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第45話 『この世界で一番貧弱な魔剣☆爆誕』


「ユーリ、どうしよう⁉」


 ロズウェルは片手に残った砂をユーリに見せると、彼女は平然として言ってのける。


「落ち着いて、これでいいの」


「え……どういうことだ?」


「見て」


 床に落ちた真っ黒な砂の中から、小粒な宝石ほどの大きさの光が浮き出てきた。それはふよふよと宙に浮き、ロズウェルの質素な剣に吸い込まれるように消えた。


「これであなたの剣がウィオラケムの魔剣に成った」


「?」


 まったくもって意味がわからない。ロズウェルが梟のように何度も左右に首を傾げると、ユーリが戸惑った顔で告げる。


「所有者によって姿を変える魔剣だってことは説明していたわよね?」


「え? うわっ⁉ 嘘⁉」


 ロズウェルは奇声を上げてから口元を押さえる。


(僕の心理状態に合わせて剣が変化すると思っていたけど、御霊を受け継いで、歴史に戦果を刻むって意味だったのか⁉)


 それはそれでカッコいいが、思い描いていた魔剣ではない。


「ドラゴンの羽みたいな装飾や、黄金色に輝いたりはしないの⁉」


「しないけど」


「ルビーとかエメラルドとかの宝石も付かない⁉」


「ないわよ」


 ロズウェルが腑に落ちない顔をしていたのに気付いたのか、女性陣たちがフォローしてくれる。


「私は質素でいいと思うけど」


「わたくしもそう思います」


「ああうん、ありがとう」


 ロズウェルはその場で泣き崩れたい気持ちを必死にこらえる。


(おそらくだけどフランベルジュを選んだのはユーリのお父君だろう。賢明だな。というか御霊のことを知っていれば僕だって違う剣を選んだわ‼)


 過去の自分、もっと派手な剣を買っておけよと思ったが、茶葉の誘惑には勝てない。


 例えあの場面をやり直すことができたとしても、やはり剣より茶葉にお金をかける自分が愚かで憎い。


(この世に存在する魔剣の中で一番見た目が弱いんじゃないのかこれ)


 駄目もとで装飾品を継ぎ足そうとして、その辺の石壁に生えていた小さな結晶を怒りの鉄拳でもぎ取り、割れた欠片を剣にくっつけようとした。


 すると近づけるんじゃねえといわんばかりに剣が熱を帯びて結晶がジュワッと溶けた。


(見た目は変わらないけど、ちゃんと魔剣っぽい機能がついた……すごい)


 謎の感動を抱いていると、女性陣二人の目が冷めていることに気づいた。最近、空気を読むことを覚えたので、ロズウェルは明るい声で告げる。


「よ、よーし、これで勝つぞ~」


「ええ」


「行きますわよ、お兄さま」


 魔剣よりも、ユーリとアルティリエのほうが頼りになりそうなのは気のせいだろうか。


「それでウィオラケムの魔剣の魔力はどうかしら?」


 ユーリの問いかけに、ロズウェルは剣を握って魔力を流してみる。


「そうだな。《三十》ある。これだけあればいろいろできそうだ。アルティリエ、毒状態を治すからな」


 ロズウェルは無言詠唱でアルティリエに治癒魔法をかける。彼女は頬を膨らませたが、先ほどよりも顔色がよくなった。


(これでよし。結果的に、慣れない剣で戦わずに済んだので、これはこれでよかったのかもしれないな)


 そう思っていると、アルティリエが嫌味ったらしく声を上げる。


「ということは《氷晶の庭園》も使えますし、もうひとつのオリジナル魔法も使えますね」


 するとユーリも声を弾ませる。


「オリジナルのほうが二つあるの? ロズウェルすごーい!」


「そ、そうかな」


「どんな魔法なの?」


 キラキラとした瞳に緩みそうになる頬を押さえながら告げようとしたとき、アルティリエがすまし顔で口を挟む。


「《茶摘みからの情景》と言って、茶葉を摘み取ってから紅茶ができるまでの加工工程を相手の脳裏に見せることができる混乱魔法です」


「学習魔法と言ってくれないかな⁉」


 ロズウェルがツッコんだあと、恐る恐るユーリの顔をうかがうと、彼女は「うわぁ」とドン引きしていた。


「魔物に混乱魔法は効きませんが、あの魔物は知能が高い上に、お兄さまを真似ています。足止めに十分使えるかと。現に高濃度魔力回復薬(ポーション)は狙われてもお茶は狙われませんでしたから」


「褒められているのか、けなされているのかわからないな」


「なにを言っているのですか、お兄さま。魔物を倒す切り札になりますよ!」


「そうよ! やっぱりロズウェルはすごいのね」


 二人が必死に鼓舞してくれるが、二歳年下の女の子たちによいしょされるのはマジでふがいないので、気持ちを早急に切り替えることにする。




◇◆◇

「最終確認だ」


 ロズウェルの言葉にユーリとアルティリエが頷く。


「僕とユーリが近距離で攻め、アルティリエが後方支援だ。救助隊が来る気配はまだないが、戦闘が始まれば必ず駆けつけてくれる」


 靄対策で、ロズウェルとユーリは目にゴーグルをつけ、マフラーで口元覆う。アルティリエもハンカチで口元を覆い、青い石がついた樫の木で作られた杖を握り締めた。


「お兄さま、ユーリ。再三お伝えしますが、魔物の攻撃は魔法の真似事なので、すべてが無言詠唱だと思ってください」


「ああ、避けるタイミングは僕が見極める」


 ロズウェルはそういってから、口角を上げる。


(さあ、過去の自分を乗り越えに行こう)


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