序章 鈴の鳴る街
帝都の夜は、鈴の音に満ちていた。
赤鈴の見習いが客を呼び込み、青鈴は路地で小さな占を売り、銀鈴は星を読み、銅鈴は熟練の技を披露し、金鈴は堂々と店を構える。
そして虹鈴は——偉人。数十年に一人現れるかどうかの存在だ。
だが、今の帝都には二人の虹鈴がいた。
「二重の虹」と呼ばれ、奇跡とも不吉とも囁かれる。
一人は鶺鴒。
金髪に紅の瞳を持つ童女。左耳に虹鈴を光らせ、右耳には亡き弟子の金鈴を残している。未来を視る力に加え、魔術や錬金術まで会得した異才で、「未来は変えられる」と信じている。
もう一人は紫苑。
銀白の髪を一つに束ね、虹鈴を髪飾りにした厳格な女性。数百年に一人現れるとされる存在で、「未来は受け止めるもの」と説く大局の星読み。その言葉は王侯貴族すら動かす。
そして彼女は、鶺鴒の母でもあった。
ある夜、広場で二人が顔を合わせる。
「こんなところで会うなんて、星の悪戯ですかね」
鶺鴒が虹鈴を指で弾くと、七色の音が夜に溶ける。
「悪戯ではない。星の導きよ」
紫苑は揺るぎない瞳で返した。
二人は同じ未来を視ていた。帝都の滅亡。
けれど解釈は真逆だった。
「未来は変えられる」鶺鴒は微笑む。
「未来は変えられない」紫苑は冷ややかに告げる。
ちりん、と二つの虹鈴が同時に鳴った。
その和音は美しくも不吉で、人々の心を震わせる。
「二重の虹が鳴いた……帝都に禍が来るぞ」
ざわめく声が広がった。
母娘の対立は、帝都の命運を揺るがす火種となった。




