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第23話 『僕と私の弱さと強さ』

 ロズウェルの頬には雨ではなく、冷や汗が流れた。


 川岸にいた救助者と馬を一か所に集め、結界のように四方を覆う防護魔法をかける。


(これで魔力消費量は《五》だ。箒に乗って帰ることを考えると……あとは《三》か)


 つい険しい顔をしたくなるが、救助者たちに不安を見せるわけにはいかない。

 ロズウェルは勝気な笑みを顔に張りつける。


「大丈夫ですから」


 淡々とした声は、小さくも大きくもなく、波紋のように広がる。


「みなさんは絶対に助かります。どうか我々を信じて、この場から動かずに見守っていてください」


 救助者たちが小さく頷いた。ロズウェルは真剣な眼差しで駆け出し、剣を振りかぶる。


(来た――)


 まずは一匹目。口鳥の歯は鋼鉄を砕くが、それ以外の黒い毛に覆われた胴体は柔らかい。歯以外を狙って胴体を斬る。


 だが口鳥は二匹目、三匹目、四匹目、五匹目、と次々と襲いかかってくる上、ギャアッ、ギャア、という喉をつぶされた人間の悲鳴のような鳴き声が実に不快だ。


「くっ」


 羽が腕をかすった。隊服ごと切れて、肌から血が流れる。


 口鳥は蝙蝠(こうもり)の魔物の強化型だ。弱点は光で、暗闇の中でしか目を開けることができない。だから雨雲の中を移動していた。


(目を閉じているのに俺の位置を正確に割り出して襲っているということは……やっぱりこいつらは音で獲物を認知しているのか!)


 少しでも歯に当たったら、そこから肉をえぐり取られる。穴だらけのチーズになりたくないが、斬るたびに他の口鳥に居場所を知らせてしまうので、攻撃が止まない。


 まるで砲弾の雨を相手にしているようだ。


(……!)


 一気に十匹の口鳥がロズウェルを目掛けて降下してきた。一振りで三匹以上仕留めなければ大怪我を負う。


(やってやるよ)


 身構えたとき、真横から雷魔法が閃いた。


「お待たせ!」


 ユーリが箒から飛び降りて、ロズウェルの隣に並び立つ。雷魔法は口鳥に当たらなかったものの、光の眩しさによって動きを乱したため、ユーリと共に次々と斬っていく。


「私が魔法で蹴散らすから、援護して!」


「わかった!」


 ロズウェルはいま一度気合を入れる。ふがいない姿をさらしにオルヌスに来たわけではない。




◇◆◇

「あっちはユーリとロズウェルに任せておけばいいだろう」


 トバリは目を細めて二人を一瞥してから、肩に背負っていた二つの剣を引き抜く。刃渡りは長剣よりも短いが、こまめに手入れをしているため、曇り空の下でも鋭い光を放っている。


 肩らなしをするように、剣を左右に振る。それだけで降下してきた口鳥が十匹ほど地面に落ちた。


「俺もあちらに行きましょうか?」


 救助者たちに防護魔法をかけ終えたレイノルドがトバリの横に並び立った。彼の片手には古めかしい魔導書が開かれている。


 トバリは「いや、いい」と口角を上げる。


「ユーリとロズウェルの成長を促したい。だからといって救助者たちを危険にさらすわけにはいかないからな。レイ、最初のうちは光魔法や雷魔法を使うなよ。なるべくこちらで引きつける」


「それはいいですけど……」


 レイノルドが手短に呪文を唱えると、風魔法による斬撃を口鳥に仕掛ける。だがその表情はどこか不服そうだった。


 トバリは口鳥の攻撃を体をひねってよけたあとに足で踏みつけた。


「なんだ、不満か?」


 レイノルドはそれを見てドン引きしたあと、おもむろに口を開く。


「ずいぶんと新人の実力を買っているんですね。口鳥の数が多い。速攻で倒して格の違いを見せつけたほうが今後の彼のためになるのでは?」


 レイノルドとトバリの視線が交差した。


「そりゃ期待するだろう。お前だってそうだろう?」


「は?」


「よそ見はするなよ」


 そういってトバリは口鳥を討つために跳躍し、双剣で風を起こすように振り回した。




◇◆◇

(え、あの人いま、中州の木の真ん中あたりまで跳躍しなかったか⁉)


 ロズウェルは目の端に映ったトバリの人間離れした身体能力に目を見張る。


 さすがオルヌスの副隊長だ。それに彼の相棒であるレイノルドにいたっては、魔導書を片手に風魔法を展開し、空中で様子をうかがっている口鳥を討ち取っていく。


 二人の連携は形になっていて、トバリが近距離を、レイノルドが遠距離の口鳥を相手取って一匹たちとも救助者たちに近付けない。


(俺たちが二人を真似するなら、僕がトバリさんの役で、ユーリがレイノルドさんの役になるけど……)


 ユーリもそれをわかっているのか、剣を右手で持ち、左手で雷魔法を展開する。


 ぴしゃりっ、と細い雷が数本生まれるが、口鳥に当たらない。


(いや別に雷の眩しさで口鳥の動きが抑制されているから、斬りやすくていいんだけど)


 最初はわざとかと思ったが、彼女の顔に張りついた笑みがいつもとは違って余裕の無さがにじみでていた。


(――まさか、ノーコン⁉)


「ひっ!」


 悲鳴が聞こえて勢いよく振り返ると、討ち漏らした口鳥が救助者たちに張った結界にぶつかっていた。ロズウェルはすぐにそいつを討ち取るが、いまのはロズウェルが足を止めてしまった失態でもある。


「ロズウェル、次は右側の口鳥をお願い!」


「わかった!」


 ここでユーリとロズウェルは互いに声がけが足りていなかったことに気づいた。さっきよりも指示を出し合いながら、対応していく。


(なんで口鳥は雨雲に隠れて逃げない)


 ロズウェルは必死に思考を巡らせる。あと十分もすれば上空には青空が広がる。通常なら口鳥が雨雲に姿を隠して逃げる頃だ。


(まずいな。上空の口鳥がひとつの塊になりつつある)


 以前『ヒスイの迷宮』で口鳥のベースとなった蝙蝠の魔物と対峙したときは、最終的にひとつの塊になって攻撃してきた。


 いまも同じことをしようとしている。このままではジリ貧だ。


(流れを変えるぞ!)


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