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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十二章・風、緩む日

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第百二十五話 決意の剣

 重い空気が教室を支配していた。

 誰もが息を潜め、動くことができずにいた。

 その沈黙の中――一歩、また一歩と、足音が響く。


 歩き出したのは夜騎士(よぎし)だった。

 床板を踏みしめるたびに、静かな決意が滲む。


「富は……オレのために角を折った。それは、事実だ」


 噛み締めるように、彼は言葉を放った。

 その声音には、悔恨と誇りが同居していた。


「海皇との決闘で暴走したオレを止めたのも、富だ」


 その言葉が、場にいる全員の胸に落ちる。

 夜騎士は王位(ほまれ)の目前まで歩み寄り、まっすぐ見据えた。


「富は、十分強いやつだ」


 まるで自分に言い聞かせるように、しかし揺るぎない声だった。

 その姿に、一瞬だけ、王位誉の表情が揺らぐ。


 だが――理性より先に、怒りが動いた。

 誉の手が、反射的に夜騎士へ向かって伸びかける。


 その瞬間、四月(しづき)がわずかに身体を動かした。

 電撃のような気配が走り、誰もが息をのむ。


 だが、それより早く――王位富が動いた。


 静かな金属音とともに、剣が顕現する。

 その刃は迷いなく、誉の首元へ突き立てられた。


「ボクは、この学園から去る気は無いよ」


 その言葉は、鋼よりも硬かった。

 王位富の胸には、確かな覚悟の光が宿っている。


 彼の背後で、妃が震える声を上げた。


「誰かが欠けるとか……ありえないっての!」


 声は震えていた。

 けれど、それでも彼女は立っていた。


「黙れ!」


 王位誉が怒りをあらわに叫ぶ。

 空気が再び張り詰め、教室全体が軋んだように感じた。


「ならば――決闘で決めよう」


 風悪(ふうお)が一歩前に出て、静かに言った。

 その提案に、全員の視線が集まる。

 王位は、迷いのない表情で小さく頷いた。


「富、本気か?」


 誉が息子に問う。

 その声には、怒りの奥にかすかな戸惑いが混じっていた。


 しかし、王位の答えはすでに決まっていた。


 ――覚悟は、本物だった。


 そして舞台は移る。

 期末試験でも使用された訓練場。

 今、その地が再び火花を散らす場となる。


 王位富と、王位誉。

 母と子の戦いが、始まろうとしていた。


 監督官および審判は宮中(みやうち)潤。

 その立ち姿は厳粛で、空気をさらに張りつめさせる。


 観客席の最前列、四月は冷たい眼差しで戦場を見つめていた。

 そして、A組の全員に告げる。


「王位誉と目を合わせるなよ」


 その声には、明確な警告が込められていた。


「目を合わせるなって……どういう?」


 鳩絵が首を傾げる。

 しかし、答えを聞く前に――


「それでは緊急措置として、簡易的ではあるが決闘を開始する」


 宮中の宣言が響き、静寂が破られた。

 空気が震え、風が唸る。


 決闘の開始を告げる声と同時に、王位誉は迷いなく目隠しを外した。

 淡い光がその瞳から漏れる――それは見る者を石に変える“魔眼”の輝き。


 王位富は静かに目を伏せたまま、手の中に光の剣を顕現させた。

 刃が生まれる音が空気を裂き、訓練場の空気が一段と重く沈む。


 誉の魔眼。

 その視線を受けた者は肉体も精神も硬化し、動けなくなる。

 富が普段から目を閉じて生活している理由も、そこにあった。


 誉が一歩踏み込む。

 空気が震え、砂塵が舞う。


 富は目を閉じたまま、気配を読む。

 足音、衣擦れ、風の流れ――すべてを感覚で捉え、寸前で身をかわした。


 誉は懐からナイフを抜き放つ。

 間合いを詰め、身を低くして下から振り上げた。

 鋭い刃が光を裂く。


 金属音が響く。

 富の剣がそれを受け止め、弾き飛ばした。

 火花が散り、観客席の誰もが息を詰める。


「王位! 負けるな!」


 風悪の叫びが場を切り裂いた。

 A組全員がそれに呼応するように声を上げる。


「お前は強い、勝てる!」


 夜騎士の声が響く。

 その言葉が、富の胸に火を灯した。


 剣を構え直しながら、富は息を吐く。


「……勝ったら、認めてください」


 その声は、母への懇願でもあり、宣戦布告でもあった。


 誉は無言でナイフを振るう。

 刃が閃くたびに風が鳴り、富はそれを受け流す。

 剣の光とナイフの軌跡が交錯し、金属音が絶え間なく響いた。


「この学園は――堕落させる仲間ではないと!」


 富が叫ぶ。

 その声は確信と誇りに満ちていた。


 次の瞬間、誉が跳躍した。

 高く跳び上がり、上空からナイフを振り下ろす。


 だが、富の剣が一瞬だけ強く光を放つ。

 眩い閃光が視界を奪い、誉の瞳が虚空を彷徨う。

 狙いを失ったナイフが地面に突き刺さり、硬い音を立てた。


 その背後に――富の姿があった。


 「──っ!」


 誉が気づくより早く、富の蹴りが横薙ぎに走る。

 右から左へ、鋭い一撃。

 誉の身体が宙を舞い、砂埃を巻き上げて地面を転がる。


「やったれ、富!」


 妃の声が響く。


「大丈夫、やれる!」


 三井野の声が続く。

 皆の声援が、確かに富の背を押していた。


 誉がよろめき立ち上がろうとした瞬間、富は一気に間合いを詰めた。

 無駄のない動き。

 剣が振り抜かれ、光の残滓だけを残して止まる。


 沈黙。

 次の瞬間、誉の手からナイフが落ちた。


「そこまで! 勝者、王位富!」


 宮中の声が響いた。

 歓声が一気に上がる。


 誉は膝をつき、俯いたまま動かない。

 だがその唇が、不気味に動いた。


「……まだ、終わってはいない」


 顔を上げた誉の瞳に、再びあの光が宿る。

 魔眼が、今度は観客席――A組の生徒たちへと向けられようとしていた。


 だが、その瞬間。


 風が裂け、雷が落ちた。

 四月が、音もなく背後に回っていた。


「だから、それは“させん”と――言っただろう」


 低く呟くと同時に、かかとが落ちる。

 強烈な衝撃音。


 誉の身体が地面に叩きつけられた。

 砂塵が舞い上がり、静寂が訪れる。


 四月は無言で立ち上がり、制服の裾を払った。

 そして、ただ一言。


「……これで、終わりだ」


 訓練場に、重く長い沈黙が落ちた。

 風悪たちは誰一人として声を発せず、ただその場に立ち尽くしていた。


 勝敗は決した。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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