲求。


 最初は虫だった。

 翅の動きを止めるだけで、ほんの少しだけ心が静まる気がした。

 次に小さな動物。

 やがて、もう少し大きな命へと手を伸ばしていく。


 それでも彼は、人を傷つけることだけは避けていた。

 自分の中に巣くう「異質さ」を外へ吐き出すように、他の生き物でどうにか発散していたのだ。


 けれど――限界は、すぐに来た。


 中学に上がる頃、辻は人を選び始めた。

 夜の路地裏。


 噂話の中で「悪」と呼ばれる者たち。

 他人を踏みにじり、誰かを傷つける人間。

 辻は静かに、その影を断っていった。


 罪悪感はなかった。

 相手が悪である限り、それは“正しいこと”だと信じられた。


 正義を掲げるその行為は、彼にとって免罪符のようなものだった。

 だからこそ、警察もⅩⅢも動かなかった。

 斬られたのが悪人ばかりなら、世界は沈黙を選ぶ。


 けれど――心は満たされなかった。

 刃を振るうたび、渇きは深くなり、次第に胸の中で何かがざわめき出す。


 “もっと”――と。


 それは好奇心にも似た願い。

 けれど、それ以上に、魔物の血が囁く声でもあった。


 そして、彼は一つの問いに辿り着く。


 「もし、善い人を斬ったら……オレは、どうなるんだろう」


 その瞬間から、心の歯車はゆっくりと狂い始めた。

 正義と興味、理性と渇望。

 その境界が曖昧に溶けていく。


 そんなある日。

 放課後の帰り道、辻は見てしまった。


 黒八(くろや)空が、倒れた何かを抱き上げていた。

 街灯の光の下、その存在は人の形をしていたが、どこか人ではなかった。

 薄く透き通った肌。かすかな光をこぼす胸元。

 息は弱く、まるで消えかけた灯のようだった。


 黒八はその小さな命を見下ろし、躊躇うことなく言った。


 「助けます」


 その一言に、辻の胸がざらりと波打った。

 誰もが恐れるものに、何の見返りもなく手を差し出す――それが黒八空という少女だった。


 後に知ることになる。

 あの存在は“太陽神”と呼ばれるもの、そのものだったという。

 世界の“外”から取り込まれ、壊れかけていた光。

 それを救うには、魂を新たな“器”へと移す必要があった。


 黒八はその役目を、自ら引き受けた。

 その優しさも、その無謀さも、彼女らしいと思った。


 ――そして、その瞬間を見た辻の心は、決定的に歪んだ。


 黒八空は、善人だった。

 だからこそ、美しく、そして許せなかった。


 黒八の善は、辻の中の闇をより濃くした。

 その輝きが強ければ強いほど、彼の刃は震えた。


 「善人を、斬りたい」


 その願いはやがて、ひとりの名を呟くほどにまで育っていた。


 ――黒八空を、斬りたい。


 そう思った時、辻は初めて自分の闇の“形”を知った。

 それは、哀しみのようでもあり、恋のようでもあった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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