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造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十一章・風、ゆらぐ日

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第百十五話 暗影、忍び寄る魔

 “封獄の番人”が、ゆっくりと口を開いた。

 その声音は冷たくも威厳に満ち、戦場の喧騒を一瞬で制した。


四月(しづき)。過去視で見たものの、報告を」


 短く、それだけを告げる。


「敵は“魔”によって暴走したテロリスト集団――《赤の礫(レッド・グラベル)》」


 四月は即座に答えた。

 声に無駄がない。

 淡々と、しかし確実に事実を並べていく。


「元は政府反ⅩⅢ(サーティーン)派。だが今回、“魔”の因子に侵食され、制御を失っている。

 指導者格は“魔のささやき”に意識を乗っ取られ、自我を喪失しているようだ」


 短い報告。それだけで戦況が理解できた。

 “敵”は敵ですらない。

 ――“魔”に導かれた、生ける災厄。


 その場にいた来賓席の男が静かに座ったまま口を開く。

 白いスーツに黒い指輪をはめた、ⅩⅢの男。

 彼は一言、命じる。


「四月。君は根元を滅ぼしてきなさい」


 その言葉に、四月の表情が微かに引き締まる。


「はっ」


 返答と同時に、稲光が奔った。

 光の尾を残し、四月の姿はその場から掻き消えた。

 単身で《赤の礫》本隊の殲滅に向かったのだ。


 会場に残ったのは、白いスーツの男と“封獄の番人”。

 ふたりは動かない。

 ただ戦場を静かに見つめていた。


「ⅩⅢを模した者たち――まだまだだ」


 “封獄の番人”が低く呟く。

 その眼差しは、十三部の戦う姿を見据えていた。


 白いスーツの男は、静かに口角を上げる。


「だが、伸びしろは悪くない」


 ふたりの間に、冷たい風が吹いた。


 次々と湧き出る《赤の礫》の構成員たち。

 その数は減るどころか、増えていた。

 風悪たちは休む暇もなく応戦を迫られる。


「どんだけいるんだよ!」


 風悪(ふうお)が風壁を展開しながら叫ぶ。

 透明な気流が旋回し、学生たちを囲む防御陣を形成した。


「文句言っても仕方ない! 手を動かす!」


 夜騎士(よぎし)凶が前に躍り出る。

 青黒い影を纏い、その影が形を変えた。

 ――大鎌。

 振り下ろすと同時に、空気が裂ける音が響く。


 風の壁をすり抜けた敵を、夜騎士の刃が斬り伏せた。

 血飛沫が夜空に散る。

 その勢いのまま、影が鯱の尾の形に変化する。

 尾がしなり、敵兵を叩きつけた。


「次!」


 夜騎士の背後を、王位富の光が走る。

 眩い剣閃。

 光の刃が一直線に伸び、こぼれた敵を一掃した。


 風悪、夜騎士、王位――三人の連携は完璧だった。

 まるで呼吸を合わせたように、攻撃と防御が連動している。


 だが、その瞬間。


 ひとりの敵が影の中から滑り込み、風悪の懐へ突き入った。


「しまっ――!」


 間に合わない。

 そう思った瞬間、乾いた銃声が響いた。


 弾丸が敵の額を貫き、倒れる。


「先生!」


 風悪が叫ぶ。

 黒いコートを翻し、宮中(みやうち)潤が銃を構えて立っていた。


「大丈夫そうだな」


 低い声。

 その冷静さに、風悪の胸がわずかに落ち着く。


「こいつら、いったい……何なんですか」


「“魔”による暴走だ。命令で動いてるのか、導かれて動いてるのか……

 もう奴らにも分かってないだろうな」


 宮中の言葉に、風悪は唇を噛んだ。

 事実――“魔因子”が、学園地下に滞留していた。

 その波動が共鳴し、《赤の礫》の構成員を蝕んだ。


 黒八(くろや)空と二階堂秋枷は、すでに子どもたちの避難を終えていた。

 七乃朝夏が精霊を呼び、防御陣を再展開する。

 淡い光の壁が、周囲を包み込むように輝く。


 五戸(いつと)このしろと鳩絵かじかも避難誘導を完了。

 残党狩りに回る。

 六澄(むすみ)わかしが無表情のままそれに続き、効率的に敵の急所を貫いた。


 裏口では妃愛主、三井野燦、辻颭が守りを固める。

 裏からの侵入を防ぎ、脱出経路を確保。


 一ノ瀬さわらの菌糸が地面を這い、敵の足を絡め取っていく。

 触れたものを無力化するその異能は、制圧戦において抜群の効果を発揮していた。


 十三部――全員がそれぞれの持ち場で動いていた。

 誰もが自分の役割を果たしていた。


 結果として、学園側の人的被害ゼロ。

 それは奇跡に近い成果だった。


 一方その頃。


 四月レンは、ひとり海岸に立っていた。

 夜の波が砕け、足元の砂をさらっていく。

 彼女の前には、遠く水平線の向こう――《赤の礫》の本隊が潜む艦影が並んでいた。


 風も、潮も、彼女の周囲だけが静まり返っていた。


 四月は制服の内ポケットから一本の短刀を取り出す。

 それは儀式の道具のように整った形をしていた。

 ペンではない。

 いつもの解析装置でもない。


 ただ、彼女が選んだのは「刃」だった。


 短刀を軽く握り、空へと放る。

 銀色の刃が月光を受け、弧を描いて宙を舞う。


 その瞬間、雷光が奔った。


 四月の右掌から、稲妻が短刀へと流れ込む。

 空中で短刀が媒介となり、雷が大剣の形を取る。

 体育祭のときに見せたものとは比べものにならない。

 空が鳴り、雲が割れ、海が震えた。


 四月は静かに息を吸い、足を踏みしめる。


 ――雷の大剣が完成する。


 巨大な光の刃が彼の背丈をはるかに超え、雷鳴が地を裂いた。


 海に向かって剣を振り下ろした。


 閃光が夜を裂く。

 轟音が空を駆け抜け、海面が爆ぜた。

 彼方の艦隊が、いとも容易く崩壊する。

 雷光に包まれた船影は、一瞬で灰燼に帰した。


 その光景を、誰も見ていなかった。

 ただ一人、雷と海の狭間に立つ少女の背中だけが、冷たい光を放っていた。


 ──後日。


 ⅩⅢによる各班の派遣が始まっていた。


 とある海上。

 封獄の番人が停止させたミサイルが、空中で“時を止めたまま”浮かんでいる。

 処理班がその異様な現場に到着し、息を呑んだ。


「これをⅩⅢが……」

「時を止めて、なお崩壊していない……さすが“英雄”たちだ」


 別の海域では、《赤の礫》の残骸が散乱していた。

 調査班が海上に浮かぶ鋼片を拾い上げ、驚愕の声を上げる。


「岸からここまで……十数キロはあるぞ」

「届かせたのか? あの海岸から、たった一撃で……」


「これがⅩⅢ――」


 波音の中、その呟きはかき消された。


 同じ頃。

 学園の監視棟では、宮中潤が端末の前に立っていた。


「……-02が活性化。類似の-02yが消えたからか」


 マスク越しに、低い声が漏れる。

 端末には“魔因子”の波形が僅かに変化していた。


(人的被害はなかった。だが――この“魔”をどうにかしなければ、平穏など訪れない)


 宮中は一瞬、A組の生徒たちの顔を思い浮かべた。

 彼らの笑顔が、脳裏に浮かんでは消えた。


 A組の教室。


 そこにはいつもの空気が戻っていた。


「結局さ、日常ってすぐ壊れちゃうのよね」


 五戸このしろがスマホをいじりながらぼやく。

 画面では謎のゲームのガチャが回り続けている。


「でもさ、あたしたち活躍したよ!」


 妃愛主が拳を突き上げ、満面の笑みを浮かべる。


「そうですね」


 黒八が穏やかに笑った。

 その輪の中で、風悪は少しだけ遠くを見ていた。


「なんか……まだ終わってない気がする」


 彼の声は静かだった。

 辻が隣で頷く。


「というと?」


 黒八が尋ねると、風悪は首を傾げて答えた。


「……なんとなく、ね」


 夜騎士が腕を組んで言葉を継ぐ。


「この前の連中、《赤の礫》ってテロリストだったんだろ?

 反ⅩⅢ派……つまり、ⅩⅢを狙う組織。まだ何か仕掛けてくる可能性はある」


「可能性はあるな」


 王位が短く頷く。

 空気が少しだけ張りつめる。


 その時、教壇の前の席から四月が口を開いた。


「そのことなんだが、一つ困ったことがある」


 二階堂が目を丸くする。

 七乃と三井野は顔を見合わせた。


「どうやら残党が――一条会の作った結界に逃げ込んだ」


 その言葉に、教室がざわめいた。


「一条会!」


 風悪が思わず声を上げる。

 四月は視線を変えずに続けた。


 「その結界の中では、私の過去視が届かない。

 追跡が不可能だ。……つまり、厄介だということだ」


 夜騎士が腕を組み直す。


「結界に逃げ込まれれば、過去視で追えなくなる……確かに面倒だ」


「一条会と繋がってた可能性もあるってことか」


 王位が補足した。


「だろうな。だいぶ潰したつもりだったんだが……」


 四月は無言で錠剤を取り出し、口に運んだ。

 冷たい水を飲むように、何も感情を見せない。


「じゃあ、まだ襲ってくる可能性があるってことか」


 辻が呟く。


「わかし。……あんた、何もしてないでしょうね?」


 五戸が半眼で睨む。


「何も」


 六澄わかしはいつもの無表情でそう返した。

 その瞳には、相変わらず何の色もなかった。


 教室に笑いが戻る。

 けれど、その笑いの裏に、

 小さな不穏の影が、確かに芽吹いていた。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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