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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能学園戦線  作者: 神野あさぎ
第二章・風が交わる日

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第十七話 異能実技試験(後編)

 ――最後の試験会場。

 午後の陽光が斜めに差し込み、床の線が金色に光っている。

 そこに立つ二人組。


 六澄(むすみ)わかしと七乃朝夏。


「まさか貴方と組むことになるとは、思いませんでしたわ」


 七乃は深くため息をついた。

 頬をふくらませ、肩を落としている。


四月(しづき)で良かったじゃん……二階堂、戦えないだろ」


 六澄はいつもの無表情で言う。

 まるで興味がないように、淡々と。


「それは……そうですけど」


 七乃は口を尖らせ、ふと横を見た。

 六澄は相変わらず感情のない瞳でこちらを見ている。


 その沈黙を破るように、六澄がふと口を開いた。


「首輪、新しくした?」


 七乃の動きが止まる。

 その瞳が大きく見開かれた。


「ど、どうしてそれを!」

「さあ……?」


 六澄は無感情なまま、煙に巻くように答えた。


「……何か知っていますの?」

「どうして、そう思う」

「だって首輪のこと──」

「見りゃ分かる。」


 七乃の声が震える。


「そんなはず……」


 そのやり取りの最中、試験官がたまらず割って入った。


「そろそろ、試験を──」


 だが、二人の会話は止まらなかった。


「精霊使い、ね」


 六澄がぼそりと呟く。


 七乃がぴくりと反応する。


「……見えますの?」


「まあな」


 六澄の視線の先、誰にも見えないはずの“精霊”がゆらりと揺れていた。

 試験官には何も見えない。だが、空気の温度が一瞬で変わる。


 背筋を冷たいものが這い上がった。


 「な、何だ……?」


 試験官が焦り、魔力の刃を展開する。

 同時に足元に黒い影が伸び、動きを封じた。


 視線を上げた先――七乃の周囲に、淡い光の粒が浮かぶ。

 まるで精霊たちが彼女を守るように舞っていた。


 得体の知れない二つの力が、目に見えないところでぶつかり合う。

 光と影。祈りと沈黙。


「六澄さんは……夜騎士(よぎし)さんの影とは違いますね」


 七乃の声が冷たく響く。


「ああ。自分のは“闇”だからね」


 六澄は静かに言い放つ。

 そこには、感情も誇りもなかった。

 ただ事実としての答え。


 闇使いと精霊使い。

 協力すれば最強、しかし属性的には真逆。


 ――この組み合わせが、最も危うい。


「普通の人……ではありませんのね」

「そう思いたければ思えばいい」


 六澄の声が、どこか遠くから聞こえたように響く。


 試験官はもう動けなかった。

 影に囚われ、光に惑わされ、何もできないまま試験終了の合図が鳴る。


 静かな戦いだった。

 だが、この日、最も教師たちを震えさせたのはこの組み合わせだった。


 ――試験後。


 風が冷たい。

 七乃朝夏はいそいそと校舎の廊下を歩いていた。


 曲がり角で、二階堂秋枷とすれ違う。


「七乃さん?」


 声をかけられたが、彼女は振り返らなかった。

 ただ、ほんの一瞬だけ、その瞳が揺れた。


 (言えない……)


 二階堂に六澄のことを告げられなかった。

 彼に余計な心配をかけさせたくなかった。

 ――ただ、それだけだった。


 七乃は小さく息を吐き、足早に去っていく。


 廊下の影から、その様子を無表情に見つめる六澄。

 その瞳の奥に、誰も知らない“闇”がわずかに光った。


 遠く、窓の向こうで二階堂の首元のチョーカーが光を反射した。

 ――漆黒のまま、何も変わらずに。


 一方その頃。

 風悪(ふうお)と辻は教室に戻る途中、黒八(くろや)と合流していた。


「辻君とのペアで合格したんですね?」


 黒八が嬉しそうに笑う。


「うん! 最初はちょっと大変だったけど……」


 風悪が照れくさそうに頭を掻く。


 二人の無邪気な会話を、辻は黙って聞いていた。

 笑ってはいる。だが、その瞳はどこか遠くを見ていた。

 まるで、何かを思い詰めているように。



 その頃、職員室。


 試験官たちの怒号が響いていた。


「なんなんですか、あなたのクラス!」

「秒殺ですよ、どこも!」

「教師と生徒にⅩⅢ(サーティーン)が紛れ込んでる時点でおかしいんですよ!」


 口々に言い募る教師たち。


 宮中潤は、その喧騒の中でただ一人、窓の外を見つめていた。

 冷たい風がカーテンを揺らす。


「……分かって編成したと思ってた」


 静かにそう呟くと、室内は一瞬、静まり返った。


 誰も、言葉を返せなかった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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― 新着の感想 ―
Xの方から参りました。17話まで読ませて頂いたので、感想を。 学園物で異能バトル、王道を行くお話だったのじゃないでしょうか。「魔」がなんなのか、その謎を追っていくのが話の軸となるでしょう。先生が物凄…
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