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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十三章・風、軋む日

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第百二十八話 雷鳴、戦場に響く

 校庭に、冬の冷たい風が吹き抜ける。

 その中央に立つのは、六人の挑戦者。


 風悪(ふうお)、辻颭、鳩絵かじか。

 無名学園からの代表、焔堂カイ、凪原リク、影沼トウヤ。


 そして――彼らの前に立ちはだかる一人の少女。

 現役のⅩⅢ(サーティーン)の一員にして、同じ一年A組の生徒。


 四月(しづき)レン。


 彼女の足元で風が渦を巻く。

 淡い電光が髪の隙間を走り、瞳の奥に光が宿る。

 その姿だけで、誰もが息を呑んだ。


「初手で封じて勝てばいい!」


 焔堂カイが声を上げる。

 彼の掌に炎が灯り、熱気が一気に広がった。

 周囲の空気が歪む。


 影沼トウヤが音もなく影へと潜る。

 地面の下、影が波のように動き、四月の足元を狙った。


 凪原リクが水を走らせる。

 空気中の湿気を集めて形成された水の鎖が、蛇のように四月を取り囲む。


 瞬く間に、六人の攻撃が四月へと集中した。


 だが――


 四月は微動だにせず、水の鎖をひらりとかわす。

 影から飛び出した影沼の拳を受け流し、その勢いのまま蹴り上げた。


 「っ!」


 影沼の身体が宙を舞い、地面に転がる。

 土煙の中、四月はすでに次の標的へと駆けていた。


 右手から雷が奔る。

 空気が裂ける音。

 それは凪原への牽制。

 同時に、彼女自身が前に踏み込み、リクの胸元へ蹴りを叩き込んだ。


 凪原が地面を滑るよりも早く、左手からさらに雷が放たれる。

 焔堂の炎を飲み込み、そのまま彼を後方へ吹き飛ばした。


「どうした? 無名。こんなもんか?」


 四月の声が響く。

 それは挑発というより、力の差を知らしめる“洗礼”だった。


 あまりの光景に、風悪は思わず声を漏らす。


「うわー……」


 冷や汗が頬を伝う。

 四月の動きは一つひとつが速すぎて、目で追えない。


「ボーっとするな!」


 雷鳴のような叱咤。

 次の瞬間、電撃が風悪の足元を走った。


 反射的に鳩絵が前へ飛び出す。

 鉛筆を走らせ、瞬時に“盾”の絵を描く。

 その線が光を放ち、現実に具現化された。


 電撃が盾に当たり、青白い火花を散らす。


「来てるよ!」


 鳩絵の叫び。

 風悪と辻がすぐに態勢を整える。


 辻が盾の裏から飛び出す。

 腕と爪に風の刃を纏い、疾風のように四月へと迫った。


 しかし、彼の身体を貫いたのは雷だった。


「っ……無理だって」


 辻が呻きながら後方へ飛び、距離を取る。

 四月は追撃せず、静かに姿勢を整えていた。

 まるで、試験官が生徒の実力を見極めるように。


 ――六対一の戦いが繰り広げられる校庭の後方では、

 残りのメンバーたちが防御結界の構築に取り掛かっていた。


 王位が光の剣を掲げ、結界の中心に立つ。

 一ノ瀬が菌糸を地面に這わせ、各点に定着の役割を果たす。

 七乃は両手を胸の前で組み、祈るように精霊の力を呼び出していた。


「精霊さん、お願いしますね」


 七乃の声に応えるように、淡い光が周囲に浮かび上がる。

 小さな風の精、光の粒。

 それらが輪を描きながら彼女の周囲を漂い、防御の幕を形成していく。


 戦いと、守り。

 前線と後方。

 それぞれの役割が、今ひとつの戦場で重なり始めていた。


「くっそ……なんだあいつ!」


 焔堂が砂煙の中から起き上がり、荒い息を吐いた。

 拳を握りしめたその手のひらには焦げ跡が残っている。


「ⅩⅢ現役メンバーの一人だよ」


 風悪が短く答えた。

 その声に、無名学園の三人――焔堂、凪原、影沼が目を丸くする。


「一人の力では無理だ」


 凪原が低く言い、風悪はうなずく。


「やるなら、みんなで」


 風悪の言葉に、全員の視線が交わった。

 わずかにうなずき合う。

 その一瞬に、戦場の空気が変わる。


「まずは俺だ! 電気には熱!」


 焔堂が再び前へ出た。

 両の掌に炎が灯る。

 空気が熱せられ、乾いた砂が赤く染まる。


「熱消磁か」


 影沼がぽつりと呟く。

 熱によって雷を拡散させ、制御を乱す。

 その意図を四月は即座に読み取り、手の中の雷を収めた。


 風悪は風を展開し、炎の流れを後方へ行かせないように調整する。

 凪原はその隙に水を走らせ、炎の熱に触れた瞬間、一気に蒸発させた。


 ──水蒸気爆発。


 轟音と共に爆風が校庭を薙いだ。

 砂と熱風が渦を巻き、地面が揺れる。


 風悪の風が衝撃を和らげ、鳩絵の盾が防壁となり、辻の風の刃が爆風を切り裂く。

 まるで六人が一つの機構のように連動していた。


「さすがの四月でも、すこしは……」


 風悪が言いかけた、その瞬間。

 鳩絵は嫌な予感を覚えた。

 (それフラグ……)


 次の瞬間、赤い閃光が風悪の身体を貫いた。


「っ……!」


 痛みと共に、血の匂いが広がる。


 それは四月の血液だった。

 彼女は自身の血を媒体に電気を通し、自在に操る――“血電操作”。


 左腕のアームカバー越しに、四月は自らペンを突き立てた。

 血が滲み、空気中に散った瞬間、電気が走る。

 それが形を成し、盾となり、そして刃となる。


 爆発の収束と同時に、四月は血の刃を放った。

 それが風悪を貫いたのだ。


 地面に膝をつく風悪。

 四月は一切の感情を見せず、静かに地を蹴った。


 左腕の血が再び光を帯び、ブレード状に固定される。

 その刃が炎を斬り、水を断ち、影を切り裂いた。


 焔堂の炎が霧散し、凪原の鎖がほどけ、影沼の影が裂かれる。

 四月の動きは流れるようでいて、嵐のように速い。


 焔堂を蹴り飛ばし、凪原を蹴り鎮め、影沼を薙ぎ倒す。

 その一撃一撃が、確実に六人の息を奪っていった。


 辻が最後の力を振り絞り、風の刃を纏った爪を繰り出す。

 同時に地面の刃を立て、交差するように四月へと放つ。


 だが、彼女は一歩で間合いを詰め、掌を地に触れさせた。

 瞬間、電撃が地面を走り、辻の身体を直撃した。


「う……っ」


 辻が膝をつく。

 立ち上がる力すら、もう残っていなかった。


 鳩絵はその光景を見て、息を飲む。

 鉛筆を握る手が震える。

 描こうとする線が、もう走らなかった。


「まあまあだな……」


 四月は小さく呟く。

 その声は、淡々としていて、どこか寂しげだった。


 戦いが終わった。

 校庭に立っていられたのは――四月レン、ただ一人。


「やっぱり強い、四月さん……」


 後方の結界陣から、二階堂が呟いた。

 その目には畏敬と安堵の色が入り混じっていた。


 防御結界は――なんとか、展開された。

 光の輪が校庭を包み、ゆらりと揺れる。

 演習としては、成功。

 しかし、誰もがその“圧”に言葉を失っていた。


 その頃。


 ⅩⅢ最下層・封印の間。

 暗闇の中、封印局長はモニターの波形を見つめていた。


「これは……!」


 波形が急激に上昇していく。

 赤い警告ランプが点滅し、音が鳴り響く。


 表示された文字列――


 《魔因子反応:上昇中》


 局長は目を細め、ヴェールの下で静かに息を吐いた。


 地上の風が軋む。

 地下の封印が、呼応するように脈打っていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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