表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第三章 帝都に降る火

 最初の衝撃は、帝都の外れに落ちた流星だった。

 轟音が大地を裂き、赤い火柱が夜空を突き抜ける。やがて次の流星が矢のように走り、屋根を砕いて炎を撒き散らした。


 「火事だ! 水を持て!」

 「逃げろ、塔が崩れる!」


 街は悲鳴と鈴の音で埋め尽くされる。赤鈴の見習いは泣きながら人を誘導し、青鈴が必死に夢占いで逃げ道を探す。銀鈴や銅鈴も必死に呪式を組み直すが、もはや流れは止められなかった。


 鶺鴒は高台から炎を見下ろした。

 「……未来は変えられるはずだ」

 杖を振り、風の流れをねじ曲げる。結界で火を押さえ込むが、次の流星が屋根を突き破り、すぐに無に帰す。


 弟子たちが叫ぶ。「師匠、広がりすぎています!」

 「やるしかない!」鶺鴒は歯を食いしばる。「変わるまで、やり続ける!」


 宮殿の庭で、紫苑は弟子たちに囲まれていた。

 「市街で多数の死者が!」

 「避難所は人で溢れ、入りきりません!」

 次々に届く報告に、彼女はただ冷たく言い放った。

 「……それが星の定めだ」


 弟子たちは言葉を失い、重苦しい沈黙が流れる。

 紫苑自身も心の奥でわずかな揺らぎを覚えていた。だが、唇は固く結ばれている。

 「私の務めは理を守ること。抗えば、大いなる破滅を呼ぶ」


 そう自分に言い聞かせる。

 けれど——。


 遠くで、幼子の泣き声が風に乗った。

 「……お母さん、いやだ、助けて——」


 その声に紫苑の胸が突き刺される。

 かつて鶺鴒が幼い頃、恐怖に泣き縋った姿が脳裏に浮かんだ。あの小さな手を握り、導いてきたのは誰だったか。


 「……私は、星の読み手である前に、母だったはずだ」


 紫苑は深く息を吐いた。

 理を守る自分と、母としての自分。その二つが胸の内で激しくぶつかる。

 「理に従えば、私は娘をも見捨てることになる。……それで本当に、未来を守ったと言えるのか?」


 その時、宮殿の窓から見えた。

 鶺鴒が火の中で必死に人々を救っていた。

 幼い体に似合わぬ力で結界を張り、弟子たちに指示を飛ばす姿。

 その姿に、紫苑の目からわずかに涙が零れた。


 「……愚かな子。けれど、誇らしい」


 紫苑は立ち上がった。

 「行くぞ」

 弟子たちが驚く。「師匠……理に背くおつもりですか?」


 「理に背くのではない。理を超えるのだ。——人を救うために」


 炎に包まれた街へ、紫苑が現れた。

 宝珠を掲げると、星々の光が結界を形づくり、崩れかけた建物を支えた。

 「母さん……!」鶺鴒が振り返る。


 紫苑は娘を真っ直ぐに見つめ、初めて言った。

 「未来は変えられるかもしれない。だが変えたならば、その責任を背負え」


 母と娘の鈴が同時に鳴る。

 七色の和音が夜空に響き渡り、炎の勢いを押し返す。


 夜明け。

 流星群は去り、街のあちこちから煙が上がっていた。犠牲は出た。だが、帝都は滅びなかった。


 紫苑は瓦礫の上に立ち、鶺鴒に告げた。

 「私は星を読む者として、理に従ってきた。だが今は、母として人を救った。……それが正しいかは分からない」


 鶺鴒は微笑んだ。

 「正しいかどうかは、これから決めるんです。私たちが」


 二人の鈴が朝日を浴びて鳴った。その音は、帝都に「二重の虹が並び立つ時代」の幕開けを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ