捜索、前編(シオン視点)
アレン殿と、それからアニエル殿と呼べば良いのかメリッサ殿と呼べば良いのか分からぬ王女を国中探す事態となったのは、それから二日後のことである。
捜索隊として駆り出されていたディエゴが、よせば良いものを、ついうっかり藪を突いてみたら、大蛇が出てきた。
その大蛇というのが、こともあろうか口端にドレスの切れ端の様なものが張り付いていたのだという。
しかし、この大蛇、捌いてみても人を食った形跡は見られなかった。とはいえ、スピアリーの国土での出来事であり、誰のものか分からぬ布切れとは言え、ヤイレスの遣いは報告しないわけにはいかなかったし、行方不明なのは腐っても王族。証拠不十分とはいかなかった。
そんな訳で、改めて編成された捜索隊の総指揮を僕が務めることとなり、今朝方から全ての民家や貴族の城を捜索する羽目になったのである。
「ローラー作戦ですか。見つかりますかなぁ。もっと、こう、穏便に…なんとかなりませんかな」
「勿論、これで見つからなければ、我が国は無関係ということ。だからこそのローラー作戦だ」
「は、はあ、しかし…貴族の中にはヤイレスが関わっているのではと勘付く者もいると言います。私としましては…」
「黙れ!!!」
僕は激昂した。
ヤイレスからの遣いが誰なのかと思えば、手紙の張本人であるドリトンだった。
聞けば、あの国境での一件以降、上からも下からも責を問われて大層肩身が狭いらしい。
あの二人が腑抜けになったのには、少なからずドリトンも関与していたという認識の様だ。そんな訳だから、彼をこちらに寄越したのには必ず二人を見つけ出せという圧力なのだろうし、「王族の恥晒し」を連れ帰り、ひっそりと始末したい訳である。どこぞで野垂れ死など、これ以上の恥晒しはなんとしても避けたいのだ。
保守派のドリトンからすれば、ヤイレスの威厳を失墜させるのは避けたいはずである。あまり大袈裟にせず、時間の経過とともに二人の存在を忘れていって欲しいのが本音だろう。
(…見つかっても、見つからなくても、この男にとっては地獄だ)
そう、つまり単に探した体が欲しいのだ。
けれど物事はそんなに単純な話ではない。
「ヤイレスの新王というのは、どうやら随分と我が国を舐めている様だ。布切れ一枚で鬼の首を取ったような態度を後悔するといい」
ドリトンは「あっ、」と言ってから閉口してしまった。青い顔で俯いている。
「…どうやら新国王陛下は、我々が匿っているとお思いの様だ。もしくは、こちらで二人を拐かし消したとお思いなのか」
「な、何を…何を言います!!」
ふるふると小刻みに震えて、瞳孔が開いた。他国の王族に対して語尾を荒げてしまったことに、慌てて口を両手で押さえた。己が失態を奥歯で噛み締めている。
(この様子を見るに、図星だろう)
イシュクアという人物は、好戦的な人物なのだろうか。安穏とした時間が流れるヤイレスにも、とんだ野心家がいた者である。
しかし…
(一刻も早く帰りたい)
一体僕は何をしているのだ。身重の妻を置いて。心底くだらない企みに付き合わされている。
今朝方、父上から「足元を掬われるなよ」と忠告を受けたばかりだ。加えて、メイリーに言わせれば、ドリトンというのは「只者ではない」らしいが…。
こんな風に僕に声を荒げた事に目を白黒させたり、重責に押し潰されそうになっている、良いオヤジが…。
(決してそうは見えないが…)
僕は一刻も早くこのつまらぬ寸劇の舞台から下りて、メイリーの手を握りたかった。
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