表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
造られた妖精の少年は、異能学園で“見えない敵”と戦う。 ― ⅩⅢ 現代群像戦線 ―  作者: 神野あさぎ
第九章・風、疾る日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/114

第百三話 風、静まる夜

 体育祭一日目の夜。


 切ノ札(きりのふだ)学園の校庭は、眩い光と笑い声に包まれていた。

 屋台の灯が連なり、夜空に打ち上がる花火が瞬く。

 勝利に沸く生徒たちは、紙皿を手に屋台の残り物を分け合い、楽しげな喧噪が夜風に混ざっていた。


「明日は上級生対決も見たいね!」

「うん、楽しみ!」


 三井野が笑顔で妃に声をかける。

 妃は焼きそばのパックを片手に「先輩が勝つ方に賭けよっと」と冗談を飛ばし、笑いを誘った。


 少し離れた壇上では、王位と夜騎士(よぎし)が閉会の挨拶を任されていた。

 昼間の激戦が嘘のように、二人の表情は穏やかだ。


「流石に緊張するな」

「だね」


 夜騎士がぼそりと呟き、王位が苦笑する。

 観客席からはA組の仲間たちの声援が飛び、笑いがこだまする。


 その喧騒の中で、風悪(ふうお)はふと立ち止まっていた。

 手に持った紙コップのラムネが、風に揺れて細かく波打つ。

 見上げた空には、金色の花火が咲いては消えていく。

「……風が、笑っていない気がする」


 小さな呟きは、誰にも届かない。

 吹き抜ける風が髪を揺らし、遠くで花火が破裂する。

 その一瞬の閃光の裏で、彼の胸に小さなざらつきが残った。


 * * *


 同時刻――ⅩⅢ(サーティーン)監視棟。


 夜のアリーナを見下ろすその部屋は、外の喧噪とは正反対に静まり返っていた。

 壁一面のモニターには、封印監視用の波形データが淡く光を放っている。


 宮中(みやうち)潤が腕を組み、ディスプレイを覗き込む。

 隣で四月(しづき)レンが無表情に端末を操作していた。


「“B組封印エリア”の波形……上昇傾向だな」


 宮中の声が低く響く。

 通常では考えられない微細な“精神波干渉”が、ゆるやかに画面を走っていた。

 それは鼓動のように、一定の間隔で明滅を繰り返している。


「あの闇が封印波に共鳴した……? まさか、媒介に」


 宮中が言う。


「波形は一度止まったが……次第に“願い”のパターンに近づいている」


 四月の声は冷ややかで、どこか興味深げだった。

 その目は、波形の揺らぎの奥に“生きている”何かを見ていた。


 モニターの隅で、微細な残留データが浮かび上がる。

 白いノイズの中に、文字列が滲む。


 ――“-02y<ユイ>”。


 宮中の目が細まる。


「……封印は、静かに呼吸を始めたか。」


 四月が無言で頷いたあと、ぽつりと呟く。


「そうか……一人いたな。」

「一人……?」


 宮中が眉を寄せる。


 四月はモニターから視線を外さず、淡々と告げた。


「一年B組を休学中で、今日も来ていなかった生徒が。」


「それって──」


 宮中が呟いた。


 その瞬間、室内の照明が一瞬だけ明滅した。

 モニターの波形が不規則に揺れ、ノイズの奥で“誰かの声”が微かに響いた気がした。


 四月と宮中は同時に顔を上げた。

 静寂が、再び監視室を満たしていく。


 外ではまだ、花火の音が響いていた。

 だが、それがどこか遠い世界の出来事のように感じられた。



 夜。

 祭りの喧噪が遠ざかり、建物の灯も一つ、また一つと消えていく。


 寄宿舎アパートの一室、風悪はベッドの上で目を閉じた。

 外では秋の虫の声が響き、窓の隙間から微かな風が流れ込む。

 疲れと共に意識がゆっくりと沈み、夢の底へと落ちていった。


 ──ガタン、ゴトン。


 車輪の音。

 視界が開くと、そこは“いつもの電車”だった。

 どこまでも続くトンネル、光の差さない窓。


 けれど今日も、何も変わらない。

 景色は一枚の絵のように止まり、時間の流れさえ感じない。


 車両の奥。

 白い光が揺れていた。


 封印の光。

 その中心に、少女が座っていた。


 ユイ。


「おめでとうございます。勝ったんですね」


 いつもと同じ微笑み。

 だが、その声は少しだけ震えていた。


 風悪は静かに息を吐く。


「……お前は、封印されたはずだ」


「封印は、終わりではありません」


 ユイは膝の上で手を重ね、穏やかに言葉を続けた。


「願いは、形を変えて続くものです。たとえ、それが誰かを苦しめるものであっても」

「願い……」

「はい。風は、いつも誰かの願いを運びます」


 その声が遠ざかっていく。

 ユイの身体が白いノイズに包まれ、輪郭が崩れていった。

 ノイズの向こうから、最後の一言だけが届く。


「……一人、お忘れですか?」

「一人……?」


 風悪が顔を上げた瞬間、

 電車の窓が砕け、外から冷たい風が吹き込んだ。


 視界が一瞬、暗転する。

 風の音と共に、夢が崩れた。


 ──目を覚ます。


 カーテンが揺れていた。

 朝の光が差し込み、鳥の声が遠くで聞こえる。


 風悪はゆっくりと上体を起こした。

 胸の奥に、まだ夢の残滓が残っている。

 “誰かを忘れている”――その言葉だけが、心にひっかかっていた。


 窓を開けると、秋の朝の風が頬を撫でる。

 しかし、その風はどこか冷たく、寂しげだった。


「……また、風が泣いてる」


 呟きは小さく、風に溶けた。


「風悪君、顔が少し青いですよ?」


 背後から黒八(くろや)が声をかける。

 朝焼けを背に、彼女の笑顔は柔らかい。


「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」


 風悪は笑ってごまかした。

 けれど胸の奥には、冷たいざらつきが残っている。


 アリーナでは、生徒たちが体育祭二日目――決勝戦の準備に追われていた。

 昨日の勝利の余韻がまだ続いているはずなのに、

 風悪の耳には、その笑い声が遠くに聞こえた。


 * * *


 同じ頃。


 ⅩⅢ監視棟。

 宮中潤が端末を見つめ、低く呟く。


「“願い”の因子、再起動。封印値、0.07上昇……」


 隣の四月がデータを解析する。

 モニターの片隅に、淡い光の残像が揺れていた。


 それは、笑う少女の影。

 ノイズの中で、一瞬だけ“風のように”微笑む。


 宮中が息を呑む。


「……始まるのか」


 * * *


 朝の廊下。

 足音がひとつ、響く。


 制服の裾を揺らしながら、

 北乃ムラサキが静かに歩いていた。


 群衆熱事件の中心――眠り続けた少女。


 彼女の瞳がゆっくりと開く。


「……誰がB組を──」


 窓の外で、風が吹いた。

 淡い白光が彼女の瞳に映る。


 まるで、運命の風が再び吹き始めたかのように。


主なキャラ

風悪ふうお…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。

・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。

二階堂秋枷にかいどう あきかせ…黒いチョーカーをつけている少年。

三井野燦みいの さん…左側にサイドテールのある少女。

・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。

・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。

・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。

七乃朝夏ななの あさか…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。

黒八空くろや そら…長い黒髪の少女。お人よし。

・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。

辻颭つじ せん…物静かにしている少年。

夜騎士凶よぎし きょう…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。

妃愛主きさき あいす…亜麻色の髪を束ねる少女。

王位富おうい とみ…普段は目を閉じ生活している少年。

宮中潤みやうち じゅん…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ