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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十二章・風、緩む日

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第百二十話 開戦、異能実技試験

 期末テスト二日目――異能実技試験。

 切ノ札(きりのふだ)学園の広大な訓練場は、朝から張り詰めた空気に包まれていた。


 観覧席にはクラスメイトたちがずらりと並び、教師陣も見守っている。

 冬の陽光が広大な訓練場の床を淡く照らし、その中央――

 最初に立ったのは、白髪の少年と青黒い髪の少年だった。


 風悪(ふうお)と、夜騎士(よぎし)凶。


 二人はまっすぐに向かい合い、互いの気配を探るように静止していた。

 その姿に、審判席から宮中(みやうち)潤がゆっくりと声を発する。


「これより異能実技試験──第一回戦を始める」


 マスク越しの声が、訓練場全体に響いた。


「決闘システムに準ずる。

  “殺傷を目的としない”“第三者被害を出さない”“時間制限内で決着をつける”――この三原則を厳守だ。

  制限時間は十分。……健闘を祈る」


 淡々とした口調。だがその奥に、確かな期待の響きがあった。


「凶! 全力でいく!」


 風悪が風をまといながら声を上げる。

 その瞳には、真っすぐな光。


「オレも」


 夜騎士が短く答えた。

 すでに身体から、青黒い影がにじみ出している。


「――始め!」


 宮中の号令と同時に、空気が弾けた。


 先に動いたのは夜騎士だった。

 影が身体を包み、黒い波動が地を走る。

 床の影が蠢き、まるで生き物のように形を変える。


「影装展開」


 低く呟くと同時に、夜騎士の背に青黒い尾が揺らめいた。

 その光景を受けて、風悪もまた風を起こす。


「風域展開――防壁」


 風が唸りを上げ、二人の間に透明な壁を作り出す。

 だが夜騎士は迷わない。

 その影を、いつもの大鎌ではなく――細く、鋭く、長い槍へと変形させた。


「風圧を最小限に……なるほど」


 観覧席で見守っていた王位が、冷静に分析する。

 彼の声に、他の生徒たちも息を飲んだ。


 夜騎士は右腕を前に突き出し、影の槍を放つ。

 鋭い突きが、風壁を貫きかける。


「くっ……!」


 風悪は反射的に身をひねり、槍をかわした。

 頬をかすめた風が鋭く切り裂かれる。


 その一瞬の隙を、夜騎士は見逃さなかった。

 地を蹴り上げ、風悪の上方へ跳躍。


 影が再び形を変える。

 今度は、鯱の尾のような巨大な影が夜騎士の背に伸びた。


「――ほらよ!」


 尾が振り下ろされる。

 轟音が響き、砂煙が舞い上がる。

 風悪は腕を交差させ、風の防御を重ねて受け止めた。


 衝撃が体を貫き、足元がわずかに沈む。

 息を吸い、風悪は踏みとどまった。


(……流石に強い!)


 風悪は、夜騎士の力の成長を肌で感じていた。

 同時に、負けたくないという熱が胸を焦がす。


 ――ここからどう打開するか。

 風悪はすでに、次の一手を探り始めていた。


 風悪は深く息を吸い込み、目を閉じた。

 頭に浮かぶのは、かつての海皇高校との決闘。

 あの時、自分は圧倒的な力に押されながらも――“風”で戦場を支配する感覚を覚えた。


(広範囲で風を展開し、音の流れを狂わせる……)


 風悪は両手を広げ、風を操る。

 空気が唸りを上げ、訓練場全体に旋律のような風の層が走る。

 狙いはただ一つ――夜騎士の反響定位を乱すこと。


「風悪君……」


 観覧席の黒八(くろや)が、祈るように手を握りしめた。

 その声は届かなくても、願いだけは風に乗って彼の背へと届く。


 夜騎士の左眼は、かつての戦いで失われている。

 彼は“音”によって空間を読む。

 反響定位――音波を利用して周囲を把握する夜騎士の戦い方は、まさに影と一体化した異能。


 だが、風悪がその音を狂わせることができれば――。


 風の刃が、音の流れを歪ませる。

 そして風悪は左側――夜騎士の死角へ、鋭い風刃を放った。


「左側死角だけどさ、そのくらい把握済み!」


 夜騎士は影の尾を操り、風刃を容易くはじいた。

 その動きには、以前の暴走時にはなかった理性があった。


 海皇高校との決闘の時。

 彼は“魔”の暴走に飲まれ、何も見えていなかった。

 だが今は違う。

 理性的に、知的に動ける。

 狙いが左側と分かっていれば逆によけやすい。


 影の一つ一つを制御し、冷静に相手の戦術を読み切る。


「……っ!」


 風悪が舌打ちする間もなく、夜騎士が踏み込んだ。

 影が再び槍の形へと変わり、連撃が走る。

 槍で突かれ、鎌で切りつけられる。

 防ぐよりも速く、風悪は後方へ跳ぶ。

 風を盾にしても、勢いを殺しきれない。


(やっぱり……一発ごとの重みが違う!)


 風悪は息を荒げ、風の流れを整える。

 隙を見て再び風刃を左側に放つ――だが、またも影で弾かれた。


「左側を狙うのは悪くないけどな!」


 夜騎士の声が響く。

 次の瞬間、影の尾が地を這い、風悪の足へ絡みついた。


「しまっ――!」


 引き寄せられる。

 間合いが一瞬で詰まり、夜騎士の影が獣のようにうねる。


 咆哮。


 音の衝撃波が風悪の体を直撃した。

 空気が震え、観客席の誰もが息を呑む。


「……!」


 風悪の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 砂煙が立ちこめ、しばらく視界が揺れた。


 その沈黙を破るように、宮中の低い声が響く。


「そこまで!」


 風が止む。

 影が消える。

 夜騎士は呼吸を整えながら、影を収束させた。


「第一回戦――勝者、夜騎士凶!」


 宮中が宣言する。


 訓練場に拍手が起こる。

 黒八が席を立ち、駆け寄った。


「風悪君!」


 風悪は地面に片肘をつき、苦笑しながら手を振る。


「はは……やっぱ、つえーや」


 その言葉に、夜騎士が頭をかきながら答えた。


「ちょっとやりすぎたか?

 でもお前も……強かった」


 短く言葉を交わし、二人は互いに笑い合った。

 勝敗よりも、互いの成長を確かめ合うように。


「二人とも、よくやったよ」


 王位が静かに言った。

 その言葉に、場の緊張がほどけていく。


「オレも頑張らないと」


 辻が拳を握りしめる。


「オレ、無理ー」


 二階堂がうなだれるに呟いた。


「わたくしが代わりに戦いたいですわ!」


 七乃が勢いよく立ち上がり、二階堂の顔を見つめて宣言する。


 そのやり取りを横に、三井野が頬を染めながら夜騎士を見つめ――

 そんな三井野を妃が静かにジト目で見ていた。


 六澄(むすみ)と一ノ瀬は静観。

 五戸(いつと)は相変わらずスマホをいじり、鳩絵はスケッチブックを広げ戦いの構図を描いている。


「もっと頭を使え」


 四月(しづき)が観覧席の最前列で、冷静に言った。

 その言葉に風悪は、苦笑いを浮かべながら小さくうなずく。


(……次も、頑張ろう)


 風が静まり、試験場の空気は再び凪いだ。

 戦いの余韻を残したまま、次の試合へと時が動き出していた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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