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問題にする(シオン視点)

 応接間を開くと、待っていたらしいまだ若い男が僕たちの存在を知るやドリトンを睨んだ。

 表情が明からさまだ。隠す気もないのだろうか。微かに膨らんだ鼻に、僕は苦笑してしまう。


(…ヤイレスの外交下手はとうに知れていることだが)


 神に愛された国は、他国に対して傲慢だ。それをひけらかそうという訳ではないのだろうが、目線や態度は我々を見下している。こちらが気がついているとも知らず、うまく隠し仰せているつもりなのだから苦笑するのだ。


「…ヤイレスから何やら急ぎ報せがあるというので来てみたが…僕がいるのは問題か?」

「い、いえ!滅相も…お、お初にお目にかかります!シオン王太子殿下とお見受けします。私はオリバー・ロメリアと申します」


(ロメリア…侯爵家か)


 椅子に掛けて、大義そうに足を組んでみせた。流石に察したのか萎縮しているヤイレスの侯爵は大層な資産家である筈だ。

 その資産家が、なぜわざわざ足を運んだのだろうか。

 ドリトンをちらりと見てから、若い侯爵は言葉を選んでゆっくり言った。


「ドリトン殿、鳥が…」

「……左様ですか」


 それだけの会話だった。口を一文字に結んで、沈黙している。

 これにはレントが口を挟んだ。


「王太子殿下の前で隠語めいたやりとりとは、無礼ですぞ」


 二人とも冷や汗をかいている。まさか僕が同席するとは思わなかったのだろうから、ドリトン一人に伝えることが叶わず慌てたのだろう。

 僕は賭けに出る事にした。


「アレン殿とアニエル殿がヤイレスの国内で見つかったか。鳥と言うなら遺体か」


(ふん)


 殆ど勘のようなものだったが、どうやら図星らしい。二人とも青い顔で俯いた。

 レントが小声で「どう言う意味です」と聞いた。「鳥は死んだら堕ちるだろ。墜落死していたんじゃないか?」と知った風に言っておいた。

 国が違えば隠語は違うが大体が連想ゲームみたいなものだ。


「た、た……大変…ご迷惑をおかけいたしました…!!」

「全くだな。意味も分からず城中を荒らされた貴族たちが黙っていないだろう。どうするつもりだ?」


 ロメリア侯爵は腰を九十度に曲げてお辞儀しているが、目線は左後ろにいるドリトンに注がれている。

 慌てたようにドリトンが低頭した。


(なるほど、この国が欲しているものをドリトンと打ち合わせ、改めて謝罪に来るつもりだったか)


 ここに来て漸く得心がいく。

 スピアリーに出入りしていたドリトンと、鉱山を幾つも所有するロメリアと。その気になれば、竜の涙と称されるほど価値のあるダイヤモンドでさえ、スピアリー中の貴族たちに用意することができるだろう。


(そんなもので誤魔化されてたまるものか)


「…顔を上げてくれ。ロメリア殿、ドリトン殿も」


 僕の言葉に顔を上げ、輝きを宿した瞳で見つめている。

 そんな二人に、にっこりと微笑み返してやった。


「僕は問題にするぞ。まあ…僕だけではなく、我が国の国王も黙ってはいないだろうが」


 ロメリアはひゅっと喉を鳴らして、ドリトンはだらだらと汗をかいている。

 何かを察したらしい侯爵は、ドリトンを睨んだが遅すぎる。


「そうそう、鼠の穴はいくつ掘ったんだ?」

「それは…」

「新しい国王陛下に宜しく伝えてくれたまえ。…魔物の湧く地は人間相手だろうと容赦しない。宣戦布告と捉えてもらって構わない、とな」


 ロメリアは、口をぱくぱくさせてから、何度も頭を下げて、放心しているドリトンを引き摺るようにして去っていった。


(…嵐のようだった……)


「殿下、まさかこれからヤイレスと争いになるのでしょうか…」

「いつの時代も平和な世とはいかないらしい。だが、この国が舐められたまま終わるのだけは許せない。なにより貴族たちが黙っちゃいないだろう」

「同感です」


 覚悟を一つ決めて、ぎゅっと目を閉じた時、廊下からバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。


「殿下!!!メイリー様が!!!」


 僕は激しい眩暈に襲われた。ふらついたところを、レントに抑えられる。


「メイリーに何かあったのか!?」

「それが…先ほど産気付きまして、寝室にお運びしたのですが意識がありません」


 僕はいつの間にか部屋を飛び出していた。

 後ろから僕を呼ぶ声がする。構わず走った。ふらついて何度か転びそうになる。自分の頬を殴って漸く正気を取り戻した。


(しっかり立て!!)


 廊下の先を睨んで、今度こそ全力で駆けた。

 メイリーの、無理をした笑顔が浮かぶ。嫌な予感が当たってしまったのだろうか。


(ふざけるな!)


 寝室の扉を開いた時、血の気が一気に引いた。

 産婆が僕を退出させようと促す。その手を無理矢理に振り解いて、青い顔で横たわっているメイリーに駆け寄った。


「…すまない、一人にさせた」


 もちろん何の返事もない。痩せてしまった手を握って祈るようにおでこに当てた。


「メイリー、戻ってこい」


 その言葉に呼応するように、メイリーから青い光が放たれた。

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