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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十三章・風、軋む日

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第百二十九話 暴走、風軋く日

 演習の終わった校庭に、静寂が降りた。

 冬の風が砂を巻き上げ、焦げた匂いと汗の混じる匂いが残る。


 四月(しづき)と戦った六人――風悪(ふうお)、辻、鳩絵、焔堂、凪原、影沼。

 彼らは息を切らし、膝をついていた。

 誰もが全力を出し切り、立つことすらままならなかった。


 その後方では、防御結界が淡く輝いていた。

 どうにか演習は完了――そう思われた、その瞬間。


「ご苦労」


 宮中(みやうち)潤が歩み寄り、穏やかな声でねぎらいの言葉をかけた。

 ほんのわずかに安堵が広がる。


 だが――次の瞬間。


 空気が、軋んだ。


 轟音と共に、地面が震えた。

 六人の身体から、残留していた異能が勝手に溢れ出す。


 焔堂の炎。

 凪原の水。

 影沼の影。


 それぞれの異能が暴走し、渦を巻きながら一つの塊となって融合していく。

 まるで意志を持つかのように、膨張を続けていた。


「な、なんだよあれ!」


 焔堂が叫び、指をさす。

 その先では、炎と水と影が混ざり合い、歪な巨人の形を取り始めていた。


 うねる炎の腕。

 揺らめく水の躯。

 その輪郭を縫うように影が走る。

 生徒たちは後退し、誰もが息を呑んだ。


「端末に異常反応――“魔”による暴走!」


 宮中が携帯端末の警報を確認し、叫ぶ。

 赤い警告ランプが瞬き、警報音が鳴り響く。


 異能の塊はさらに膨れ上がり、ゆっくりと巨人の形を完成させた。

 目のような光が二つ、ぎらりと光る。


「宮中! 制御装置を取って来い!」


 四月が即座に指示を飛ばした。

 宮中はうなずき、背を向けて棟へと駆け出す。


「四月、あれは──」


 風悪が息を荒げながら問いかけた。


「“魔”による異能の暴走――しかもいつものとは違う」


 四月の声は低く、鋭かった。

 ただの残留反応ではない。


 巨人が咆哮を上げた。

 その腕が生徒たちに振り下ろされる。


 四月は一瞬で地を蹴る。

 雷光が走り、巨人の腕を打ち抜いた。

 破裂音とともに炎の腕が砕け散る。


 それでも巨人は動きを止めない。


「あんなのもあり?」


 鳩絵が目を丸くする。

 信じられない光景が広がっていた。


「俺たちの異能なのに制御できない!?」

「なんで!」

「どうなってる!?」


 無名学園の三人――焔堂、凪原、影沼の叫びが重なる。

 自分たちの力が、自分たちを襲うという理不尽。


「核が出来ているはずだ。それを狙う。しかし、すぐには収まらん」


 四月は雷光を纏いながら、鋭く指示を出す。

 そして、再び地を蹴った。


 雷が閃き、巨人の手を撃ち抜く。

 手が伸びれば手を、足が出れば足を――四月の雷撃がそのたびに炸裂し、巨体の一部を次々と破壊していった。


 しかし、その再生速度は異常だった。

 炎と水と影が再び絡み合い、形を取り戻していく。


 風悪たちはただ見つめるしかなかった。

 ――明らかに、何かが変わっている。


 この“魔の暴走”は、いつもの異能異常とは違う。

 まるで意志を持って動いているようだった。


「防御結界はそのまま! 風悪は風で熱の処理を頼む!」


 四月の指示が鋭く飛ぶ。

 その声に、全員が即座に反応した。


「了解!」


 風悪は両手を広げ、風の流れを作り出す。

 瞬時に空気が動き、焦げた熱が上空へと押し上げられていった。


 四月は雷光を纏いながら、巨人の動きを牽制する。

 弾ける雷鳴が夜空のように青白く閃く。

 左腕を前に突き出し、その眼には冷静な光が宿っていた。


 ――過去視の異能で、すでに“核”の位置は視えている。


 四月は呼吸を整え、左腕に力を込めた。

 血管が浮かび、アームカバーの下で血が滲む。

 その血を媒介に、雷が弾丸となって放たれた。


 音もなく、赤と白の閃光が走る。


 ――勝負は一瞬だった。


 核が砕け散り、異能の巨人が苦鳴のような咆哮を上げる。

 その身体が膨張し、光を帯びていく。


「退避!」


 四月の叫びと同時に、空気が弾けた。

 爆風。

 膨張。

 そして――爆発。


 地面が揺れ、炎が舞い上がる。

 轟音が空を裂き、赤と白の光が校庭を包んだ。


 風悪は全身の力を込めて風を操る。

 上昇気流を作り、爆炎を空へ押し上げる。

 焼け付く熱気が顔を刺した。


「すごい熱ですわ……!」


 七乃が精霊を呼び寄せる。

 小さな光の粒たちが舞い、彼女の手の中で結界を形成する。

 防御結界の内側に、もう一層の“精霊の壁”が張られた。


 熱が収束していく。

 耳鳴りだけが残る静寂の中、焦げた風が校庭を抜けた。


 沈黙。

 そして、緩やかな呼吸の音。


 その頃、校舎から戻ってきた宮中が、制御装置を手にして駆け寄る。

 淡々とした手つきで装置を起動し、残留する熱を吸収していく。

 蒸気が音を立てて消えていった。


「助かった……のか……」


 辻が肩で息をしながら呟いた。

 後方の生徒たちも、前線の六人も、誰一人欠けることなく無事だった。


 砂と焦げた匂いの中、二階堂が膝をつく。


「なんで、そんな……」


 その声は震えていた。

 七乃がそっと彼の傍に寄り添い、静かに肩を支えた。


 夜騎士は腕を組み、目を細めた。


「“魔”の暴走が……進化している……?」


 その言葉は、誰も口にできなかった疑念を代弁していた。

 異能の暴走――それはただの事故ではない。

 何かが、明確に“成長”している。


 一ノ瀬は拳を握りしめた。

 血が滲むほどに強く。

 その目には、恐怖ではなく怒りがあった。


 (“魔”……絶対に滅ぼす)


 胸の奥で固く誓い、唇を噛み締める。

 そんな一ノ瀬の姿を、六澄は無言で見つめていた。


 ――そして後日。


 ⅩⅢ(サーティーン)本部の調査により、今回の事件は“魔による異能暴走事故”と結論づけられた。

 しかし、それは仮初の報告にすぎない。


 封印局の最下層。

 ヴェールを纏う封印局長は、報告書の映像を見つめながら唇を歪めた。


「やはり、早急に対処せねば……しかし上は、何故動かぬ」


 呟きが闇に溶ける。

 焦りをにじませるその声音。


 モニターには、静かに脈動する波形――

 《−02 <魔因子反応:増幅中>》


 その波は、確実に上昇していた。


 “魔”は静かに、しかし確実に成長を遂げていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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