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ⅩⅢ〜thirteen〜 現代異能学園戦線  作者: 神野あさぎ
第二章・風が交わる日

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第十一話 風が交わす約束


 激動の宿泊研修が終わり、学校にはいつもの騒がしさと、いつもの朝の光が戻っていた。

 穏やかな時間が流れている。だが風悪(ふうお)の胸には、小さな決意が静かに灯っていた。


 ──夢の少女は、一ノ瀬さわら。

 四月(しづき)レンは「本人に聞け」とだけ言って背を向けた。

 ならば、聞くしかない。


「本当は黒い妖精にも話を聞きたい……けど」


 あれは夢の住人だ。どこにいるのかも分からないし、会えたところで話が通じる相手とも思えない。

 風悪はひとつ息を吐き、席を立つ。


「一ノ瀬、話がある」


 短く、それだけ。

 斜め後ろで様子を見ていた黒八(くろや)空と夜騎士(よぎし)凶は顔を見合わせ、同じ誤解に同時に辿り着く。


「これはもしかすると」

「もしかするかもです!」


 妙にわくわくする二人の横で、王位富が腕を組み「やれやれ」と肩を落とした。



 屋上。

 皐月の風がフェンスを鳴らし、雲がゆっくり千切れていく。


「一ノ瀬だったんだな。オレを呼んだのは」


 フェンスに手を添え、風悪が切り出す。

 一ノ瀬は背を向けたまま、ほんの少しだけ肩を震わせた。

 答えを拒んでいるのではない。言葉を探しているのだ。


「ずっと、夢を見てた。一ノ瀬がオレを呼んだのなら、ちゃんと話がしたい」


 一ノ瀬は振り返り、震える指でスマホを操る。

 画面には一行。


『黙っていて、ごめんなさい』


 風悪は小さく頷いた。


「先にオレが話す。……いいか?」


 一ノ瀬は目を伏せ、こくりと頷く。


「正直、オレは自分が何者なのか分からない。ただ、あの黒い妖精が言ってた。あいつを“基”(もと)にしてオレは作られたらしい」


 一ノ瀬の親指が素早く動く。


『少しだけ、違う。――貴方は“あいつ”を基に、人間を改造して妖精にした存在』


「なっ……!」


 空気が一瞬で冷えた。

 風悪は言葉を失う。


「どうして、それを……?」


『“あの妖精”に頼んだのは、私だから』


「一ノ瀬が、頼んだ……?」


 驚愕がそのまま声になる。

 一ノ瀬は続ける。


『中学の時、“魔”で友達を亡くした。声も、その時に。病院のベッドで眠っていた私に、あいつが夢の中で提案してきた』


「会ったことがあるのか?」


 一ノ瀬は横に首を振る。


『“魔”を滅ぼしたいなら、世界の外から呼ぶしかない。――そう言って、私の精神を“外”へ繋いだ』


「世界の外……」


 風悪は、あの夢の電車を思い出す。

 “向こう”と“ここ”。黒い妖精は確かにそう言っていた。


『“魔”の影響を受けないのは、外から来た存在だけ。だから呼べば良い、と』


「それで、オレが来た……」


 一ノ瀬は小さく頷く。


『巻き込んで、ごめんなさい』


 伏せられた睫毛が震え、薄く潤む。

 風悪は、ゆっくりと言葉を選んだ。


「なるほど。オレは外から来た“人工妖精”。“魔”に呑まれないのは、そのせいか」


 胸の底で、何かが静かに定位置にはまる。

 あの夢の黒い妖精の話をしたとき、一ノ瀬が怒っていた理由も分かった。

 ──黒い妖精が、風悪に何か“よくない手”を回すのでは、と。


 一ノ瀬は再びスマホに指を走らせる。

 その時──


「ちょっと待ったあああああ!!」


 金属音を蹴散らす勢いでドアが開き、妃愛主が仁王立ちで登場した。


「え、何? 何?」


 風悪は目を見開き、完全に置いていかれる。

 一ノ瀬は無表情のまま、成り行きを静観していた。


「ちょっ、何あいつ!」


 遠くから覗いていた夜騎士が顔をしかめ、黒八と王位を連れて駆けてくる。


「告白なら許さぬ!」


 妃が腕を組み、屋上に宣言を叩きつけた。


「告白……?」


 風悪は身に覚えがない。勝手に盛り上がっているのは周囲のほうだ。


「女子は! あたしの嫁なの!」


 涙目の妃が突進しかけたところを、


「やめんか。」


 王位が襟首をつまんで制止する。

 夜騎士は額を押さえ、深いため息。


「ったく……いいところだったのによ」

「大丈夫ですか? あ、どうぞ続けてください! さあ!」


 黒八は両手をぱっと広げ、目をきらきらさせる。


「何を?」


 風悪は混乱。

 一ノ瀬は小さく首を横に振り、踵を返した。


「一ノ瀬! オレ、頑張るから!」


 背中に叫ぶ。

 一ノ瀬は立ち止まり、スマホを掲げてみせた。


『頑張るのは私も同じ。』


「……だよな」


 二人はほんの一瞬だけ、同じ方角を見た。

 ――“魔”を討つ、その一点で。


 一ノ瀬が去っていく。

 そこで、風悪は「あっ」と声を上げ、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


(四月の言ってた“魔が誰かの中にいる”って話、共有し忘れた!)


「また、言いそびれた……」


 ぽつりとこぼすと、周りが一斉に反応する。


「やはり告白を!」

「愛主、うるさい」

「男なら堂々と行け!」

「風悪君、ファイト!」


 好き勝手な声は、当の風悪には届いていない。


 一方その頃、廊下を戻る一ノ瀬の指先が、ふっと止まった。

 さっき伝えそびれた言葉が喉元にひっかかる。


『黒い妖精は、わかし君に似てる──』


 だからこそ、彼女は以前から「六澄(むすみ)には気をつけて」と伝えていた。

 見た目だけではない。まとわりつく不気味さも、どこか同じ。

 ただ、六澄には翅がない。


 ──同一人物だという確証は、まだない。


 風が廊下を抜け、教室の窓を揺らした。

 それは、何かの前触れのようにひどく冷たかった。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

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