表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十三章・風、軋む日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/140

第百二十七話 再訪する影

 霜月が過ぎ、師走の風が校舎を包む。

 補習という慌ただしい日々もようやく終わり、切ノ札(きりのふだ)学園には久しぶりの穏やかな朝が訪れていた。


 そんな中、教室に届いた一枚のプリントが、再び波紋を呼ぶ。


「……異能合同演習?」


 風悪(ふうお)は首を傾げ、手元の紙を見つめた。


「そうだ。他校生を招いて、防衛演習を行う」


 教壇に立つ宮中(みやうち)潤が、穏やかな声で答える。

 その口調には淡々とした響きがあったが、どこか含みを感じさせた。


「この学園は防衛力の向上を目指しているからな」


 宮中は淡々とした口調でそう言うと、手に持っていたプリントの束を配り始めた。

 一枚一枚、机に置かれる紙の音が静かな教室に響く。


「その割には攻められたり、暴徒が出たり、散々よねー」


 五戸(いつと)このしろがいつもの気だるげな調子で言う。

 スマホを片手に、画面をいじりながらため息をついた。


「学園漫画描くなら、そうじゃなくっちゃね!」


 鳩絵かじかが親指を立てて言う。

 その笑顔に教室が少しだけ和むが、本人に描くつもりはない。


 二階堂秋枷は苦笑いを浮かべ、七乃朝夏は心配そうに二階堂の肩を見やった。

 いつものA組の風景――その中に、少しだけ緊張の空気が混じる。


「ゲストとして、無名学園から三名来てもらうことになっている」


 宮中が説明を続ける。

 教室内に、ざわめきが走った。


「無名学園か……体育祭以来だな」


 辻颭がぽつりと呟く。

 その声には、微かに戦意と警戒の両方が混じっていた。


 無名学園。

 異能学校群の中でも、ひときわ異質な存在。

 明確な教育方針も組織体系もなく、各地から“流れの異能者”を拾い集めて作られた寄せ集めの学園。

 戦闘能力は高い。

 だが、規律は存在せず、彼らが何を考えているのか誰にも分からない。


 それゆえに、他校との関わりには常に緊張が付きまとう。


 風悪は手元のプリントを見下ろし、胸の奥に小さなざらつきを感じていた。

 ――風が、軋み始めている。


 校庭。

 冬の風が、乾いた砂をわずかに舞い上げていた。


 その中央に立つA組の面々の前に、三つの影が現れる。


 焔堂カイ。

 凪原リク。

 影沼トウヤ。


 無名学園の代表三名――どの顔も、以前と変わらぬ自信に満ちた笑みを浮かべていた。


「あー、お前ら!」


 風悪が即座に声を上げた。

 驚きと懐かしさが入り混じった声に、辻がうなずき、鳩絵が手を振る。


 体育祭の決闘で激突した相手たち。

 その再会に、空気が一瞬で戦場のように引き締まる。


「また会ったな、切ノ札の風使い」


 焔堂カイが口元を歪めて笑う。

 その声には、挑発でもなく、純粋な喜びの色があった。


 教壇代わりの台に立つ宮中潤が、淡々と声を上げる。


「これより、無名学園との合同演習に入る。

 こちらからは三名――風悪、辻、鳩絵に出てもらう」


 静かな言葉に、風悪たちは同時に前へ出た。

 それぞれが一歩進み出るたび、砂がわずかに鳴る。


「無名学園を合わせた六人で師──四月(しづき)の相手をしてもらう」


 宮中の一言に、A組の空気が一気に凍りついた。


「四月と!?」

「無理難題では?」

「無理無理無理無理!」


 悲鳴にも似た声があちこちから上がる。

 四月レン――学園最強と呼ばれる存在。

 彼女を“相手にする”という言葉の意味を、全員がよく知っていた。


「四月には、攻め込んできた敵役をやってもらう。加減はさせる。

 そして今回の目的は“倒すこと”ではない」


 宮中は、生徒たちの動揺を受け止めながら淡々と続けた。


「残りのメンバーで防御結界を貼る。これが今回の演習の目標だ。

 六人が戦っている後方にて、防御結界を展開し、学園を守る想定でやってもらう」


 説明が進むたびに、A組の間に真剣な空気が流れていく。


「あくまでも、四月の攻撃を防ぎつつ、いかに防御結界を貼れるか……ってことか」


 王位が腕を組み、冷静に分析するように呟いた。


「でも、倒してしまっても構わないんだろ?」


 焔堂カイが堂々と口にする。

 彼の言葉に、A組の全員が同じ思いを抱いた。

 ――(無理だよ……)。

 けれど、誰も口には出さない。


「制限時間は五分だ。

 結界の中心は王位、各点の留め役は一ノ瀬。

 残りは補助と防衛に回れ」


 宮中が最後の指示を告げる。

 静まり返る校庭。

 風が一陣、吹き抜けた。


「四月と戦いながらの……か」


 風悪は自分の両手を見つめ、拳を握る。

 手のひらに感じる微かな震え。

 それでも、逃げるつもりはなかった。


「やろう」


 隣で辻が短く言う。

 その声が、胸の奥を支えるように響く。


「体育祭メンバー、再集結です!」


 鳩絵が鉛筆を掲げて笑った。

 その姿に、周囲の緊張がわずかにほどける。


 冬の空の下、六人が並び立つ。

 彼らの前方には、すでに姿を現している一人の少女――四月レン。


 無風。

 静寂。

 空気が張り詰める。


 ――合同異能演習、開始。


 その合図を告げる鐘の音が、校庭に鳴り響いた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ