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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十一章・風、ゆらぐ日

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第百十七話 影を喰う血

 一方その頃。

 王位の連絡を受け風悪(ふうお)黒八(くろや)が学校へ引き返していた。


 夜が深まり、街を包む風が冷たくなり始めた頃。

 切ノ札(きりのふだ)学園の地下――地下の奥から、異様な震動が走った。

 地鳴りのような振動が校舎を揺らし、夜の静寂を切り裂く。


 学園へ戻ると、そこには信じがたい光景があった。


 地下施設の裂け目から、黒い霧と共に無数の影が這い上がってくる。

 それは“赤の礫”と“一条会”の残党たち。

 理性を失った彼らは、もはや人の姿をしていなかった。

 瞳は赤く濁り、皮膚には魔の紋様が浮かび上がっている。


 「これは……いったい……」


 黒八が息を呑む。


 「凶までさらわれたってのに、今度はこれかよ!」


 風悪が怒りを噛み殺すように叫ぶ。

 彼の翅が風を巻き上げ、空気が震えた。


 焦りが募る中、通信が入る。

 端末越しに聞こえたのは、聞き慣れた低い声だった。


『辻、夜騎士(よぎし)は私がなんとかした。――私が行くまで、十三部は残党を抑えろ』

四月(しづき)!」


 王位が驚きと共に名を呼ぶ。


「辻まで……連れて行かれたのか」


 風悪が呟き、黒八が顔を上げた。


「でも、無事ってことですよね?」

「そういうことだろう」


 王位は短く答え、剣を抜いた。


 光の刃が闇を裂き、周囲の霧を照らす。


「とにかく今は残党だ!」


 王位の号令が響く。


 風悪は両手を広げ、空気の流れを支配する。

 巻き起こる風が渦をなし、残党の逃げ道を塞いだ。


「風壁、展開!」


 壁のような風の結界が地下出口を覆う。

 その内側で暴れる残党たちを、王位の光の剣が切り伏せていく。


 黒八は建物の陰に身を潜めていた。


「数が……多いな。十人どころじゃない」

「構うな、今は時間を稼ぐ!」


 王位が叫ぶ。


 戦場に、再び風が吹いた。

 風悪の異能が空気の密度を変え、敵の動きを鈍らせる。

 その刹那――。


 雷光が一閃。


 眩い閃光と共に、一人の少女が空から降り立った。

 稲妻の尾を引くようにして現れたのは――四月レン。


 制服の上に羽織ったコートがひらめき、彼女は無言のまま手を上げた。

 青白い光が走り、数十体の残党を一瞬で無力化する。


「……四月!」


 王位が声を上げる。


 その圧倒的な光景に、風悪も黒八も言葉を失った。


 彼女の登場と同時に、戦場の空気が一変する。

 暴走していた残党たちが次々と倒れ、

 やがて、校庭には風の音だけが残った。


 遅れて二つの影が駆けてきた。

 夜騎士凶と辻颭。


 鎖の痕が腕に残り、息を切らしながらも、

 二人の目には確かな意志があった。


「凶!」

「辻も! 無事でよかった!」


 王位と風悪が同時に駆け寄る。


「どうなるかと思ったけどな……」


 辻が苦笑する。


「四月が助けてくれてな」


 夜騎士が短く言った。


「皆さん、よかったです」


 黒八が胸に手を当て、安堵の息をつく。


 風悪が空を見上げ、肩をすくめる。


「案外あっさり片付いたな」


 誰も否定しなかった。


 戦闘が終わり、夜の風が静まり返った。

 学園の校庭には、倒れた残党と、吹き抜ける風の音だけが残っている。

 焦げた土の匂いがかすかに漂っていた。


 風悪の瞳に、怒りと戸惑いが入り混じっている。


「封印局長……許さん」


 隣に立つ四月レンの声は、氷のように冷たかった。

 だが、その中には確かな怒りが燃えていた。

 静かで、しかし誰よりも激しい炎。


「……とはいえ、あの人もⅩⅢの一員だ。

 私達が勝手に動けば、こっちが処分対象になる」


 四月は冷静に言いながらも、拳を強く握りしめていた。

 雷の気配がその指先に微かに集まっている。


 辻がぽつりと呟いた。


「なんであの人、オレ達を……」


 四月は答えた。


 「魔物の血を引くからだとよ。

 この学園の地下には、まだ“魔因子”が残留している。

 ――暴走の恐れがあるお前たちを、処分するつもりだったらしい」


 その言葉に、皆が息を呑む。


「そんな……」


 黒八が小さく声を漏らした。

 目の奥に浮かぶのは恐れではなく、悲しみだった。


「オレは、もう暴走しない!」


 夜騎士がまっすぐ前を向いた。

 その声は震えていたが、確固たる意志があった。


「オレもだ」


 辻が続く。

 過去の罪を背負い、それでも前に進もうとする声。


 風悪が息を吸い、胸を張った。


「絶対に処分なんてさせない!」


 その言葉に、王位がゆっくりと頷く。


「……ああ。ボクたちは、仲間を見捨てない」


 四月は静かに皆を見渡し、

 最後に短く言った。


「――私がいる限り、勝手な真似はさせん」


 その声音には、冷静な確信と、教師にも似た保護の響きがあった。


 冷たい夜風が通り抜け、提灯の残り火が一つ消える。

 それはまるで、この夜の誓いを見届けるようだった。


 だが、この封印局長――《封獄の番人》との小さな蟠りは、

 やがて後に“ある出来事”へと繋がっていく。

 この時、誰もまだ、それを知らなかった。


 同刻。

 ⅩⅢ(サーティーン)本部・作戦監視室。


 白いスーツを纏う男――総指揮官は、静かにモニターを見つめていた。

 スクリーンには十三部の戦闘記録が映し出され、

 その映像の中で、少年少女たちは確かに戦い、生き抜いていた。


「十三部の実戦経験……悪くない」


 光男は独り言のように呟く。


 その後ろから、ゆっくりと黒いヴェールの女が歩み出た。

 封印局長、《封獄の番人》


「総指揮官殿は、四月に甘い」


 彼女の声は冷たく、しかしどこか嫉妬にも似た色を帯びていた。


 総指揮官は笑った。


「過去視の異能者に逆らえば、全て筒抜けです。

 あなたほど聡い人なら、理解しているはずでしょう?」


「……理解しています。しかし、あの子たちは――」


「彼らは“魔”の器ではなく、希望の器ですよ」


 総指揮官は彼女の言葉を遮り、視線を窓の外へと向けた。


 ガラス越しに見える街の灯が、ゆっくりと揺れている。


「いずれにせよ、学園の再警備は強化する必要がある。

 “魔”の蠢く学校か……」


 封獄の番人は沈黙したまま、その横顔を見つめた。

 その瞳の奥には、まだ消えぬ迷いが宿っていた。


 外の世界は静かだが、その静けさは決して安らぎではない。


 “魔”は――今もなお、見えぬ場所で呼吸している。


 非日常は、終わらない。

 “魔”は静かに、人の心に影を落とし続けていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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