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夏物語  作者: kino
2/6

格別な報酬(仮)

俺「今日も無しか」


目の前の画面に映る空っぽの受信ボックスを見てつぶやく。

このボックスは仲間たちと一緒に作った探偵事務所へのメールが届くはずだが、今まで一軒も依頼が来たことは無い。

探偵事務所といっても近所の建物にチラシを投函するぐらいしか宣伝を行っていないから、依頼が来ないのも当然だ。

それに、俺はどちらかと言うと付き合わされてるようなものだから、別にメールが来たところで嬉しくもなんともない。


ポン


そんなことを考えていると一つのメールが届く


【調査依頼……】


調査依頼‼ついに来た!思わず口角が上がる


俺「はっ!…まぁ興味ないけど」


四畳半の誰もいない空間で言い訳をした。


俺「ふぅーー」


深呼吸をして、冷静になって依頼内容を確認する。


差出人:茶座敷沙友里ちゃざしき さゆり

件名:調査依頼

本文:私は○△町のなかよしアパートの312号室に住んでいるのですが、昨日から部屋で不気味なことが起こっていて不安になり、その解決をしていただきたく連絡しました。

詳しいことは現地で説明するので、一度こちらに来ていただけますでしょうか。

なるべく早くお願いします。


俺「うーーん」


どうせ迷子の猫探しぐらいしか来ないだろうと高をくくっていただけに、思っていた以上に深刻な依頼に困惑している。

だが、依頼された以上解決しなければ!

それに、使命感を抜きにしても不気味な現象について興味があるし、オカルト的なことについては仲間たちが頼りになるはずだ。



           *


俺「ここか」


依頼主の住んでいるアパートについた、古い6階建ての白い建物だ。

ちなみに俺以外の事務所のメンバーは学校に行っていたり、バイトをしていたりで合流は夕方になるらしい。

仲間たちに鼻で笑われないように最低限の情報はつかんでおかなくては。


俺「早速行くか!」


依頼主の部屋に向かう、駐車場を抜け、エレベーターに乗る。


俺「狭いな」


乗り込んだエレベーターは、人が二人入れるかどうかと言う、とても小さなエレベーターだった。

エレベーターを降りた俺は無事、部屋の前にたどり着いた。

インターホンを押す。


女「はい。今行きます」


数秒後玄関のドアが開く


女「お待たせしました」


俺「いえいえ、あなたが依頼主の茶座敷さんですか?」


茶座敷「はいそうです。すぐに来てくださってありがとうございます」


俺「なるべく早くとのことだったので、だいぶ深刻な状況だと思いまして」


茶座敷「そうなんです。とりあえず一度見てもらったら早いと思います。どうぞ上がってください」


俺「わかりました、失礼します」


茶座敷「ここです」


彼女は正面のふすまを開ける、中はどうやら和室のようだ。そしてその部屋の床の中心に黒いシミができている、だいたい拳ぐらいの大きさだ。


茶座敷「ちょっと見ていてください」


彼女に言われたとおりに黒いシミを見ていると、ポツンとシミの中心に向かって天井からしずくが落ちてきた。


茶座敷「今は数十秒おきに落ちてきます」


俺「今はっていうのは?」


茶座敷「水滴が落ち始めたのが昨日で、その時はもっと頻繁に落ちてきていたんです。それがだんだん少なくなっていって…」


俺「なるほど」


茶座敷「これってやっぱり血ですよね」


俺「…恐らくそうだと思います」


茶座敷「…それで、依頼なんですが。上の部屋の様子を見に行ってもらえませんか?」


俺「………」


なるほど、なぜ彼女が警察ではなく俺に依頼をしてきたのかが分かった。

〝彼女は俺に通報させるために俺をここに呼んだんだ〟

彼女自身が通報すれば上の階に居るであろう殺人犯に恨みを持たれる可能性があるから。それに比べて、俺が上の階に行って血の出どころを見つけて俺が通報すれば犯人のヘイトは俺にしか向かない。

彼女のことを責めることはできない、俺だって同じ状況だったら不安になるし、なにより俺が探偵事務所なんて名乗ってしまったから、こういうことに慣れていると思われているんだろう。

興味本位でこんなことを始めてしまった俺に責任がある。


俺「わかりました、その依頼引き受けます。とりあえず上の部屋に行って、血の出どころを確認してきます」


茶座敷「すいません。若い方にこんなことやらせてしまって。ずるいですよねこんなやり方」


俺「そんなことありません。あなたが安心できて、俺も事件解決。どっちもwinwinですよ」


昨日見たドラマのセリフをいただいて頑張って見栄を張る。


茶座敷「ありがとうございます……。なんてお礼をしたらいいか」


俺「じゃあ晩御飯ごちそうになってもいいですか?実は今朝から何も食べてなくて」


茶座敷「‼はい!腕に寄りをかけて作ります!」


俺「楽しみにしてます」


そういって俺は部屋を後にする。

階段に向かう。

たった一階上がるために、あの狭苦しいエレベーターを待ってはいられない、少し息を上げながら階段を上る。

今日は今年二番目の猛暑日だ、一番目の猛暑日といい、猛暑日は何かしら事件が起こるらしい。

やっと階段を上り切った…


俺「413号室…あった412号室!」


ようやく茶座敷さんの312号室の上、412号室にたどり着いた。

もしかしたら殺人犯が襲ってくるかもしれない、息を整えて落ち着く、いざとなれば能力で数秒戻れば大丈夫だ。

日本に人を即死させられるような凶器はあまりないはずだ、襲ってきたとしても刃物、死んでしまうまで十分に時間はある。


俺「ごめんくださーい」


意を決して声をかける、反応はない。

インターホンを押す。依然反応なし。

もしかして留守か?


俺「しょうがない」


俺は周りを見回し人がいないことを確認して、ドアノブをひねる…開いた!

恐る恐る中に入る、人の気配はない、と言うか何もない、家具も何も、まるで誰も住んでいないようだ。

部屋の構造は茶座敷さんと全く同じだ、となれば正面のふすまを開ければ血だまりがあるはずだ。慎重にふすまを開ける


俺「………なんで………何もない」


おかしい!ここにあるはずなのに…

そうか!ここは和室、つまり床は畳だ、その下に遺体を隠したのか。

畳の間に指を入れて畳をはがす…


俺「そんな」


そこにはただ下地板があるだけだった。

特にくり抜かれたりはしていない。

板は釘で抑えられている、釘は抜くことはできたとしても、打ち直すのは下の住人に聞かれるリスクがあるから避けるはずだ。


俺「どういうことだ?」


もう一度よく考える、本当に死体が遺棄されているしか可能性はないのか?

いや、もう一つある、アニメやドラマで見たことがある、古くて使われていない蛇口からはさびた鉄と水が合わさり、血のような赤い液体が出てくることがあるそうだ。

このアパートはだいぶ古い建物だし、この部屋は使われていないだろう、条件はそろっている。

おそらく、水道管にひびなどが入って茶座敷さんの部屋の天井にこぼれてしまったんだろう。

そもそも常識的に考えて死体があるなんて、ありえない話だった。


俺「待てよ」


結論が出たと喜んでいる頭の中で一つの違和感を覚える、だがその正体がわからない、なんだ?何かを見落としている。

さっきの考察の中で俺は何かを無意識に除外していた。考えろ…考えろ!頭が熱い、目の前もちかちかしてきた、それでも考えろ!……もう少し、もう少しで!


俺「うっ」


そこで俺は意識を失った



          *


目が覚める、どうやらこのサウナのような部屋で考えこんだせいで意識を失ったようだ、李化の時もそうだが、俺は脳のキャパを超える考え事をすると気絶する軟弱体質なのか。それとも映画のバタ〇ライエフェクトのようにタイムスリープのたびに脳に影響がでているのか?

どちらにしろ今は目の前のことを解決しなければ、影の位置はあまり変わっていない、気絶していたのはせいぜい一時間以内、問題はないだろう。

とりあえず外に出よう。


女「大丈夫?」


俺「うわっ」


ドアを開けた瞬間、正面に見知らぬ女がいた。


女「ごめんね、びっくりした?隣の413号室に住んでる鎌倉黄鼬子(かまくら てんこ)です。大きな音がしたから心配になって見に来たの」


俺「すいません、うるさくしちゃって」


女「いいのいいの、それよりも隣の部屋で何してたの?隣は空き家のはずなんだけど」


おそらく空き巣を疑っているのだろう。ここで警察沙汰になるのはまずい、穏便に済ませないと!


俺「実は俺探偵をしてて、この部屋の下の312号室の人が上から不気味な気配がするから見てきてほしいっていう依頼をもらって、この部屋を調査してたんです」


あくまで最初のメールの内容を伝えておく。


鎌倉「ふーーん、なるほどね…」


俺「もしかして、何か心当たりがあるんですか?」


鎌倉「なんて言うか…、多分あなた彼女に騙されてるわ」


俺「えっ、騙されてるって…どういう…」


鎌倉「彼女は…その…精神疾患を患っててね、それでたまに幻覚を見たりするらしいの、だから変な感じがするっていうのも、その症状だと思う」


俺「そんな…」


鎌倉「だけど、彼女を責めないで上げて、彼女が不安を感じてるのは本当のことだから、幽霊を退治したことにして安心させてあげて」


俺「なるほ…」


納得しそうになった瞬間に気絶する直前の考えを思い出した。


俺「そうか」


”殺人犯は実在した”。

さっきの違和感の正体、それは、俺が無意識に依頼主である茶座敷さんを容疑者から除外していたことだ。

もし、犯人が茶座敷さんだとすれば、412号室で釘を打ったとしても自分の部屋にしかその音は聞こえないから、釘を打つことは可能だ。

おそらく誰かに襲われる幻覚に取りつかれた茶座敷さんはそのまま人を殺してしまった、そしてその処理に困った彼女は屋根裏に死体を隠した。

しかし、すぐに血が天井から落ちてきてしまい、このままではまずいと思った彼女は犯人を新しく作ることにした。

そのためにまずは探偵を家に呼び、その探偵に412号室の床を調べさせる、それによって茶座敷さんの天井裏とつながっている412号室の床には探偵の指紋がべったりとつく、そして、そんなことを知らない探偵をよそに警察を呼び、警察に探偵を逮捕させる。

そして、その何も知らない探偵が俺だ。

思い返してみれば違和感はあった、メールの文面からは緊迫した状況が伝わってきたのに実際には血が天井から落ち始めてから1日ほど彼女はメールを送らなかった、おそらくこの間に312号室の天井に着いている自分の指紋を消し、412号室の畳の下、フローリングの釘を外して、あたかも412号室から死体を遺棄したように見える細工をしていたのだろう。


俺「すみません。行かなきゃいけないところが出来たので、失礼します」


鎌倉「もう行くの?探偵なんて珍しいから、ちょっと話を聞きたかったんだけど、まぁいいわ、彼女のこと安心させてあげてね」


俺「…はい、任せてください」


鎌倉さんの協力で答えにたどり着いた俺は、決着をつけるために312号室に向かう、まさか彼女が精神疾患で人を殺していたなんて…信じたくはないがこれが答えだ。

ゆっくりと階段に向かう、外は気温がだいぶ下がって少し厚めの雲ができていた、天気予報では一日中雲のない晴天なんて言っていたが、どうやら違ったらしい。


俺「ふふっ」


笑いがこみ上げる、天気予報だって間違えるんだ、俺が茶座敷さんの嘘に踊らされてしまうのも仕方ないな、真実なんて直接見てみないと分からないものだ。

階段を下り、部屋番号を確認しながら茶座敷さんの部屋を目指す。

……………。

そこで俺はあることに気が付く。

そして俺は来た道を戻り始める。

鎌倉さんの部屋の前に来た、そしてインターホンを押す。


鎌倉「あら探偵さん」


俺「すいません、やっぱり少しお邪魔してもいいですか?」


鎌倉「ええもちろん!ぜひ探偵の話、聞かせてください」


そういって彼女は俺をリビングに案内してくれた。


俺「俺、ずっと一軒家に住んでたんです」


席に座った俺はしゃべり始める。


俺「だからマンションの事とかよく知らないんです」


鎌倉「そうだったの、私マンション歴長いから、何でも聞いてちょうだい」


俺「では一つだけ、マンションの部屋っていうのは一つずつ、数字が進んでいくんですよね」


鎌倉「ええそうよ、そうじゃないマンションは珍しんじゃないかしら」


俺「それは違いますね。どのマンションでも高確率で存在しない部屋番号があるんですよ」


鎌倉「そうなの。それは知らなかったわ。」


俺「404号室です。4という数字は日本では死を表すからです。海外なんかではキリストを裏切ったユダの席番号として13が嫌われているらしいです」


俺「これを知ったのはついさっきなんですが」


鎌倉「勉強熱心ね」


俺「重要なのは例にもれず、このアパートも404号室がなくて、4階は部屋番号が一つズレているんです」


鎌倉「………」


俺「殺人犯は…あなただったんですね。」


鎌倉「……」


俺「黙っていても変わりませんよ、ここに死体がある事実は!」

そういって俺は思い切り和室のふすまを開ける。

………………死体がない⁉

そうだ!床下だ!

うつむいている彼女をよそに俺は畳をめくる!

………………そこに死体はなかった。

下地板を取り外した痕跡もない。


俺「どうなってる?」


鎌倉「……」


俺「死体をどこに隠したんですか!鎌倉さん‼」


おかしい!ここに死体がないはずがない!遺体を隠したとしても血の痕跡が一つもないのは説明着かない!まだ俺は何かを見落としているのか⁉ 周囲をよく観察する。

時計が視界に入る………日付が違う!時計は昨日の日付を指していた。

どこかで無意識に能力を発動してしまったらしい!

でもおかしい、昨日の俺はここにはいなかった、俺のタイムリープは意識だけを過去に送るだけで、体が過去に跳ぶわけではない、だから発動に気が付けなかった。

どうしてだ?

なんで急に能力が変わったんだ?


鎌倉「あなたの歯車、とてもいいわ」


俺「?」


鎌倉「でもあなた………異端だわ」


俺「うっ⁉」


胸の中心に激痛が走る、目の前にいたはずの鎌倉が消えている

戻らなくては…

そこで俺の意識は途絶えた。


          *



私「ここね」


零二「ああ、間違いねぇ」


咲馬「ほかの三人は残念っス、初仕事に参加できないなんて」


私「みんな用事があったんだから仕方ないよ、私たちだけでも早くいってあげよ。一枝のことだから誰も来ないって今頃、半べそかいてるかもよ」


咲馬「千愛さんは優しいっスね」


まぁ、それはそれで面白そうだけどw


私「さ!行きましょ!」


零二「依頼主は312号室だ、あのバカも多分そこにいる、半べそかいて帰ってなければな」


咲馬「あっエレベーターあるっス」


エレベーターが着く


私「うーーん、これはみんなで乗るのは厳しいかな」


咲馬「自分階段で行くっス」


零二「ちっ、しかたねー」


私「こらっ舌打ちしたらダメでしょ」


零二「うるせぇ、いちいち口出してくんな」


私「そんなこと言ってると李化ちゃんに嫌われちゃうよー?」


零二「う、うるせぇ…です」


私「よくできました。ご褒美としてエレベータータダ乗り権利をプレゼント!」


零二くん悪い子じゃないんだけど、中学生だから反抗期気味なんだよなー。

そこをいじるのも楽しいけどw

あんまりやると嫌われちゃうから、ほどほどにしないと!


私「遅かったね」


エレベーターの出口から3部屋ほど離れた場所にある階段の先で、汗一つかいていない私はエレベーターから出てきた二人に声をかける。


咲馬「千愛さん速いっス」


零二「しゃべってないで、行くぞ」


私「りょーかい」


少し進むとすぐに目的の312号室にたどり着いた。


咲馬「これっスね」


そういいながら、咲馬くんがインターホンを押そうとする。その時、どこからか一枝の声が聞こえた気がした。


私「ちょっと待って」


咲馬「どうしたっスか?」


私「なんか一枝の声が聞こえた気がして、ここが危ないって」


咲馬「でも、ここに入らないことには、どうしようも無いっスよ」


零二「いや、ちょっと待て。その部屋がほんとにあぶねぇなら、あいつなら戻ってきてでも伝えるはずだ。こう考えるならその部屋は安全だが、もし仮にあいつが戻ってこられないほど追い詰められていて、声だけでも俺たちに伝えようとしていたんだとしたら、俺たちが思っている以上にこの依頼はやばいのかもしれねぇ」


私「たしかに最悪の状況を想定して動いたほうがよさそうね、瑠々子ちゃんに連絡するわ、近くでバイトしてるみたいだけど緊急事態だから、25分ぐらいで来られると思う」


咲馬「亜里砂サンは場所が遠いんで来られないっス」


零二「李化はそもそも戦闘はできねぇ」


その後10分ほどで瑠々子ちゃんが合流した。


瑠々子「すみません、急いだんですが」


私「うんうん、分かったから。いったん落ち着いて、牙生えちゃってる」


彼女のバイト先から車で10分掛かるはずだけど…明日の朝刊に時速40キロで走る女子大生が載ってたらどうしよう。


瑠々子「ところで、なんで一枝さんだけ中にいるんですか?メールだと連絡が取れなくなったってありましたけど」


私「瑠々子ちゃん一枝の居場所がわかるの⁉」


瑠々子「はい、能力の影響なのか動物の匂いに敏感で、よく合う人なら近くに居れば大体分かります。でもおかしいです。一枝さんの匂いが上の階からもするんです」


どういうこと?

そもそも、なんで危ないって言った場所に一枝自身がいるの?

何かしらの方法で一枝の能力を封じて、部屋に閉じ込めてるってこと?

なんにしたって今すぐ助けないとまずい!


私「何が起こっているのか分からないけど、このまま一枝を放っておけない、皆でこの部屋に入りましょう」


女「あのーすいません、うちに何か用で…きゃっ」


零二「ちょっと静かにしてろ」


いつの間にか女性の背後を取っていた零二くんが、彼女の口と腕を抑えている。


零二「昼間に男の探偵が来ただろ、そいつが今どこにいるか知ってるか?」


女「探偵さんなら確かに来ましたけど、今どこに居るのかは知りません!」


彼女は怯えがら零二の質問に答えた。

だが、彼女の答えには矛盾がある、今どこに居るか知らないと言ったが、瑠々子ちゃんが彼女の部屋から一枝の匂いを感じている。


零二「嘘をつくな、部屋の中にいるだろ!」


女「ほんとに知らないんですぅ」


泣き出してしまった、とても演技には見えない、どうやら本当に知らないみたいだ。

これでは埒が明かない!


私「わかった、こうなったら強引に一枝を助ける!零二くんと咲馬くんは上の…えーと… 412号室に向かって!」


女性の部屋番号を確認して、一つ上の部屋の番号を二人に伝える。


零二・咲馬『了解』


二人が階段を上がっていく、その間に念のため持ってきておいた結束バンドで女性を拘束しておく


私「二人ともいい?」


上の階の二人に声を掛ける


咲馬「いつでも!」


私「入って!」


二人への掛け声と同時に、私と瑠々子ちゃんが一緒に312号室に入る


瑠々子「ここです!」


そのセリフとともに、瑠々子ちゃんが正面のふすまを開ける、そこには黒いシミがあるだけだった、シミの上を見てみると赤い血が天井に滲んでいる。


私「上か!」


そう判断した私はすぐに部屋を出て上の部屋にいる二人に確認する


私「ふすまの部屋!中央にいるわ」


零二「いねぇ!」


私「そんなはずない!もっとよく探して!物の下に隠されてるのかも!」


咲馬「無いんス、そもそもこの部屋には家具も何も!」


いったいどうなっているの⁉


私「そっちに行く!」


階段を使っている余裕はない!足に力を入れる


瑠々子「まさか…待って」


瑠々子ちゃんの静止を振り払って、上の階に向かって一直線にジャンプする


私「⁉」


私は驚愕していた、自分が予想以上に怪力を使いこなしていることにではなく、312号室から真上に跳んだはずなのに、正面には413号室があったことに対してだ。

私たちは勘違いしていたのだ4階は部屋番号が一つずつズレていたのだ、おそらく縁起の悪い404号室をなくしたのだろう、だから他の階と部屋番号が違う。それに、4階に上がった二人がどちらも3階に上がる時にエレベーターを使ってしまったのも原因だ、どちらも階段を使っていればすぐ近くの部屋番号のズレに気が付けたかもしれないのに

だが、今更悔やんでもしょうがない


瑠々子「無茶しないで」


瑠々子ちゃんも階段を使って4階に上がってきた。


私「みんな聞いて、4階は部屋番号がズレてるの、だから312号室の上はこの413号室、つまりここに一枝がいる!」


咲馬「それじゃあいくっス」


その掛け声とともに、咲馬くんが能力でサイを作り出して扉を破り、それに続いて全員が部屋に入る。

その部屋は412号室とは異なり生活感があった、そして、サイがそのままの勢いで正面のふすまを蹴破ると、部屋の中心に血だらけの一枝が横たわっていた。

すぐさま駆け寄る


私「そんな」


触った瞬間に分かった、人とは思えないほど冷たくて、死後硬直のせいで全身が棒のようになっている。

死後硬直⁉おかしい!死後硬直は夏場でも1日はかかる、それが半日もたってないのにこんなに進行するはずない!


私「この死体は一枝じゃない!死後硬直が早すぎるわ」


女「残念だけどそれは、木野一枝さんで間違いないわ」


全員「⁉」


いきなり全員の中心に見知らぬ女性が現れた、間違いないこいつ…


零二「能力者だ!」


私と同じ結論に至った零二くんが、いち早く全員に伝える、


零二「こいつたぶん俺と同じ消える能力だ、全員で囲んで動けなくするぞ!」


頭で理解するよりも早く彼女に飛び掛かる!

感触がない、逃がした!


私「皆どうしたの!早く囲んで!」


瑠々子「違うの千愛みんな…もう」


私「そんな」


周りを見渡すと血だらけで息絶えた零二くんと咲馬くん、能力のおかげで辛うじて生きている瑠々子ちゃんの姿があった。


女「ごめんなさいね、あなたも一緒に逝かせてあげたいけど、神様からのお告げだから出来ないの」


私に向かって女が言う


私「何を言ってるの」


女「お告げがあったの、あなたたちを見た時に、あなた以外の全員、異端の道しか歩めないって、でもあなたは違うわ、あなたの中には歯車が見える、わたしとお揃いのね」


私「何が言いたいの!」


女「怒らないで、これはチャンスなの!そこの死にかけを殺して!あなたの手で!そうすればあなたも私たちの一員に成れるわ」


私「断るわ」


女「あなたにもこの声が聞こえるはずよ!」


私「そんなもの聞きたくもないわ、あなたが何をしたいのかわからないけど、神とか他人なんていう、くだらない者の言う事を聞いて友達を傷つけるような、そんな愚かなことを私は絶対にしない‼」


女「愚かですって⁉わかった、もういいわ、あなたのこと殺すことはできないけど、死ぬよりもつらい思いを味合わせてあげる!」


そんな女の脅しを無視して、今度は足に力を入れて思いっきり女にタックルをする。

興奮していた女は避けられずに私と一緒に反対側の壁まで吹き飛ぶ。


私「瑠々子ちゃん一枝の血を飲んで!」


瑠々子ちゃんの能力は血を飲んだ相手の特性を得ることができる、一枝の血を飲めば一時的でも一枝の能力を使えるかも


女「させないわ!」


女が目の前から消える、ちゃんと掴んでいたのに!

まずい!女が瑠々子ちゃんを殺しに行く!

振り向くと少し先に女がいる、今までの状況からして、こいつの能力は瞬間移動!


私「それなら!」


私は女が立っている畳を全力の力で持ち上げる、その勢いでおんなが宙を舞う


私「っ!」


このチャンスを逃さないように宙に浮いた女に飛びつき、今度は腕と視界を塞ぐ!

移動先が見えなければ飛べないはず


女「無駄です」


そういって女は私の手を押し返してくる、怪力で強化されている私の手を!


私「そんな」


次の瞬間、女がまた目の前から消える

瑠々子ちゃん!


私「逃げて!」



          *


なんだ?なんか変な気配が…


俺「まぁいいか」


そんなことよりも、今回のすべての元凶である鎌倉さんに会って罪を白状してもらおう


俺「ふぅーー」


深呼吸をする


俺「よし!」


インターホンを押そうとする


?「待って」


ガシッといきなり、インターホンを押そうとしていた腕を誰かにつかまれた


赤妻「私です」


そこにはバイトで来られないと言っていたはずの赤妻がいた


俺「来られないんじゃ」


赤妻「今から説明するので。とりあえずここから離れます」


そういって赤妻と俺はアパートの屋上に向かった。そこで彼女から聞いた話は衝撃的なものだった、鎌倉が瞬間移動の能力者であること、俺が殺されたこと、俺の血を飲んで赤妻がこの時間にタイムリープしてきたこと。


俺「そんなことが…」


赤妻「そういえばなんで今日あなたがここにいるんですか?あなたから依頼のメールが届いたのは明日でしたけど」


俺「まさか、ちょっとケータイの時計見せてくれ」


そこには前日の日付が示されていた


赤妻「私もあなたのケータイ少し、お借りしてもいいですか?」


俺「あぁいいけど」


彼女にケータイを渡すと何度か画面を操作してから返してきた


俺「なにしたの?」


赤妻「何でもありません、保険です」


保険?まぁいい、彼女はたまにズレていることがある、今回もそれだろう。


俺「これからどうする?」


赤妻「あの女を、そのままにはしておけません」


俺「そうだな」


そうして俺たちは鎌倉を捕まえるための作戦を練り始めた



俺「だめだな、それだと最低一人は死ぬことになる」


赤妻「だから私なら治癒力で耐えられます」


俺「リスクが高すぎる」


鎌倉「それでは私は捕まりませんよ」


俺・赤妻「⁉」


屋上につながる階段に鎌倉がいた


鎌倉「ここからみる夕日が好きなんです。地平線とか空のグラデーション、涼しい風、どれも計算されたように美しく整っているでしょう?それに比べて、あなたたち生命はとても醜い、それもこれも、すべては神を壊して世界を自分たちのものだと錯覚している異端者たちのせいよ!」


俺「だとしたらどうするんだ」


鎌倉「わかるでしょう?」


そういうと鎌倉の姿が消え、隣から悲鳴が聞こえる横を見ると赤妻の首にナイフが突き刺さっていた


俺「くそ!」


急いで能力を発動する。そして、意識が戻ると同時に赤妻の方向にジャンプする。

赤妻と俺が地面に倒れる


鎌倉「くっ」


さっきまで赤妻がいたところを鎌倉のナイフが刺している

次の瞬間、今度は目の前にナイフの切っ先が迫ってきた。間に合わない!


ドカッ


そんな効果音とともに鎌倉が横に転がる、わき腹を抑えている


?「助けに来た」


鎌倉を蹴った男がしゃべりかけてくる


赤妻「よかった、間に合った」


俺「誰だ」


?「察しが悪いな、俺ってもしかして結構鈍感なのか?」


俺「俺?」


赤妻「そうです」


そうか、さっきの保険っていうのは、この時間の俺に助けを求めていたのか


鎌倉「なるほど。あなたタイムリープの能力者なんですね。であれば、さっきの攻撃をかわしたのも説明が付きます」


俺「くそっバレた、一回やり直すか?」


一枝「ダメだ、どっちみち俺が二人揃うのはこの瞬間だけだ、今倒す!」


俺「了解!」


その声と同時に二人で走り出す

鎌倉が消える

横にいる一枝が俺の後ろに向かって蹴りを入れる。頭の後ろでナイフが空を切る音がした。

今度は一枝の横に鎌倉が現れて右目をナイフで突き刺す。一枝は即死した。

能力を発動する、意識がなじむと同時に一枝の右目の前の空間に殴りを入れる。

現れたナイフに俺の拳が直撃する。その衝撃で鎌倉の手からナイフが離れるが、下に落ちるよりも前に反対の手でナイフを拾おうとする。

だが、一枝が鎌倉よりも一瞬早くナイフを取る。そのまま鎌倉の両眼を切りにかかるが、途中で軌道を後方にそらす。その先に鎌倉が移動した。その隙に俺は一枝と鎌倉の間に腕を入れる。一枝の攻撃が鎌倉の右目を切り、そのまま左目に到達する直前、鎌倉は一枝の攻撃をのけぞりながら回避し、そのままバク転の要領で一枝を蹴りにかかる。だがその蹴りは俺の腕によって防がれる。

はずだったが、鎌倉の異様な筋力によって俺ごと一枝を蹴り上げた。

能力を発動する、意識がなじむ、それと同時に鎌倉と一枝の間に入れていた腕をひっこめる、鎌倉はすでに蹴りの動きに入っている。一枝と目が合う。喋らなくともお互いの意としていることを理解する。一枝が振っている途中のナイフを手放す、そして、鎌倉の蹴りが一枝に直撃し上に飛ぶ。


一枝「やれ!」


一枝の言葉を背に宙を飛ぶナイフをつかみ、バク中の着地の姿勢に入っている鎌倉の左目に向かってナイフを突き刺す。

鎌倉が悲鳴を上げる。

俺はすぐさま鎌倉に寄り、近くに落ちていた紐で体を拘束した。


赤妻「大丈夫?」


赤妻が、吹き飛ばされた一枝に駆け寄る。


一枝「蹴られる前に後ろに飛んだからなんとか」


赤妻「よかった」


俺も一枝に駆け寄ろうとするが、意識が遠くなり始める


俺「ごめん、そろそろみたい」


一枝「能力を連続で使ったから、能力が切れて元の時間に戻るのか」


俺「よく知ってるな」


一枝「自分のことだから」


俺「それもそうか…じゃあ」


一枝「また今度…があれば」


俺「うん。また今度」




目が覚める、さっきまでと同じ景色だがそこに一枝や赤妻はいない。

階段を下りて4階に向かう、壊れた扉を業者が直している。

さらに階段を下りて1階に向かう。正面から見知った顔が重そうな買い物袋を持ちながら

階段を上がってくる


俺「こんにちは、重そうですね」


茶座敷「セールだったので、つい買いこんじゃって」


俺「よければ一緒に運びますよ」


茶座敷「初対面の方にそこまでしてもらうのは…」


そう。この世界では俺たちが茶座敷さんの依頼を受けるよりも前に、鎌倉を捕まえている。

ここでは彼女と俺は初対面だ。


俺「気にしないでください。ここには仕事で来たんですけど、僕が来る前に全部終わってて、暇なんです」


茶座敷「そういうことなら、お願いしてもいいですか?」


俺「任せてください」


荷物を受け取る

彼女と一緒に階段を上る。

彼女が部屋のドアを開ける。


茶座敷「どうぞ」


俺「失礼します。この荷物はどこに置けばいいですか?」


茶座敷「ふすまの先の和室にお願いします」


俺「わかりました」


鼓動が早くなる、ふすまの取っ手に手をかけてゆっくりと開ける。

そこには血なんて一切ない普通の部屋があった。


俺「依頼達成」


茶座敷「何か言いましたか?」


俺「何でもありません、それじゃあ僕はこれで」


茶座敷「そんな!せっかくだから晩御飯一緒にどうですか?」


俺「そこまでのことじゃありませんって」


茶座敷「そんなこと言わずに、それになんだか、あなたに晩御飯をごちそうしなきゃいけないような気がするんです。」


彼女には俺と交わした、依頼の報酬に晩御飯を御馳走するという記憶はないはずだが。


俺「……」


茶座敷「遠慮しないでください、食材を買いすぎてしまって、どうするか悩んでいたところ

なんです」


俺「そういうことなら是非、いただきます」


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