第百一話 光、降りそそぐ日
体育祭、午後の部。
ⅩⅢ異能結界アリーナ第三層――〈闘技の演壇〉には、再び熱気が戻っていた。
観客席から響く歓声と、結界膜の向こうで煌めく異能の光。
その中心では、次の戦いを前に生徒たちが息を整えていた。
――切ノ札学園 対 海皇高校 一年の部。
先ほどの第一試合、夜騎士・三井野・妃のチームが見事勝利を収め、切ノ札は一勝を挙げている。
「三井野と愛主の異能が相手を封じた。勝利の決め手はそこだったな」
夜騎士は観客席前列へ戻りながら二人を讃えた。
その声は淡々としていながらも、どこか誇らしげだった。
「凶君が決めてくれたおかげだよ……」
三井野は頬を赤らめながら微笑んだ。
隣で妃がすかさず手を上げる。
「いや、あたしのおかげだね!」
妃は自分こそが勝因だとばかりに胸を張る。
そんな二人の掛け合いに、夜騎士は呆れたように笑った。
「はいはい。全員、よくやった」
三人は観客席前列のA組ベンチへと下がっていく。
その背後では、海皇高校の面々が膝をついていた。
魚ノ目憂が苦しげに顔を上げ、悔しさを滲ませる。
「夜騎士っち……やっぱ海豚っちがいないと……」
その言葉に、鯨連座が静かに目を伏せた。
「……海豚」
封印された仲間の名が、熱気の中に沈んでいった。
* * *
そして第二回戦の幕が上がる。
切ノ札学園の出場者――
二階堂秋枷、七乃朝夏、王位富。
対する海皇高校――
海原征、貝崎新、浪久霊。
観客席前列では、風悪たちがステージを見つめていた。
「二階堂って、異能学園に何でいるんだ?
あ、いや、異能ないのにって意味でさ」
風悪が素朴な疑問を口にする。
切ノ札学園は“異能保有者特別育成校”――
異能を持たぬ者は、通常なら在籍すらできない。
それゆえに、二階堂の存在はどこか異質だった。
「聞いた話によれば、ないわけではないらしいです」
黒八が控えめに答える。
隣の辻が首を傾げた。
「どういうこと?」
「発動が限定的すぎるのと、四月さんたちみたいにわかりやすい、攻撃的な異能ではないとか……」
黒八も首をかしげる。
はっきりとは知らされていないが――
二階堂にも何かが“ある”。
ただ、それは戦闘には向かない力だとだけ噂されていた。
アリーナ中央。
六人の生徒が静かに立ち位置を取る。
白い結界膜に、夕方の光が反射して揺れる。
熱気と静寂が混ざり合い、まるで嵐の前の海のように張りつめていた。
王位は目を閉じたまま、ゆっくり見据える。
二階堂は相手をじっと見つめる。
七乃は緊張した面持ちで小さく祈りを捧げた。
白い結界の中で、王位富は静かに構えた。
次の瞬間、彼の右手に光が集まり、一本の剣が形を成す。
透明でありながら、確かに質量を持つ剣――
その刃は陽光を内側から放ち、まるで天上の光を凝縮したかのように輝いていた。
「王位さん、それ……光の剣ですわよね?」
七乃が感嘆の息を漏らす。
「そうなるね。」
王位は淡々と答えた。
だが、その眼差しには静かな闘志が宿っている。
「七乃さん?」
二階堂が首を傾げる。
七乃は唇に笑みを浮かべた。
「一つ、やってみたいことが出来ましたの」
柔らかな声に似つかわしくない決意の響き。
王位は頷き、剣を構え直した。
審判役の教育庁異能管理局職員が手を上げる。
「第二回戦、チーム戦――決闘、開始!」
その瞬間、海皇高校の三人が一斉に駆け出す。
水が弾け、波が立ち、冷気が走る。
だが――
王位の剣が一瞬、音を立てて唸った。
光が膨張する。
七乃の精霊たちが彼の背後に現れ、淡い羽音を立てた。
風の精霊が円を描き、光の精霊がその中心に揺らめく。
「精霊さん、光を――この剣に宿して」
七乃が囁くと、王位の剣に金白の輝きが流れ込んだ。
その光は熱ではなく、祈りのように穏やかで、しかし確かに“力”を持っていた。
七乃は四月の戦いを思い出していた。
雷を導き、力を昇華させたその姿を。
(同じことを……光で出来るはずですわ!)
王位は剣を高く掲げ、天を裂くように振り下ろす。
刹那――
アリーナが“昼”になった。
それは太陽の爆ぜる瞬間を閉じ込めたような光だった。
風も、音も、影さえも消え去り、ただ白だけが残る。
観客席の生徒たちは思わず目を覆う。
結界が軋み、光が空間を満たしていく。
神々の審判のような荘厳な閃光。
そして――静寂。
まるで時が止まったかのように、全ての音が消えていた。
数秒後、光がゆっくりと収束し、形を取り戻す。
そこには、海皇高校の三人が地に伏していた。
「……終わった?」
二階堂が目を瞬かせる。
「すご……七乃さんと王位、すごいよ!」
歓喜の声とともに、二階堂が手を上げた。
「四月さんに感謝ですわね」
七乃は胸に手を当て、静かに息を整える。
その笑顔には、確かな充実が宿っていた。
「ちょっとやりすぎたかな?」
王位は苦笑しながら頬をかいた。
淡い残光が彼の髪を照らし、剣の光がふっと消える。
観客席前列の四月は、顎に手を当て、短く言った。
「……面白い」
それだけ。
けれど、その一言が“認めた”証だった。
審判が手を上げ、アリーナに声が響く。
「勝者――切ノ札学園チーム!」
歓声が波のように広がった。
光の残滓がまだ空に漂い、まるで祝福の羽のように降り注ぐ。
こうして、切ノ札学園の二勝が確定した。
その日、アリーナに降った光は――
まるで、失われた誰かの祈りが再びこの学園を照らしたようだった。
主なキャラ
・風悪…主人公。頭の左側に妖精の翅が生えている少年。
・一ノ瀬さわら(いちのせ)…鼻と首に傷のあるおさげの少女。
・二階堂秋枷…黒いチョーカーをつけている少年。
・三井野燦…左側にサイドテールのある少女。
・四月レン(しづき)…左腕にアームカバーをしている少女。
・五戸このしろ(いつと)…大きなリボンが特徴の廃課金少女。
・六澄わかし(むすみ)…黒髪に黒い瞳、黒い額縁の眼鏡に黒い爪の少年。
・七乃朝夏…軽くウェーブのかかった黒髪の少女。
・黒八空…長い黒髪の少女。お人よし。
・鳩絵かじか(はとえ)…赤いベレー帽が特徴的な少女。
・辻颭…物静かにしている少年。
・夜騎士凶…左眼を前髪で隠している顔の整った少年。
・妃愛主…亜麻色の髪を束ねる少女。
・王位富…普段は目を閉じ生活している少年。
・宮中潤…黒いマスクで顔下半分を覆う男性。担任。




