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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十二章・風、緩む日

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第百二十四話 母の影

 期末テストが終わった。

 そのはずなのに、風悪(ふうお)の日々は終わらなかった。

 筆記の補習に加え、異能実技の補習まで追加され、彼の時間はまるで嵐の中を進むように過ぎていく。


「……疲れた」


 放課後の教室で、風悪は机に突っ伏しながらつぶやいた。

 その一言が、ここ数日の全てを物語っていた。

 霜月も半ばを過ぎ、季節は確実に冬へと傾いている。


 四月(しづき)はいつも通り単語帳を片手に席につき、ページをめくる音が静かに響く。

 六澄(むすみ)は淡々とノートを開き、丁寧な字で予習の内容をまとめていた。

 一ノ瀬はペンを指先で回しながら、何かを思案している。

 鳩絵は一人だけ別世界にいるように、落書きを量産していた。

 いつもの、切ノ札(きりのふだ)学園一年A組の風景――のはずだった。


 だが、その空気を切り裂くように、扉の向こうから足音が近づいてくる。

 やがて現れたのは、神妙な顔をした王位富だった。

 いつもの穏やかな気配はどこにもない。

 その背筋には張り詰めた糸のような緊張が漂っていた。


「富、どうした?」


 夜騎士(よぎし)が眉をひそめ、すぐに声をかける。

 王位は軽くため息をつき、俯いたまま答えた。


「……期末の実技、落としたのがまずかった、かも」


 静かな声だった。

 だが、その響きに滲む重さは隠せない。


「何〜? 親に怒られたりしたの〜?」


 妃が冗談めかして肩をすくめる。

 だが、王位の表情がピクリと強張った。


「え、何? まさか……本当に?」


 妃の笑みが凍りつく。

 教室の空気が、少しずつ張りつめていく。


 ――そして、聞こえた。


「勝手な真似は困ります」


 宮中(みやうち)の声が届いた瞬間、教室中が息を飲む。

 扉が静かに開き、凛とした気配が流れ込んだ。

 まるで圧が形を持って侵入してきたかのように、空気が急激に重く沈む。


 風悪の身体が鉛のように重くなり、思わず息を詰める。

 四月と六澄以外の全員が、瞬時に警戒の姿勢をとっていた。


 現れたのは、金色の髪を持つ女だった。

 目元を覆うような黒布が、その存在の威圧をさらに強調している。

 ただ立っているだけで、周囲の空気が歪んでいた。


「富。この者たちが――お前を堕落させる」


 その声音は氷のように冷たく、教室中の心臓を掴むようだった。


「違います……お母様」


 王位はわずかに震える声で否定した。


 風悪は、信じられないものを見るように目を見開く。


(母親……!?)


 その事実に、教室の誰もが息を呑んだ。


「違わない。現にお前は、この者によって角を折られたのだ」


 金髪の女――王位(ほまれ)は、冷ややかな声で言い放つと、まっすぐ夜騎士を指さした。

 その一言に、教室の空気がさらに張りつめる。


「違います。ボク自身が望んで折りました!」


 王位は即座に否定する。

 あの時――夜騎士凶を救うために、自らの角を折った。

 これは、彼にとっての“友の証明”だった。


「違わない。お前を堕落させる原因だ」


 誉の声が、氷のように冷たく響く。

 教室の窓がわずかに震え、空気が圧縮されるような音がした。


「お前はこの学園にいてはならない」


 そう告げると、誉はゆっくりと目隠しに手をかけた。

 その瞬間、王位の顔色が変わる。


「それは──!」


 止めようと声を上げた王位の前で、風が裂けた。

 四月が、椅子を蹴って踏み込み――誉を蹴り飛ばしたのだ。


 衝撃音が教室に響く。

 全員の視線が一点に集まる。


「……させんよ」


 四月の声は低く、鋭く、まるで刃のようだった。

 教室の空気が一瞬にして変わる。

 宮中は冷や汗を流しながら、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。


「貴様……!」


 誉がゆっくりと立ち上がる。


「やめてくれるかな? 王位の母親。私のクラスメイトに“それ”を使うな」


 四月は一歩も引かず、視線だけで誉を牽制する。

 目には微かに電光が走り、空気を焦がす。


「この学園にいたらダメって……どういう意味なんですか?」


 震える声で問うのは三井野だった。

 恐怖を押し殺し、それでも逃げずに向き合おうとしていた。


「どうもこうもない! 富が角を折り、負けるなど――お前らのせい以外にあるものか!」


 誉の叫びは、怒りと悲しみが混じっていた。

 その声が響くたびに、空気がさらに重くなる。

 誰も動けなかった。

 息を吸うことすら、躊躇われるほどの圧。


 そんな中で――ひとり、声を上げた。


「それは違うと、富自身が言ってるだろうが!」


 夜騎士の叫びだった。

 拳を握りしめ、机を叩くようにして立ち上がる。

 その瞳には、後悔も怒りも、そして確かな決意も宿っていた。


「黙れ! お前は一番の元凶だ、夜騎士凶!」


 誉の怒声が返る。

 だが夜騎士は怯まない。


「王位は友達思いの良い奴だ。期末は確かに負けたかもしれないけど、十分強い!」


 風悪が、必死に声を絞り出す。

 その言葉に、教室の空気がわずかに揺らいだ。


 辻も、静かに頷いた。

 皆の胸にあるのは、ただひとつ。

 ――仲間を守りたいという想い。


 金髪の女・王位誉は、目隠し越しにそんな彼らを見渡した。


 沈黙が、重く教室に落ちた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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