第二章 流星の兆し
夕刻の帝都は、ふだんよりざわめきが強かった。
青鈴の旅占い師が広場で声を張り上げ、赤鈴の見習いは怯えた顔で夢の記録を抱えて走る。銀鈴や銅鈴たちは夜空をにらみながら口を閉ざし、金鈴すら確信をもって占断を下せずにいた。
誰もが空を見上げていたのだ。
——夜空に、白い尾を引く光が瞬いた。
ひとつではない。ふたつ、みっつ、やがて数え切れぬほどの光点が流れ、天蓋を切り裂くように走った。
「……流星群だ」
誰かが呟いた声に、人々の息が止まる。
未来視で告げられていた滅びの兆しが、ついに現実となった。
鶺鴒は高台の上に立ち、紅の瞳でその光を見据えていた。
「始まった……」
小さな体を震わせるように、虹鈴がかすかに鳴る。
傍らに控えていた弟子たち——金鈴に昇った若者が三人——が顔を見合わせた。
「師匠、本当にやるのですか? 魔術で流星を逸らすなんて——」
「やりますよ」鶺鴒は即答した。「未来を変える。それが私たちの存在理由でしょう?」
弟子たちは押し黙った。師の言葉は無茶であり、同時に揺るぎなかった。
一方、紫苑は宮殿の庭に弟子たちを集めていた。
星の動きを刻む天球儀は、流星の接近を確かに示している。
「これが星の告げる理。避けられぬ流れだ」
紫苑の声は厳しくも静かだった。
だが弟子の一人が思わず口にする。
「……本当に、このまま受け止めるのですか?」
「そうだ。人は抗うべきではない。犠牲を最小限に抑える道を探すのだ」
紫苑の言葉に従順な者もいれば、不安げに視線を逸らす者もいる。
母として娘を案じる心を胸に隠し、紫苑はただ「保守の旗」を掲げ続けた。
その夜、街の裏路地。
鶺鴒の弟子のひとりが火打ち石を擦り、壁に術式を描いていた。
「風位をずらせば、火は広がらない……」
もう一人は水脈を探り、下水に呪式を仕込んでいく。
彼らは師の命を受け、暗躍を始めていた。
一方、紫苑の弟子たちもまた別の行動に出る。
食料の備蓄を確認し、避難路を記録し、犠牲を減らすための準備を進めていた。
「未来は変えられぬ。ならば受け止める準備を」
同じ街で、二つの思想が交錯していた。
そして深夜。
最初の流星が帝都の外れに落ちた。
大地が震え、夜空が赤く染まる。
「始まったか……!」
鶺鴒は杖を握りしめた。虹鈴が高く鳴る。
紫苑は静かに目を閉じ、両手を組んだ。
「これが理。だが……」
母と娘、二人の虹鈴は、それぞれの信念のもとで立ち上がった。
流星群が本格的に帝都を襲う、その直前に。




