サイン
――こんにちは。
「こ、こんにちは……」
――あはは、緊張してる?
「はい……少しだけ……」
――こういう場所に来るのは初めて?
「はい……でも、こんなにきれいな部屋だなんて。驚きました。ラブホテルっていうんですよね。素敵な響き……」
――僕も来るのは初めてです(笑)。それで、いくつか質問があるんだけど、いい?
「はい……でも、ちゃんと答えられるか、不安です……」
――大丈夫。リラックスして。まず、名前を教えてくれる?
「サトウミカです……」
――佐藤さんか……よくある名字だね。
「はい。たくさん家族がいるみたいで、嬉しいです」
――なるほど(笑)。じゃあ、次の質問。年齢は?
「えっと、十八歳……以上です」
――ん、十八歳以上ね……。まあ、次の質問に行くね。初めてエッチしたのはいつ?
「高校三年生のときです……」
――へえ、かわいいのに意外と遅かったんだね。
「えへへ、かわいいって言ってもらえて嬉しいです」
――本当にかわいいなあ……あれ? でも、ちょっと待って。高校三年生ってことは、つい最近じゃないの? 今十八歳でしょ?
「あっ、十八歳以上です」
――あ、そうか。うん……。
「お兄さんは何歳のときでしたか?」
――えっ、いや、おれは、それは、あれだから……。次の質問に行くね。これまで何人くらいとエッチしたの?
「えー、実は……一人だけです」
――ほー、少ないね。
「はい……恥ずかしいです……」
――ふふっ、その相手はどんな人?
「高校の先輩です、卒業してからもずっと憧れてて……それで……」
――そっか。で、その人とは何回くらいしたの?
「一回だけです……」
――えっ、一回だけ? 本当に? さすがにそれは嘘じゃないの?
「嘘じゃありません。今まで一回しかしたことなくて、でも興味はあって……」
――ふーん、だから僕と会ってくれたんだ。
「はい。プロフィールを見て、優しそうだなって思って」
――ありがとう。んー、じゃあ、まあこれからするわけだけど……その前に、これ、書いてもらっていいかな?
「えっと……」
――どうしたの?
「私、漢字とか苦手で……読めなくて……」
――いや、簡単だよ。そこの空欄に名前を書くだけだからさ。それと、身分証も見せてね。
「実は昔、親がよくわからない契約をして借金ができちゃったんです。だから、こういう書類を見ると怖くて……」
――そっか、それはつらかったね……。思い出させちゃってごめんね。でも、大丈夫。おれを信じてサインして。あと、身分証も見せてね。保険証じゃなくて、顔写真付きの。
「え、この漢字、なんて読むんですか? わかんなーい」
――いや、いいから早く書いて。
「なんか、怖いです……」
――ああ、ごめんね! ただ、僕も不安でさ……。
「私とするのが嫌なんですか?」
――いや、全然そんなことないよ!
「じゃあ、いいですよね。こんなの書かなくても……」
――まあ、うん……。あっ、実は僕、経験がなくて、あ、あ、あっ……。
「おい、起きろ!」
――えっ?
「お前、俺の女に手を出したな」
――いや、あの……。
「この人に無理やりされたの……」
「だとよ。おい、不同意性交等罪って知ってるか? なあおい!」
――あ、あ、あ、だから書いてもらおうとしたのに……性行為同意書を……