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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十二章・風、緩む日

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第百十九話 学園、試験の影

 霜月も半ばに差しかかり、空気はすっかり冬の匂いを帯びていた。

 切ノ札(きりのふだ)学園では、期末テストが始まっていた。


 一日目――筆記試験終了。

 教室には、どこか魂の抜けたような雰囲気が漂っていた。

 鉛筆の音が止み、ため息と机に突っ伏す音だけが残る。


「オレ、絶対また補習だ……」


 風悪(ふうお)は机に顔を埋めたまま呻いた。

 その声に呼応するように、妃愛主、五戸(いつと)このしろ、鳩絵かじか――

 補習常連組が同じく絶望の表情を見せる。


「テストって、なんでこう、理不尽なんだろ……」


 妃がぼやき、五戸がスマホを握りしめてうなずく。

 鳩絵はノートの端に“現実逃避用落書き”を描いていた。


 そんな三人をよそに、教壇では宮中(みやうち)潤が淡々と次の予定を伝えていた。


「明日は期末テスト二日目――異能実技試験だ」


 その一言で、教室の空気が一変する。

 背筋を伸ばす者、固まる者、そっと逃げようとする者まで出た。


「今回は“決闘システム”のルール上でクラス内対戦を行う。個人戦だ」


 静まり返る教室に、宮中の低い声が響く。


「せ、先生……つまり、それは……」


 二階堂秋枷が恐る恐る手を挙げた。


 宮中は目線を下げ、ゆっくりと答える。


「一対一のタイマンバトル。十四人いるから、七試合だ」


 その瞬間、教室全体が一つの空気になった。


 ――あ、フラグ、回収した。

 全員が心の中で同じ言葉をつぶやいた。


「せ、先生……対戦相手は?」


 三井野燦が小さく手を挙げて尋ねる。


「対戦表は、これだ」


 宮中は無造作に黒板へ貼り出した。

 その表には、はっきりと七組の名前が並んでいる。


 決闘システム・対戦表


 風悪 vs 夜騎士(よぎし)


 辻 vs 王位


 二階堂 vs 黒八(くろや)


 一ノ瀬 vs 七乃

 

 三井野 vs 鳩絵


 五戸 vs 妃


 四月(しづき) vs 六澄(むすみ)


 ざわめきが走る。


「四月とわかし回避したー!」


 五戸が両手を挙げて喜びの声を上げた。

 その姿に、周囲からため息と笑いが混ざる。


「異能なし対決ですね」


 黒八は相変わらずの笑顔で穏やかに言った。


「まじか……いや、ありなのか?」


 二階堂は頭をかかえた。

 黒八相手に“実力で勝てるかどうか”分からない――そんな複雑な表情。


「凶、やるからには手を抜かないからな」


 風悪が宣言する。

 夜騎士は短く、「おう」とだけ返した。

 それだけで十分だった。


「女子相手に!? 無理じゃん!」


 妃が机に突っ伏し、絶叫した。

 五戸はそんな彼女を見て、「うんうん」と深くうなずいている。


「絵と歌……どうなるんだろう?」


 三井野が不安そうに呟くと、鳩絵は黙ってペンを走らせた。

 描かれたのは、歌声に包まれる自分――奇妙な構図だった。


「辻か……不利かな」


 王位は腕を組み、静かに分析をしていた。


「オレも手は抜かない」


 辻が真っ直ぐに言う。


 その目には迷いはなかった。

 どんな相手でも、もう逃げる気はない――そう言っているようだった。


「一番の見どころは、四月対六澄か」


 風悪がぽつりと呟いた。

 教室の空気が、わずかに揺れる。


 四月も六澄も、何も言わなかった。

 互いに隣の席に座っているというのに、まるで違う世界を見ているかのように。


 六澄はいつもの無表情で教科書をめくり、

 四月は単語帳を閉じて視線を窓の外へ向けた。

 その横顔には、誰も読み取れない感情が宿っていた。


 一ノ瀬さわらは、そんな二人をじっと見つめていた。

 彼女の瞳には、ただの試験以上の迷いが映っていた。


(わかし君が……ラウロスだけど……どうしたら……)


 黒い妖精ラウロス――かつて“この世界”を造った存在。

 六澄がその正体だと気づいたのは、風悪からの情報だった。

 だが、それを他の誰にも言えず、ただ見守ることしかできなかった。


 その沈黙が、焦りとなって胸を締めつける。

 明日の対戦表を見つめながら、一ノ瀬はただ小さく息を吐いた。


 放課後、霜月の風が校門を抜けていく。

 街灯が灯り始める頃、風悪は黒八と並んで歩いていた。

 いつも通りの下校風景。

 けれど、どこか心は落ち着かなかった。


「明日、凶とか……どうするかな」


 風悪は小さく呟き、夕暮れの空を仰ぐ。

 紅に染まった雲の向こうに、明日の試練が見えるようだった。


「私はどっちも応援しますけど――」


 黒八は両手を後ろで組み、少しだけいたずらっぽく笑った。


「風悪君を応援します!」


 その言葉に、風悪は思わず苦笑した。


「結局どっち応援してんの、それ」


 自然と笑みがこぼれる。

 いつも通りの黒八。

 その無邪気さに、少しだけ肩の力が抜けた。


(凶との対戦……やれるだけのことをやろう)


 風悪は心の中で呟いた。

 共に戦った仲間。

 だからこそ、全力でぶつかる意味がある。


 吹き抜ける風が、頬を撫でた。

 その風は冷たくも、どこか優しかった。


 明日――期末テスト二日目。

 異能実技試験。

 クラス内対決が、いよいよ幕を開ける。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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