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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十一章・風、ゆらぐ日

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第百十六話 報告と拉致

 封獄の番人は、漆黒の装束の裾を静かに揺らしながら、厚い報告書を机に置いた。

 室内は重く、空気が張り詰めている。


「――四月(しづき)の過去視でも、追えない」


 淡々とした声が響く。

 報告書の表紙には、《赤の礫(レッド・グラベル)》と《一条会》、二つの名前が並んでいた。


 その残党が今どこに潜んでいるのか――

 十三部の誰にも、ⅩⅢ(サーティーン)本部の技術をもってしても、手がかりはつかめなかった。


 “過去”すら封じる一条会の結界。

 それは、四月の過去視をも遮断する異質な領域だった。


「このままでは、手の打ちようがない」


 番人はわずかに息を吐き、立ち上がった。

 その黒衣が、室内の光をすべて吸い込むように揺れる。


 だが彼女は、静かに決意を固めていた。

 誰よりも早く、“魔”の根を断ち切るために。


 彼女は封印局――すなわち自らの部下たちに指令を下した。


「学園周辺を調べろ。“魔”の痕跡を一つ残らず」


 その命令は冷徹で、しかしどこか切実でもあった。


 調査はすぐに始まった。

 結果は、すぐに出た。


 “魔因子”――それは、確かにまだこの地に存在していた。

 様々事件で撒き散らされた黒い波動が、学園地下の土層に滞留していたのだ。

 穏やかな学園の地面の下に、まだ“脈動”があった。


 その波動が《赤の礫》の構成員と共鳴し、彼らを狂わせていた。

 封獄の番人は、報告を受けて目を閉じた。


(このまま、あの学園での生活が続けば……)


 頭に浮かんだのは、学園に通う少年たちの姿。

 ――夜騎士(よぎし)凶。

 ――辻颭。

 魔物の血を引く一族の末裔たち。


(いずれ、彼らも“魔”に呑まれる)


 彼女の脳裏で、その言葉が冷たく響いた。

 そして次の瞬間には、もう決断していた。


「……今のうちに、隔離するしかない」


 その日の夕方。


 夜騎士凶は王位富と並んで下校していた。

 感謝祭の後の混乱もようやく落ち着き、空気はどこか穏やかだった。

 校門の外、夕陽が街を朱に染めている。


 「結局、あの騒ぎも落ち着いたな」


 夜騎士が肩を回しながら言う。


「……ああ。だが、油断はするなよ」


 王位が静かに返す。

 風が吹き、二人のコートの裾を揺らした。


 ――その時だった。


 空気が一瞬、凍りつく。

 地面に淡い光の紋が走った。


「……っ!?」


 気づいた時には、夜騎士の体が光の鎖に縛られていた。

 鎖は光を放ちながら、蛇のように身体を絡め取る。


「な、なんだ!? お前ら!」


 周囲の影から数名の人影が現れた。

 封印局の紋章を胸に刻んだ者たち――封獄の番人直属の部下だった。


「対象、確保」


 無機質な声。

 その目に感情はない。


「凶!」


 王位がすぐさま剣を抜き、光の刃を展開した。

 しかし、鎖を断ち切ることはできない。

 剣と鎖がぶつかるたび、火花が散り、しかし鎖はびくともしなかった。


「離せ! 何を――っ!」


 夜騎士の叫びもむなしく、鎖が輝きを増す。

 次の瞬間、封印局員たちは夜騎士の体を包み込み、

 光とともにその場から掻き消えた。


「……凶!」


 王位が伸ばした手は、空を掴んだ。

 残されたのは、夜風と焦げたような光の残滓だけだった。


 同刻、辻颭の帰路でも、同じ現象が起きていた。

 家路につく途中、突如として足元に封印紋が浮かび上がり、

 光の鎖が身体を締め上げる。


「何だ……これ……っ」


 抵抗も虚しく、光は彼を包み、姿を消した。

 辻もまた、夜騎士と同じく連れ去られた。


 そして、異変をいち早く察知したのは四月レンだった。


 彼はちょうどⅩⅢ本部へ向かう車内にいた。

 視界の隅――過去視の映像が、突然乱れた。


「……っ」


 目を閉じると、脳裏に閃光のような光景が流れ込む。

 光の鎖、封印局の紋章、消える影。


「あいつ……」


 四月の表情が静かに、しかし確実に変わった。

 怒りの熱が、冷たい静寂の中に沈む。


 車が停まる。

 彼女はドアを開け、ひとことも発さずに本部のゲートへと歩いていった。


 その歩みは静かだった。

 だが――誰よりも速かった。


 ⅩⅢ本部、最深部――封印の間。


 空間はほとんど闇に沈んでいた。

 わずかな照明が壁の封印紋様を淡く照らし、

 床には無数の魔導式の刻印が走っている。


 その中央に、二つの影が吊るされていた。

 夜騎士凶と辻颭。


 両腕を光の鎖で絡め取られ、

 天井から吊るされるようにして拘束されている。

 鎖は脈打つように淡い光を放ち、

 触れれば骨ごと焼き切れそうな冷たさを帯びていた。


 その前に立つ女――封印局長、“封獄の番人”。


「……お前たちは、あそこにいてはいけない存在だ」


 氷のような声が響く。

 その言葉には怒りも迷いもない。

 ただ、冷徹な“判断”だけがあった。


 夜騎士は睨み返した。


「オレたちが……何をしたって言うんだ」


 答えは返ってこない。

 番人の瞳は微動だにせず、

 まるで人ではない何かを見ているようだった。


 静寂が落ちる。

 そのとき、封印の間の扉が重く開いた。


 雷のような気配と共に、ひとりの少女が現れる。


 ――四月レン。


 その瞬間、空気が張り詰めた。

 封獄の番人は本能的に異能を発動しかける。

 “時間封印”の波が広がり、空間がわずかに歪む。


 だが、先に動いたのは四月だった。


「ッ――!」


 音よりも速く間合いを詰め、

 横から鋭い蹴りを叩き込む。


 蹴撃。

 風を裂くような一撃が、番人の胴を直撃した。

 黒い装束が揺れ、女の身体が床を滑る。


「私のクラスメイトに手を出すなと――言っておいただろう?」


 声は低く、冷たい。

 だがその奥には、燃えるような怒気があった。

 制御された雷が、四月の周囲に微かに弾ける。


「四月……!」


 吊るされたまま、夜騎士と辻が同時に息を呑む。


「四月、情など不要。奴らは魔物の――」

「――殺すぞ」


 番人の言葉を、四月の一言が遮った。

 その声音に、封印の間が震えた。

 雷が静かに床を這う。

 四月の瞳は氷のように冷えていた。


「そこまでにしておきなさい」


 低い声が響く。

 その声とともに、奥の扉から白いスーツの男が現れた。

 黒い指輪を光らせながら、静かに歩み寄る。


 ⅩⅢ本部・総指揮官。


 彼は手を組み、笑みを浮かべた。


「駄目ですね、封獄の番人。四月に一任したはずでしょう?」

「……しかし、彼らは危険因子です」


 番人が淡々と反論する。

 その瞳は冷たいが、かすかに揺らいでいた。


「命令です」


 総指揮官の声が静かに響いた。


「彼らを離しなさい」


 その一言で、空気が変わる。

 封獄の番人はわずかに眉をひそめ、

 だがすぐに指を鳴らした。


 光の鎖が解け、

 夜騎士と辻の身体が解放される。


 床に膝をつき、二人が息を整える。

 焼けるような痛みが腕に残っていた。


「……悪いな、四月」


 夜騎士が小さく呟く。


「気にするな」


 四月は短く答えた。


 光男が二人を見やり、穏やかな笑みを浮かべる。


「安心しなさい。次はないように、我々で手を打ちます」

「――次はない」


 四月はその言葉を冷たく繰り返した。

 その目には、誰も見たことのない怒りが宿っていた。


 その時だった。


 封印の間に、警報が鳴り響く。

 赤い警光が壁を照らし、警告音が重く響いた。


「報告! 切ノ札(きりのふだ)学園地下より魔反応――!」


 通信士の声が割れる。


「“赤の礫”と“一条会”の残党が地上へ出現! 進路、ⅩⅢ本部方面!」


 光男の笑みが消えた。


「……早かったな」


 四月が振り返る。

 その瞳には、再び雷が灯っていた。


「――あの時の決着をつける」


 そう呟き、彼は封印の間を出ていく。

 雷光の尾が、闇の廊下を照らした。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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