表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第十一章・風、ゆらぐ日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/132

第百十四話 開幕、学園感謝祭

 霜月の風が、校舎の屋根をかすめていった。

 中間テストが終わり、束の間の緊張が解けた学園に、再び新たな空気が流れ始めていた。


 その朝、A組の教室には静かなざわめきがあった。

 ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴り、黒いマスクをつけた担任――宮中(みやうち)潤が教壇に立つ。


「来週、学園感謝祭が行われる」


 穏やかながらも、どこか張り詰めた声。

 生徒たちが一斉に顔を上げた。


「そこで、A組は“十三部”として警護に当たってほしい」


 その一言に、教室の空気がわずかに揺れた。

 感謝祭――それは文化祭と体育祭の総まとめとなる、学園最大のイベントだ。

 保護者や地域の人々に加え、ⅩⅢ(サーティーン)本部、教育庁、スポンサー企業までが来場する。

 学園の再建と防衛体制を内外に示す、いわば“顔”となる一日だった。


「文化祭の展示も一部再公開される。生徒会主催の演劇や朗読、料理ブースも予定されている」


 宮中が資料を手に説明を続ける。

 明るい行事のはずなのに、その声にはどこか警戒の色が混じっていた。


「楽しみたい生徒もいるだろうから、警護は交代制でいく」


 マスクの下から低い声が響く。

 生徒たちは顔を見合わせ、それぞれに担当の準備を始めた。


「オレ、何も出来ないけど……」


 二階堂秋枷が苦笑しながら呟く。

 すると、隣の席から明るい声が飛んだ。


「秋枷君の分は、わたくしが!」


 七乃朝夏が勢いよく手を挙げる。

 その元気さに、教室が少しだけ和んだ。


 窓の外では、初冬の風が木々を揺らしている。

 その風に、風悪(ふうお)は何か胸騒ぎのようなものを感じていた。


(……嫌な予感がする)


 その正体は分からない。

 けれど、どこかで何かが動き始めている――そんな気配だけが、微かに残った。



 そして、感謝祭当日。


 朝の空は高く、透き通るような青だった。

 校庭には屋台やステージが並び、生徒たちの笑い声が溢れていた。

 カラフルな装飾と提灯、焼きたてのパンや香ばしい匂いが風に乗って漂う。


 風悪は、人混みの中で胸の奥がざわつくのを感じていた。

 何かが――違う。

 しかし、それを言葉にできるほどの確信はない。


 その様子を察したのは、辻だった。


「……なんか、あった?」


 横に立ちながら、彼はいつもの飄々とした口調で尋ねる。


「いや……ただ、何も起こらないといいけど」


 風悪は曖昧に笑い、そう答えた。

 しかし、笑顔の奥には不安がにじんでいた。


 校舎の中では、文化祭で好評だった展示が再び公開されていた。

 生徒会の朗読劇や演奏、軽音部のライブ。

 屋外ではⅩⅢによる技術展示や警備システムの紹介も行われており、保護者や来賓で賑わっていた。


 来賓席には、ⅩⅢ本部の幹部数名と、教育庁、スポンサー企業の代表の姿。

 教師陣やⅩⅢメンバーが壇上に立ち、挨拶と共に学園の再建、そして防衛力強化の成果を報告していた。


「やっぱり……ⅩⅢってすごいな」


 夜騎士(よぎし)凶が、ステージ上のメンバーを見上げながら呟いた。

 その瞳には、真っ直ぐな憧れの光が宿っている。


「オレも、いつかあの中に――」


 隣に立つ王位富が、静かに頷く。


「そうだね」


 短い言葉だったが、どこか確かな重みを感じさせた。

 二人の背後では、夕方に向けて準備が進む。

 感謝祭の夜――後夜祭が始まる、その時。


 霜月の風は、わずかに冷たさを増していた。



 昼の部が終わり、学園は夜の装いへと変わっていた。

 校庭には無数の提灯が並び、灯りが穏やかに揺れる。

 生徒、保護者、そして来賓たちが一堂に会し、温かな笑い声があちこちで響いていた。


 ステージでは合唱が流れ、空には一発目の花火が打ち上がる。

 夜空を割く光の尾が、冬の風に散った。


「綺麗……」


 鳩絵かじかはスケッチブックを広げ、次々に上がる花火を筆に映していく。

 隣では妃愛主が、三井野燦と手を取り軽くステップを踏んでいた。

 校庭のあちこちで小さな輪ができ、音楽と笑いが交じり合う。


 六澄(むすみ)わかしは表情を変えず、五戸(いつと)このしろの後ろをついて歩いていた。


 「もう少し楽しそうにしなさいよ」

 「ころしろが楽しめばいい」

 「……は?」


 五戸が苦笑いを浮かべる。


 黒八(くろや)空は屋台の前で大笑いし、七乃朝夏は二階堂秋枷と共にそれを微笑ましく見つめていた。

 一ノ瀬さわらは声こそ出せないが、柔らかい笑顔を浮かべている。

 その穏やかな光景の中、ただひとり、風悪だけが遠くを見ていた。


 風が、いつもと違う。

 冬の冷たさではなく、鉄のような匂いが混ざっていた。


(このまま、何も起きなければ――)


 そう願った。

 それが、彼の胸の奥にあるたった一つの祈りだった。


 ステージの中央では、来賓たちが並んでいた。

 その中に、ひときわ異彩を放つ人物がいる。


 ――封印局長、“封獄の番人”。


 漆黒の封印装束をまとい、冷たいヴェールが照明を反射して輝く。

 彼女は壇上に立ち、ゆっくりと口を開いた。


切ノ札(きりのふだ)学園の皆様――」


 その瞬間。


 轟音が夜空を裂いた。

 ステージ背後で爆発。

 火の粉と共に黒煙が立ち上る。


 来賓席の結界が、音を立てて砕け散った。

 悲鳴。混乱。

 そして、闇の中から影が現れた。


 異能者――いや、国内の異能テロ組織の一団。

 仮面と戦闘装束に身を包み、銃火と異能を併用して侵入してくる。


「っ……来賓区域、破られました!」


 警備担当の声が響く。


 だが、“封獄の番人”は動じなかった。

 立ち上がったまま、マイクを握り続ける。


「――これは試練です。恐れず、己の力を信じなさい」


 まるで何事もないようにスピーチを続けるその姿は、異様ですらあった。


 四月(しづき)レンが即座に立ち上がる。

 宮中潤もそれに続いた。

 二人で協力し来賓区域内の敵の制圧を完了。


 四月の両目がわずかに光を帯びる。

 過去視――推測から数秒先の動きを読む。

 敵の位置、爆薬の仕掛け、上空の軌道。

 すべてが映し出されていた。


「まだ来るぞ。上空から――爆撃(ミサイル)だ」

「……っ」


 宮中が舌打ちする。


 四月は右手を上げ、周囲の電磁波を制御し始めた。


「落下座標は電磁波で撹乱できる。……海に落とすぞ」


 指先から放たれた光が空へ伸びる。

 空間に幾重もの波紋が走り、軌道上の弾頭が引き寄せられていく。


「海に一時的な封鎖空間を作る。後は処理班に任せる」


 “封獄の番人”が頷き、異能を展開した。


 空気が一瞬、凍りつく。

 世界の“時間”が止まったかのように、ミサイルが宙で静止した。


 ――四月の電磁波で軌道をずらし、

 ――“封獄の番人”の異能で時を止める。


 わずか数秒の連携。

 その間に、宮中が十三部へ通信を送る。


「十三部、行動開始。避難誘導と制圧に移れ」


 風悪たちの通信機に、低く冷たい声が届いた。


「了解」


 校庭の提灯が一斉に消える。

 照明が緊急モードに切り替わり、赤い光が校舎を染めた。


「非戦闘員を避難させろ!」

「負傷者を屋内へ!」


 夜騎士が叫び、王位が鋭い視線を向ける。

 黒八と七乃と二階堂が協力して子どもたちを誘導し、五戸と鳩絵と六澄は照明の明滅を合図に人波を整理する。

 一ノ瀬は菌糸の壁で通路を塞ぎ、妃と三井野と辻が裏口を固めた。


 四月が宮中に言う。


「宮中、十三部のことは頼んだ」

「ああ」


 宮中が頷き、すぐに現場へと走り出す。


 次々と現れるテロリストたちを十三部が迎え撃つ。

 風悪が風壁を展開し、夜騎士がその影をすり抜けて一撃で制圧する。

 王位の剣が、提灯の明かりを裂いた。


 混乱の中、誰かがぽつりと呟く。


「防衛力向上の話をした日に……皮肉なもんだな」


 王位富の声だった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ