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夏物語  作者: kino
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転生したらショートスリーパーだった件

「ふぅ…そろそろ寝るか」


目の間をつまみながら1LKの部屋でそうつぶやいた。

数日前に1人暮らしを始めたばかりだが、この部屋にはすでに俺がバイト代を貯めて買った、ゲーミングパソコンとその他モニターやキーボードなどが一式揃っている。


「まぁ、それ以外は何もないけど」


つい声に出る。

何を隠そうこの部屋にはそれら以外の家具が何もないのだ、家具を運ぶはずだったトラックが事故を起こし日程がずれてしまった、パソコンは買った際に新しい住所に送られるようにしていたから、俺が到着した日の夕方に届いた。そんなことがあり、床で寝ることもできない俺はゲームやネットサーフィンをここ数日間ほぼ徹夜でしていた。


「さすがに疲れた…」


ここまで疲れていればどんなに硬いフローリングの上でも、ぐっすり寝ることができるだろう。そう思ってモニターに映る俺の数日間の足跡、もといブラウザを消そうとしたのだが、そこで不可解なことに気が付く、映っているのが先ほどまで開いていたページではなくどこか知らない場所の地図だった。

いや違う、よく見るとこれは、このあたりの周辺地図だ。おそらく寝ぼけて現在位置の地図を開いてしまったのだろう、通常なら考えられないが5(てつ)している今の俺ならやりかねない。

だんだん(まぶた)が下がってきた、本当に限界らしい。

朦朧とする意識の中で最後の力を振り絞ってパソコンの電源を切ろうとする。だが手を動かしながらふと考える。果たして本当に寝ぼけて地図なんかを開くだろうか。そもそもいつ変わったのか、おそらく先ほど目を離した時だ、見ているときに変わったのならさすがに今の俺でも気が付く。

そんな疑問をよそに俺の右手はマウスカーソルをシャットダウンの文字に重ねる 。

途切れ途切れの意識の中でそれでもなお考える、あの時俺はマウスを触っていなかったんじゃなかったか?

まるでもうやめろとでも言いたげに人差し指が左ボタンを押す。

そしてパソコンがシャットダウンを始める。

それと同時に俺の思考も答えにたどり着く。

そうだ、目を離したのは目をつまんだ時だ、つまり、その時俺の右手はマウスではなく顔にあったはずだ、という事は俺はその時マウスに触れていない。

…そこで俺の意識は途切れた。狭まっていく視界の中で最後に目に入ったのは、地図の左下に潜むように指されていた1本のピンだった。


「…………………………」

「…………………………ぅ……………………………」

「……………………………………う…………………………………うぅ……………………」

「…………………………………………………うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」


落ちそうになっていた、というか落ちていた意識を大声をだして無理やり起こす。なぜかは分からないが、ここで眠ってしまったら大切なものを失ってしまう気がした。

俺はこの世界の主人公じゃない、主人公という言葉を知ったときから何となくそう思ってきた、だからきっと、こんなことをしても何も意味はないだろう。けれど、それでもこれをすることに何かしらの意義があるような気がした。

電源を切ったパソコンを再度起動する。そして履歴から先ほど開いていた地図をもう一度表示する。


「なんだこれ」


映し出された画面を見て声が出る、そこにはまるで俺の行動をあざ笑うかのようにエラー画面が表示されていた。


「さっきまであったんだぞ⁉」


眠気のせいで短気になっているのか、つい声が大きくなってしまう。だが感情が高ぶったおかげか大分目が冴えてきた、今度は先ほどの地図ではなく現在地の周辺地図を検索する、そうして先ほど見た地図と寸法が同じになるようにする。


「…ここか」


先ほどピンがあった場所を(ゆび)さしながら確認する、そこには1軒のアパートがあった。


服を着替えている。

先ほどのアパートを地図で見てみたが特にこれといった収穫はなかった、なので実際に見に行くことにした。

本来俺は積極的に外に出ようとする人間ではない、しかし一度気になったことは納得のいくまで調べたいという、某有名刑事ドラマの杉何とかさんのようなめんどくさい性格なのである。


「よし!いくか!」


さっき現在の気温を確認して重くなった腰を無理やり上げる、気温は42度、今年一番の猛暑日、まさにお出かけ日和である。


「行ってきます」


これからお世話になる新居に初めてのお別れを言う。


「あっつ」


気温を調べた時点で分かっていたことだが、連日の猛暑を遮断するために窓のシャッターをすべて閉めていたせいで時間の感覚があやふやになっていたらしい、確認する前は部屋の暗さも合わさって深夜1時だと思っていたのだが、どうやら昼の1時らしい。

午前か午後かもわからないこの腕時計は、新居に来る途中で時計がないと不便(ふべん)だと思い、100均に寄って500円で買ったものだ、会計時に108円出して恥ずかしい思いをしたりと、この腕時計にはあまりいい思い出はない。

まあいい、どうせこう言うことはこっちが気にしているだけで案外、相手の店員は覚えていなかったりするものだ、あの店に行かなければ再び会うこともないだろう。


「それにしてもあの店員可愛いかったなぁ」


レジにいた店員の事を思い出す。髪の色はかなり明るく一見遊んでいそうに見えるが、顔立ちは整っており、何より、真っすぐな眼差しが彼女の性格の良さを物語っていた…そう、まさに今目の前にいるような人物である。


女「あっ、腕時計貧乏!」


腕時計貧乏⁉さすがにもう少しマシなあだ名あっただろ!例えば……だめだ、腕時計貧乏が強烈すぎて他が思い浮かばない、だがここで引くわけにはいかない、隣の部屋から出てきたという事はつまり彼女が新居のお隣さんという事だ、ここであっさり「先日はどうも(笑)」なんて言ったら、これからずっと俺は彼女の中で腕時計貧乏という不名誉なあだ名で呼ばれ続けることになる、それだけは何としても阻止せねば!


俺「昨日田舎(いなか)から()してきた木野(きの)です。これからよろしくお願いします。」


神回避‼彼女は俺が引っ越してきた当日アルバイトをしていた、さらに俺はここ数日一度も外出をせずに部屋の中でひっそりと生活していた。つまり、俺がいつ隣に越してきたのかを彼女は知らない、だからあえて昨日越してきたと言うことで数日前にレジで会ったのは他人であると誤解させることができる!


女「そうなんですか、すみません。以前合った人と似ていたので、つい勘違いしてしまって。」


よし!誘導成功、これで腕時計貧乏から隣に越してきた隣人Aとして友好的な関係を築けるだろう。


俺「いいんです。たまにそういう事ありますよね。世界にはおんなじ顔の人が3人居るって言いますから(笑)」


それにしても、最初以降は礼儀正しい話し方で容姿とのギャップがすごいな、きっとこれが本来の彼女なんだろう、やはり最初の性格が良さそうだっていうのは間違ってなかったな。


女「それ、カッコいい腕時計してますね」


女性からかっこいいなんて言われるのはいつぶりだろう、思わず照れてしまう。


俺「そうですか///これこの前そこにある100均で……………」


顔を上げるとそこには、この世のすべての悪意を凝縮したような笑みを浮かべる彼女が居た。そして俺は理解した。

彼女は最初(はな)から分かっていたのだ、俺が部屋から出てきた時には既に俺が例の腕時計をしているのを確認し、それからは騙されたフリをして俺がごまかす様子を楽しんで見ていたのだ。

そしておそらく、あえてもう一度腕時計について触れたのはこの思考すらも彼女は読んでいたのだろう。


女「ぷっ」


彼女の小さな勝利宣言によってこの争いは終わりを迎えたのだった。

なんて性格の悪い女だ。


その後、俺と向かう方向が同じという事で彼女をバイト先まで送ることになった。


俺「千愛(ちい)はここ長いの?」


千愛とは彼女の下の名前だ、苗字は姫野で、つなげて読むと「ひめのちい(姫の地位)」となる。名前の通りに気品と若干の腹黒さを兼ね備えた性格のようだ。ちなみに下の名前で呼んでいるのは彼女の要望だ、考えてみたら女性を下の名前で呼ぶのは初めてかもしれない。

そんな俺でも呼べるほど彼女は気さくで話しかけやすい。


千「私は今年の四月だから、一枝(かずし)とあんまり変わんないかな」


俺「まぁ、6日の俺と3カ月の千愛は結構違う気もするけど、このアパート2年契約だから広い目で見ればそんなに変わらないか…?」


千「そーだよ、でもまだ私の方がこの辺に関しては詳しいんだから、困ったことがあったらいつでも聞きに来ていいからね!」


俺「ありがとう、今のところ部屋の中しか知らないからな」


千「ふーん…でも昨日の夜慌ててどっか行ってたじゃない、どこ行ってたの?」


俺「ん?昨日の夜も何も引っ越してからまだ1回も出歩いてないぞ?」


千「またなんかごまかしてるな~?昨日の夜友達と2人で歩いてるときに見たよ?」


俺「いやホントに」


千「またまた~」


俺「まじで」


千「……ホントに?」


俺「うん…」


数秒間の沈黙が流れる、でも本当に部屋を出たのは今回が初めてだ、それは俺が一番よく知っている。


千「なんかちょっと怖いんだけど」


俺も少し背筋が冷える。


俺「見間違いって可能性は?」


千「ない…と思う。写真もあるし」


彼女はカバンからスマホを取り出す。そして画面を操作する。


千「きゃ!」


何かに驚いた彼女はスマホを地面に落としてうずくまってしまった。

俺は落ちたスマホを拾って、一応「見ていい?」と尋ねて彼女が小さくうなずいたのを確認して画面を見る。


俺「………」


言葉が出なかった。夜遅くに撮られた写真のようで周囲は暗い、そして写真の中央に街灯があり、1人の走っている人影がある。そこまではあまり怖くもないが、重要なのはその人影に黒い(もや)がかかっているのだ。それによって何とも言えない不気味な印象を受ける。

だがさらに詳しく写真を見て見つけてしまった。その人影は俺と同じ腕時計をしていたのだ。


数分後彼女は落ち着きを取り戻した。まだうずくまったままだが会話はできそうだ。


俺「なぁ、これってどういうことなのかな?」


千「………分かんない」


それもそうだ、何が起こっているのか分からないから彼女は怖がっているのだから。こういう時に気の利いた言葉が出てこないのが自分の嫌いなところだ。


俺「別人なんじゃないか?…………ほら、世界にはおんなじ顔の人が3人いるって………」


言っている自分に腹が立つ、写真では顔は確認できないが、彼女はこれを撮ったときに顔を見ている、そして距離的にかなりはっきりと見ているはずだ、さすがに見間違えることはない。仮に似ているだけだったとしても果たして一つの住宅街に顔がそっくりで同じ背丈で、同じ腕時計をしている人間がいるだろうか。

考えれば考えるほどあり得ない。


千「…………………………………ドッペル………ゲンガー………?」


ドッペルゲンガー、自分とそっくりの姿をした分身、自己像幻視(じこぞうげんし)とも呼ばれる超常現象(ちょうじょうげんしょう)の一つだ。

超常現象や心霊現象などくだらないと言う人が大半だが、歴史上何度も目撃例が出ている以上、それらすべてが嘘であると俺は思うことができない。


謎の男「見ちまったのか」


俺「⁉」


驚いた。急に話しかけてきた事にではなく、その男…いやおそらく中学生ぐらいだから少年というほうが正しいだろう。とにかく、俺が驚いたのはその少年が左右に塀しかない一本道でいきなり目の前に現れたことだった。


少年「いや、見ただけなら問題ねぇんだ」


俺「………」


男の子「問題なのはそれだ」


そういって少年は俺が持っているスマホを指さした。


少年「写真がある以上、勘違いじゃ誤魔化せねぇ」


千「一枝どうしたの?」


横で起こる(ただ)ならぬ気配を感じたのか、彼女が状況を確認しようと顔を上げようとする。


俺「顔を上げるな!」


目の前の少年が何者かは分からないが、何もせずに帰してくれる雰囲気ではなさそうだ。ここで逃げても顔を見られた以上俺はどうしようもない、だが彼女はうずくまっていたおかげで顔を見られていない。

なぜならもし彼女が顔を上げているときから少年が俺たちを見ていたのだとしたら、彼女が写真が有ると言ったタイミングで現れているはずだ。そうでないという事は、今俺がすべきなのは全力で彼女を逃がすことだ。


俺「千愛!顔を隠したまま来た道を戻れ!」


少年「させねぇよ!」


その瞬間、まるで元から誰もいなかったかのように少年の姿が消えた。


俺「どうな…ッぐ」


何が起こっているのか理解できないまま顔面を殴られる。続けてみぞおちに重たい衝撃が加わる、どうやら思い切り蹴られたらしい。息ができない。

せめて千愛を逃がさねばと声を出そうとするがそれもできない。どうやら詰んでいるらしい。



走馬灯が見える、消える少年が何か話している。


少年「……ち…のか」


走馬灯って楽しい思い出とかが流れるじゃないのか?なんでよりにもよってこいつなんだよ、こいつのせいで死にかけてるのに。


少年「………だけなら…………問題ないんだ」


これホントに走馬灯か?なんか体の痛みがない、というか普通に体が動く。


少年「問題なのはそれだ」


このフレーズさっきも聞いたな、確かその次は………


少年・俺『写真が有る以上、勘違いじゃ誤魔化せねぇ』


少年「⁉」


俺「なんで同じこと言ってんの?」


少年「お前……何言ってんだ?」


俺「は?」


どうやら俺がおかしいらしい、そういえば聞いたことがある。

人間は生命の危機に瀕すると、助かろうと生き残る手段を模索する。そして、重傷を負った時などに起こるそれを走馬灯と呼ぶ、だが危機察知能力の高い人間は重傷を負うよりも前、重傷を負うに至る状況になったタイミングでそれが起こる、これを『未来予知』という。

だったかな、結構前に聞いたから間違っているかもしれないな。まぁ今はメカニズムなんてどうでもいい、未来予知ができたのならそれにあやかるまでだ。


少年「……な訳ないか、だいたい見たその日に会うわけもな……」


俺「千愛!顔を隠したまま来た道を戻れ!」


俺は少年の言葉をさえぎって予知と同じ言葉を発した、予知の時に無かった会話を続ければ予知が外れてしまうかもしれない。


少年「ッさせねぇよ!」


予知と同じ言葉を少年が発する。となれば次に来るのは顔面へのパンチ、俺はすかさず顔の前で腕をクロスさせる。コンマ数秒後何もない空間から俺のクロスした腕に打撃が加えられる。どうやら一撃目をしのいだらしい。だが安心してはいられない、すぐにみぞおちに追撃が来る。それを防ぐために顔の前にある腕をみぞおちまで下げる、さらに衝撃を和らげるために半歩後ろに後退する。

さぁ準備は整った……来い!


千「待って‼」


両者の衝突を止めたのは、顔を上げて真っすぐにこちらを見つめる千愛だった。


俺「バカ!顔を上げるなって」


千「ありがとう、でも大丈夫」


大丈夫?どう考えても最悪な状況だ。これでもう千愛も顔を見られてしまった。


千「姿を見せて、あなたも見たのなら」


千愛がそういうと目の前にいきなり少年が現れた


少年「あんた…もしかして…フランケンシュタインか?」


どうした少年、頭でも打ったか?どこの世界に「あなたはフランケンシュタインですか」と聞かれて「はい」なんて答える女がいると思ってるんだ。どうやら俺の覇気で正気を失っているらしい、いや~強すぎるっていうのも罪だよな~。


千「え?フランケンシュタイン?」


ほら見ろ、千愛も困ってるじゃないか。


千「あぁ、多分?」


え?


少年「やっぱりそうか、まさか本当に見た当日に出会うなんて」


千「あなたもあの夢見たのね、そうするとあなたは幽霊…いえ英名だからゴーストでしょ」


少年「当たりだ、俺はゴーストの勇零二(いさむれいじ)


千「私は姫野千愛、よろしくね」


何がどうなっているのかさっぱりだ、千愛はすでに今の状況を理解しているようだ。なんだよフランケンとかゴーストとか、わけわかんねぇ。

でもとりあえず少年との勝負はしなくて済みそうだ。今の数分で一生分の驚きを消費しただろう、今後の人生そう簡単に面食らうことはなさそうだ。


?「あーーー!見つけたーーー‼」


一本道を走ってくる人影が見える。少年には連れが居たらしい。


勇「李化(りか)かーー?」


李化「置いてかないでよー!」


人影が少しずつ鮮明になっていく、声で小学生ぐらいの少女かと思っていたが、顔はまだ見えないが俺と同い年くらいの青年らしい。かわいい声の男もいるんだな。


勇「お前が歩くの遅いからだろ」


李化「違うよ、急にれいちゃんが居なくなったんだよ」


ようやく顔が見えた


勇「お前落ち着けよ、よりによって最悪な奴になってるぞ」


李化(俺)「もー零ちゃんのせいなのに!」


そこにいたのは可愛い女声を発する俺だった……。


千「あっ、一枝が倒れた」


俺「ううぅ」


千「みんなー、一枝が起きたよー」


目を覚ますと知らない部屋のソファで横になっていた。正面にテーブルがあり、それを囲むようにして三人用のソファと一人用のソファが二つずつ配置されている。俺はゆっくりと体を起こす。


千「あっ」


隣には千愛が座っている。いや待て、千愛がそこに座っていたのなら、俺が枕にしていた柔らかい物体はどこに行ったのだろう。


…………………俺は今ほど起きたことを悔やんだことはない。


勇「いつまで膝枕の余韻に浸ってんだこの変態は」


俺「ひっ浸ってねーし」


左の女「変態の事はほっておいて話の続きをしましょう」


俺から見て左手にあるソファに座っている高校生ぐらいの女が言う。どうやら俺の事は眼中にないらしい。


千「えーと、一枝も起きたことだし、私も一回じゃ覚えられなかったから、もう一回改めて自己紹介したいなぁ」


俺の心情を察して千愛が助け舟を出す。


右の男「そーっすよ、自己紹介は大事っス」


そういったのは、右手の1人利用のソファに座る、女と同い年くらいの男だった。


左の女「仕方ないわね」


千「ありがとー、咲馬(さくま)くん、亜里砂(ありさ)さんも!」


しっかり下の名前で呼んじゃってるよ、名前覚えられなかった設定はどこ行ったんだよ…俺の中で新らたに天然キャラとしての千愛が加わった。


左の女「私からね、名前は入王亜里砂(いりおうありさ)、能力名はミイラ」


途中まではまともだったが最後のは何だろう、こんな息を吸うのもけだるそうな女が自己紹介でくだらない冗談を言うとは思えないが。


勇「俺の名前は分かるよな、能力名ももう言った」


確かこいつは勇零二(いさむれいじ)だったか、ゴーストとかいうのは能力名だったってことか。こいつらは自己紹介の時に自分で作った痛い異名を名乗るのが普通らしい。


李化「どっぺるぎんがーの狐憑李化(きつねつきりか)です!12歳です!」


なるほど、千愛が昨晩見た俺(偽)は変身した李化だったのか、だから李化を守ろうと勇はあんなに必死だったのか。

それにしてもかわいい、こんな頭のいかれた集団の中にダイヤモンドの原石が眠っていたなんて。


右の男「幼女に鼻を伸ばすとは、おにーさん末期っスねー」


俺「伸ばしてねーよ」


左の男「それはさておき、俺の名前は首藤咲馬(しゅどうさくま)。能力名はデュラハンっス。ちなみに李化ちゃんの能力名はどっぺるぎんがーじゃなくてドッペルゲンガーっス」


李化「ちゃんと言ったもん!」


咲馬「それは失礼したっす。お詫びに飴ちゃんあげるっス」


李化「わーい」


これが外なら幼女を誘拐しようとする高校生に見えるだろう。

まぁいい、とにかくこれでひとつはっきりしたことがある、やはり彼らは自己紹介で能力名を言うことが正しいと思っているようだ。以前の俺なら「お前ら痛すぎだろw」といってしまっていたが、今の俺は大人。子供の厨二病に乗っかってやるのも朝飯前だ。


俺「じゃあ最後は俺だな、俺の名前は木野一枝(きのかずし)、今年で20だ、よろしく。ちなみに能力名はドラゴンだ!」


数秒の沈黙が流れる


咲馬「あちゃ~こりゃ完全にこじらせてるな~」


亜里砂「………」


李化「どらごんってなぁに?」


勇「李化あいつにしゃべりかけるなバカがうつる」


こいつら


千「みんなっ!一枝はあの夢見てないんだから、わかんなくても仕方ないよ!」


あぁ千愛、前に性格の悪い女なんて思って悪かったな、今ならわかる千愛は最高に性格のいい女だ。


千「だからwwwそんなにwww笑ったらwwwwwww」


前言撤回。どうやらこの空間に俺の味方はいないらしい。


咲馬「ふー笑った笑った、イヤー面白い人っスね一枝さん。いやドラゴンさん」


俺「なんだよ、お前らだってミイラとかデュラハンとか言ってたじゃねーか」


咲馬「違うんすよ、俺たち別に厨二病こじらせてるわけじゃなくて。異能の事について話してるんス」


千「それについては私から説明する、私が一番一枝と立場が似てるから。ここからは私の予想も含まれるから間違ってたら言ってね。まず夢を見ていない一枝の為に今日の朝見た夢の内容について話すわ」


そして千愛はその夢の内容を話し始めた。


千「一枝以外の私たち5人ともう一人の顔の見えない誰かが山奥の廃墟に居るの、そこで私たちはある人と戦ってる。その人は理不尽なくらい強くて、同じように普通じゃない力を持っている私たち6人をどんどん追い詰めていくの、そしてとうとう逃げ道が無くなったときに、顔の見えない誰かが前に出て言うの、「どうしてそんな表情(かお)をしているんだ」って、その時になって初めて私は、私たちを襲うその人の顔をみたの、…………とても悲しそうな目をしてた、そしてその人は苦しそうに言うの『ころして』って」


俺「ころして………か」


いったいどれほど追い詰められたらそんな言葉が出るのだろう、きっとその人はあらゆる手を尽くしたのだ、足掻いて足掻いてさらに足掻いて、それでもどうしようも無くなって、もう死ぬしかないと決心したのだ。


俺「それで、その後その人はどうなったんだ?」


千「分からない、私の夢はそこで終わっちゃったから」


他の面々の顔色をうかがっても、どうやら皆同じらしい。


亜里砂「私が見た夢も全く一緒、異能を発現した人間が同じ日に同じ夢を見た、あれはおそらく近い未来起こること。さすがに偶然というにはあの夢はリアルすぎた。今度は話にも出てきた、普通じゃない力、能力について私から説明する。まず私たちは変態以外全員、特異な能力を持っている、いえ手に入れたと言うほうが正しい、それもつい最近、勇は一カ月前、私は三週間前、首藤は二週間前、狐憑が一週間前、大体一週間ごとに手に入れた。つまり今日新たに能力者が生まれる確率が高い、いつもなら探し出して仲間に加えれば済む話だけどあの夢を見てしまった以上自体は深刻」


そうか…亜里砂の話が本当なら夢に出てきたという強大な力を持った異能力者が、今この瞬間に生まれているかもしれないのだ。


俺「その人とやらは見つかってるのか?」


勇「まだ見つかってねぇ、さらに悪いことに能力の発現には個人差がある、全員がぴったり一週間ごとに手に入れたわけじゃねぇ、李化なんかは首藤が発現した4日後に発現してる」


咲馬「千愛さんは最近高熱が出たことってないっスか?」


亜里砂「能力が発現するときは皆高熱がでてる」


長い沈黙が続く、それもそうだ。もし最近、千愛が高熱を出したのだとすれば今週は千愛が発現する週だったという事になる、だがもし違うとなると……絶望的だ。


千「…………………ごめん、もう先月に高熱を出して倒れてるの」


重い空気が流れる。


俺「おいおいみんな忘れてないか?夢にはもう一人、顔の見えないやつがいたんだろ、今週はそいつの可能性だってまだ…」


咲馬「それは無いっス。とりあえず今度は俺がみんなの能力を説明するっスよ。まず亜里砂のからっス。亜里砂の能力は呪い。相手に幻覚を見せたり、体の一部を動かせなくしたりできるっス。勇くんは姿を消すことができたり、薄い壁なら通り抜けられる。李化ちゃんの能力は他人に変身することができる。そして最後にジブンの能力は生物をなんでも一体生み出すことができるっス。なんでもって言っても大きさは最大で車と同じくらいまでで、作り出した生物は顔が見えない。そしてこれがさっきそれは無いって言った理由っス。夢に出てきた顔の見えない人ってのは多分ジブンが生み出したものっス。今のところ自我があったら怖いんで人を出したことは無いっスけど、あれだけ追い詰めら

れてたら、そんなこともいってられないっスよ。(ちな)みに能力名っていうのは自分の異能に名前がないと呼ぶ時困るんで、空想上の似てる能力を持ってるモンスターの名前をそのまま使ってるって訳っス」


千「私の能力はシンプルに怪力、怪力っていえば確かにフランケンシュタインは適任ね」


勇「状況は分かったな、お前のせいで貴重な時間を2時間も無駄にしちまった。その分協力してもらうからな」


俺「分かってる、上から目線は気に入らないが、こんな話を聞いた以上協力しなきゃ目覚めが悪いからな」


勇「よし!『その人』がまだ能力を発現していない可能性に賭けて捜索を再開するぞ、もし発現していなかった場合はなるべく接触して発現のタイミングを見逃すな。発現していた時は全員にそれを伝えて全力で逃げろ」


俺「発現していた場合はそれでいいと思うが、発現していなかったときは、なんでなるべく接触するんだ?遠くから見ていたほうが安全じゃないか」


亜里砂「夢を見てから『その人』の能力について話し合った。『その人』の異能はバンパイアと似た能力だと思われる。夢の中で『その人』は鏡やガラスに映っていなかったし。能力も傷がすぐに治ったり、背中からコウモリの翼が生えていたり、バンパイアの特徴と酷似していた。さらに、『その人』は夢の最後にころしてと言っていた、つまり自分で死ぬことができない、そして私たちを襲っていることから『その人』の意思とは関係なしに能力が暴走しているのだと考えられる、そうだとすればその理由は能力発現時の吸血衝動によるもの、私たちも経験しているけど能力が発現するときは一時的に意識とは関係なしに能力が暴走する。けど私たちの異能の場合は姿が消えたり、変わったり怪力になったりするだけだったけど、『その人』の場合は吸血衝動が暴走してしまったんだと予想できる、それによって血を取り込みすぎた『その人』はその血によってさらに能力が暴走し止められなくなってしまった。つまり、能力発現の瞬間に立ち会い『その人』の吸血衝動が収まるまで拘束すればいい」


なるほど確かに筋が通っている、もしそうだとすれば俺たちが助かるだけでなく『その人』の事も救うことができる。


俺「話は分かった、だけど『その人』ってのはめちゃくちゃ強いんだろ?拘束なんてできるのか?」


勇「多分吸血を何回も繰り返して力をためていったんだ、だれの血も吸っていない発現時なら普通の人間と大して変わらないはずだ」


俺「結局賭けってことか」


勇「ああ、だがあんな顔をされて何もしないわけにはいかねぇだろ」


こいつもただ生意気な少年というわけではないらしい。


俺「そうだな、やってやろう!俺たちも『その人』も全員幸せになるハッピーエンドを!」


捜索を始めてから二時間が経過した。

いまだに『その人』の影すら見つけていない。今は二人一組で捜索している。俺は一般人なので『その人』を拘束しなければならなくなった時に戦力にならないという事で、ペアは一番拘束力のある千愛になった。


俺「まずいな、いくら夏とはいえあと1時間もすれば日没だぞ」


時計の針は既に18時を回っていた。


千「だね、この辺街灯が少ないから、日が沈んだら捜索は厳しいかも」


俺「くそっ」


どうすればいい、何かないか?些細(ささい)なことでもいい、少しでも可能性のありそうな場所は


……


俺「そういえば」


千「何?何か分かったの?」


俺「…全く関係ないかもしれないんだが、一か所だけ行ってみたいところがあるんだ」


そういって到着したのは、俺の最初の目的地であった例のアパートだった。


千「どうしてこんなところに来たの?」


俺「元々はここに来る予定だったんだ。今日の朝知らないうちに俺のパソコンにここの情報が出てきたんだ。関係ないかもしれないが、未来予測ができたり、能力者に遭遇したりとこの町は不思議なことがたくさん起こるから、もしかしたら何かあるんじゃないかって」


千愛「……確かにそういう不思議なことが起こってもおかしくないかも」


俺「そう思ったんだけど、やっぱり関係無かっ…!」


その時急に千愛が俺の口を押させて物陰に連れて行った。


千「静かにして」


い、息ができない、千愛お前なんて筋力してるんだ、振りほどけない!

俺が千愛の腕を振りほどこうとしていると、先ほど俺たちが立っていたところを、色白で黒い髪を腰まで伸ばしている俺と同い年くらいの美人な女性が通って行った。


千「ふぅ行ったみたいね、どうやらビンゴだったみたいよ」


そういうと千愛は俺の口から腕を外した。


俺「死ぬわ!」


俺は小声で叫んだ


千「何よ、助けてあげたのに」


俺「は?」


千「さっき通ったのが『その人』よ」


俺「まじか」


どうやら本当にこの町は不思議な力があるらしい


俺「で、どうだった?もう発現してたか?」


千「聞くの……忘れてた」


俺「何を?」


千「発現してるかどうか見分ける方法聞くの忘れてた」


俺・千『……………』


説明されなかったから、てっきり能力者同士なら気配とかで分かるものだと思っていたのだが、まさか聞き忘れていたとは。やはり天然か。


俺「とりあえず他のやつらに見つけたことを報告しよう」


報告したところ、全員近くに居たらしく合流することになった。


勇「こんな近くに居たのか」


咲馬「基地から大体5分ってとこっスね」


勇「まぁいい、行くぞ」


俺「おい待て!俺が先頭に立つ、お前みたいな中学生に守られるのは(しゃく)だ」


千「こんな時にケンカしない!」


勇「勝手にしろ」


これでいい、俺よりも先に誰かが傷つくところなんて見たくない。能力もないモブキャラにできるのは肉壁になることぐらいだ。


俺「この部屋でいいんだな?」


千「うん『その人』はそこに入っていった」


俺「よし」


    コンコンコン


『その人』の部屋をノックする。心臓がバクバクいっているのが分かる、一秒後には血を吸われて死んでいるかもしれない、そんな気持ちを振りほどいて声を発する。


俺「ごめんくださーい」


    バサバサ、ガサガサ


こちらに来ている音がドア越しに聞こえる。

そして…


    ガチャ


ドアが開いた。きれいな人だな、そう思った。さっきは一瞬でちゃんと顔を見られなかったが、近くで改めて見るとアイドルですと言われても納得できそうなきれいな顔立ちをしている。

とくに異常はないようだ。


俺「よかった、まだ発現し………」


勇「そいつから離れろ‼」


いきなり俺と彼女の間に勇が現れた。能力で見つからないようにしていたようだ。

俺が先頭だって言ったのに!


勇「発現してるッ」


千「そんな…」


その人「え?なに?」


開かれた『その人』の口には牙が生えていた。


勇「うおおおおぉぉぉぉ」


雄たけびと同時に勇が『その人』に体当たりする。


勇「どれだけ血を吸ったか分からねぇ、俺が抑えているうちに逃げろ!」


咲馬「李化ちゃん来るッス」


いち早く我に返った咲馬が李化の手を引く


李化「零二―――!いやーーー!」


亜里砂「勇が作った時間を無駄にしないで!」


千愛は『その人』を抑え込んでいる勇を一瞬見て、李化の方へ行く。


千「走りなさい!李化!」


その光景はまさに起こりうる中で最悪の結末だった、これで勇が居なくなり夢以上に過酷な運命が始まってしまった…………。

だがまだ、ハッピーエンドとは言えないが、ノーマルエンドにシナリオを書き換えることはできる。

それはつまり


俺「うおおおおぉぉぉぉ」


夢に出てこない俺が勇の代わりに退場すればいいのだ


千「一枝⁉」


先ほどの勇にならって雄たけびを上げる。そして、勇のもとまで行くと強引に彼を引きはがし、今度は俺が『その人』を押さえつける。


俺「いいか!これで運命は夢の通りに進んでいく、だから夢の日までに対策をして、お前たち自身で運命を変えるんだ!」


おそらくこれが俺の人生での最後の言葉だろう。死ぬ前に人を助けるなんてまるで映画の主人公じゃないか、やることはやった、悔いはない。


その人「……あの………あの!」


俺「分かっています。能力の制御が効かないんですよね、でも安心して下さい彼らが必ずあなたを救います!」


なるほどこれが俺の人生最後の言葉か


その人「いえ、普通に制御できますけど」


俺「………はい?」


どうなってるんだ?


その人「降りて貰えますか、ちょっと痛いです」


牙がない⁉今しゃべったときに、さっきまで生えていたはずの牙がなくなっていた。


俺「あっ、す、すいません」


なんかおかしいぞ?


俺「能力は発現したんですよね?その時に吸血衝動が抑えられなかったんじゃ…」


その人「なんでそんなことまで知ってるんですか?あっ‼ひょっとしてあなたが私の命の恩人さんですか?」


何の話だ?確かに彼女の命を救いに来たが、それは叶わなかった。命の恩人なんかではない。


俺「とにかく能力は制御できてるんですね?」


その人「はい」


俺「…………み、みんな―、なんか解決したっぽい」


いまだに李化を連れて行こうと騒いでいる後ろのみんなを呼んで、俺たちは全員で『その人』の話を聞くことにした。


その人「私の名前は赤妻瑠々(あかづまるるこ)、能力の事も説明しておくと、私の能力は血を吸った対象の特性を手に入れることができる。今のところ人の血しか飲んだことはありませんけど。ちなみに人の血を飲んで得られる特性は筋力です」


勇「今の話にはおかしなとところが2つあるぜ。まず1つ目はどうして人の血しか飲んだことがねぇのに、自分の能力をそこまで把握してる?そして2つ目は、なぜ飲んだのが人の血なんだ?動物のならわかるんだ、店に売ってる肉にも多少の血はついてるからな、でも人の血を飲んだってことはつまり、あんたは既に人を襲ったってことだ」


確かに勇の言うとおりだ、視覚的に確認しやすいゴーストやドッペルゲンガーの能力なら発現した時に自分の能力を把握できるが、彼女の場合は筋力という目には見えない能力を得た、なのに自分の能力を生物の特性を得られるものだと把握している。もし彼女が自分の能力が血を飲むとパワーアップする能力だと思っていたならまだ納得もできた。それすらも難しいことだが。現に千愛は自分が怪力の能力を手に入れたことを一か月間自覚していなかった。やはり彼女は俺たちに嘘をついているのか?


赤妻「その通りですね、ごめんなさい説明不足でした。でもできることなら秘密にしておきたかったんです、多分彼は自分のことを知られたくないだろうから。でもこのままだとまた体当たりされそうだから話します。私の能力が発現したのは昨日の夜、その時私はアパートに帰る途中でした、だけど急に熱っぽくなってきて、なんだかのどが渇いてきた、でもアパートの入口まで来ていたから朦朧とする意識の中でどうにか部屋の前まで行ったんですけど、そこで体に力が入らなくなって倒れこんでしまって…もうだめだって時に誰かが来た、その人は「助けてやるから絶対に目を開けるな」って言って私を看病してくれた、そしてその時に異能力についてと私の能力について色々教えてくれた、最後に気を付けなければいけないことも教えてくれた、私の能力は血を飲めば飲むほど制御が難しくなるから少しずつ飲まなきゃダメだって。それとその熱は血を飲めば収まるから俺の血を少しやるって。そしたら「俺はそろそろ行かなきゃいけない」って言ってどこかへ行ってしまった。これが私が自分の能力を知っていた理由、さっきあなた達が来た時にこの命の恩人が会いに来てくれた

んだと思ったんだけど、ドアを開けたらいきなり体当たりされて驚きました」


勇「わ、悪かったな」


なるほど、助けてくれた人の正体には少し疑問が残るが彼女の話に矛盾は無い。それに、彼女の表情は嘘を言っているようには見えない


俺「既に謎の主人公様の手によって、俺たちの未来はハッピーエンドに書き換わってたわけか…あ~なんか安心したら急に腹減ってきたな」


咲馬「そうっスねー、基地でパーッとパーティーでもどうっスか?」


千「サンセーイ!」



                *



千「一枝もっと詰めないと、瑠々子さんが入れないでしょ」


俺「あ、ああ。ごめん」


赤妻「お気になさらず、私は床でも大丈夫ですので」


亜里砂「客人に気を遣わせるとは、これだから変態は」


俺「変態呼びまだ続いてたのか⁉ていうか俺も今日来たばかりなんだけど…」


李化「へんたいってなぁに?」


勇「話しかけるな、襲われるぞ」


俺「襲わねーよ‼」


咲馬「今日1日で大分にぎやかになったっスねー」


千「これからもっと賑やかになるよ!なんたって私たちはバッドエンドを書き換えたんだから!」


全員の顔を見渡す。

口は悪いが頼りになるミイラ、生意気だけど正義感の強いゴースト、どんな時も可愛いドッペルゲンガー、敬語は苦手だが明るいデュラハン、自分の運命を乗り越えたバンパイア、腹黒だけどドジな一面もあるフランケン。これだけいろんなやつが居れば怖いものなんて何もない


千「いくよーー!せーーの!」


全員『カンパーーイ』



ーー1週目ーー


俺「どうしてそんな表情(かお)してるんだ?」


俺は俺たちを殺そうとする彼女に問いかける、彼女は最初からずっと苦しそうな表情をしている。


追撃者「……ころして」


今にも泣きそうな目で彼女は言った。追い詰められているのは俺たちのはずなのに。

この場の一番の被害者は彼女のような気がした。


追撃者「もう、飲みたくないの」


その一言である仮説を導き出す。だが確証がない、俺は再度質問をする。


俺「君の能力はバンパイアか?」


彼女が頷く。これで謎は解けた。そして、泣きそうな彼女に向って言う。


俺「…任せろ」


俺は覚悟を決める。今まではどうなるのか予想がつかなかったので数秒間だけ使っていたが、そんなこともう言っていられない。

俺は自分の能力を全力で発動する。




俺「どうやら成功したらしいな」


アパートの一室でパソコンしかないという事は、引っ越してから6日以内。腕時計で日付を確認する。


俺「当日の1時か」


窓がシャッターで占められていて午前なのか午後なのかわからない


俺「記憶通りだ」


俺の能力は過去に戻ることができる。

だがタイムリープはバタフライエフェクトの問題があるので今までは10秒以上過去に戻ったことは無い。だが唯一この瞬間はうまくやれば他人にも俺自身にも気づかれることなく過去を改変することが可能だ。


俺「急がないと」


すぐに作業に取り掛かる、パソコンで彼女が住んでいるアパートの住所を調べる。


俺「結構近いな」


走れば15分で行けそうだ。彼女が能力を発現するのはちょうど15分後だ、運命の力ってのは恐ろしい。時を戻せると言っても大体の時間しか指定できない。


俺「今回も綱渡(つなわた)りだな」


そういって急いで部屋を出る、そうして彼女のアパートまでの最短ルートである一本道を無我夢中で走る。

その時よく知っている顔を見つける、千愛だ。友達と一緒にアパートに帰る途中なのだろうか、少ししてあちらも俺を見つけたようだ、ここではまだ俺たちは知り合う前だから声をかけられることもないだろう。千愛を無視して横を走り抜ける、その時に写真を撮られた。だが問題はない、元々ここにいるはずがない俺の事を撮っても、世界の修正力によって黒い(もや)がうつるだけだ。あとで写真を見返して少し怖い思いをする可能性はあるが。

その後は何事もなく無事にアパートに到着した。


俺「どこだ?」


辺りを見渡す


俺「見つけた」


部屋の前で倒れている彼女を発見した。すぐに駆け寄って声をかける。


俺「助けてやるから安心しろ」


バンパイアの女「誰?」


俺「目は開けるな」


バンパイアの女「は……い……」


俺「君は今日異能力を手に入れたんだ、体調が悪いのはそのせいだ。能力はバンパイア、生き物の血を吸うことでその生物の特性を手に入れることができる。とても強力だ、だが欠点もある、一気に血を飲みすぎると能力が暴走して制御できなくなってしまう。だからなるべく少しずつ飲むんだ」


バンパイアの女「うぅ」


俺「俺はそろそろ行かなきゃいけない、血を飲めば熱は下がるから俺の血を少しやる。無理せずゆっくり飲め」


俺は指の先を彼女の牙で切って、流れる血を飲ませた。


俺「人の血を飲んで得られる特性が何か俺は知らないから動けるようになったら自分で確認するんだ、そして日常生活に問題なさそうな特性ならこれからはなるべく人の血を飲むように、間違っても蝙蝠(こうもり)とネズミと猫の血は飲んじゃだめだ、その3つは外見に特性が出る」


伝えるべきことはすべて伝えた、世界の修正力が働く前に退散したほうがよさそうだ。


俺「それじゃ」


俺はアパートを後にした。時刻は深夜2時、この時間の俺が違和感を感じないようにしなければならないから、昼の1時にさっきと同じ姿勢で能力を解けばいい。


俺「あと11時間何しよ」


俺は町を歩くことにした。仲間たちとの思い出がたくさん詰まったこの町を。





俺「もうこんな時間か」


腕時計は昼の12時を指している。


俺「そろそろ帰らないと」


部屋へと帰り始める。


李化「見つからないね~」


勇「こんなくそ暑い日に外を出歩くやつが居んのか?」


まずい!李化と零二だ、人を探しているようだ、そんなときに俺と出会ったら印象が強すぎる!

とりあえず回り道をしよう 。


大分時間をロスした、あと30分で1時だ


咲馬「『その人』とかフランケンどころか人影すら見えないっス」


亜里砂「分かってるからわざわざ言わないで」


何⁉お前らも人探しか!くそっ時間がないが遠回りするしかなさそうだ





俺「やっと着いた」


俺のアパートはあの角を曲がれば…


千「今日は一段と暑いな~」


千愛⁉ベランダで洗濯物を干している千愛が居る。ここで見つかってはまずい、この後何も知らない俺が彼女と出会う、その時に矛盾が生じてしまう!

1時まであと1分!


千「そろそろシフト書きに行くかな」


千愛は部屋に入っていった。


俺「よし!」


残り30秒!

俺は走ってアパートまで行くと、千愛に気づかれないようにそっと自分の部屋へ入った。

残り5秒!!

音が出ない最速の動きでパソコンの前に座る。

ギリギリ間に合った、後1秒もない。12時間前と同じ、目をつまむ姿勢をとって能力を解除する。

その時にミスに気が付く。


俺「地図開いたままだ」


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