表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/114

ドリトンの手紙(前半、手紙)

 シオン様、メイリー様


 ご無沙汰しております。

 あれから二ヶ月余りが過ぎようとしております。


 スピアリーには、多大なるご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。この様に書簡で綴る言葉よりも、どうか正式な謝罪の場を設けさせて頂きたく、お願い申し上げます。


 ご存じのことと思いますが、ヤイレスは新しい道を進み始めました。

 前国王の甥であるイシュクア・ソメイソンが新たな王として国を治めることとなり、王城内では慌ただしい毎日が過ぎております。


 アレン様のことですが、以前お伝えした時と状況は変わりません。言葉を解すことも、食事を食べる物と理解することもなく、呆けたまま日々暮らしていらっしゃいます。

 痩せ細り、生きる気力が失われてしまいました。

 私は、霊魂などというものを信じておりませんが、魂のない抜け殻と言った方がいいかも知れません。誰がどう見ても、空であります。


 アニエル様についても、「自分はメリッサである」と言う様なことを繰り返すばかりで、一向に回復の兆しが見られません。

 当然その様なことがあるはずもなく、アレン様を探して王城内を徘徊されたり、止めに入った従者に暴行を加えたりするので、外から施錠した窓のない部屋で過ごされています。


 医師が言うには、お二人はお父上である国王陛下が亡くなり、重責に耐えられず、精神的に参ってしまったのだろうとのことでした。私もその意見に概ね同意であります。


 そう言うわけでありますから、ヤイレス側としましては、どうかお二人に寛大な御心で、先般の失礼をご容赦頂きたくお願い申し上げるとともに、今後はスピアリーとも手を組み、諸外国に依存しない国づくりを目指していけたらと考えるところであります。



 以下略





✳︎ ✳︎ ✳︎





「…ふざけている。我が国と同盟を組んで、諸外国に牽制しようと言うのか!?ヤイレスというのは、どうも陳腐なプライドが邪魔をするらしい。こちらに何の得が齎されるというのだ!?よくも抜け抜けとこんなことを書けたものだ!!」

「まあまあ。今はヤイレスが不安定な時だからでしょう。国王が盤石な国家を築くまでの縁にしたいのでしょうから」

「だからって、迷惑ついでにお手手繋いでくれだって?…はぁ、全く…。君な、もう少し怒ったら良い。ヤイレスにかける温情など、ほんの少しでもあるものか」


 怒りが収まらないらしいシオン様は、ドリトンからの手紙をくしゃくしゃに丸めると、ごく小さな魔法の火で燃やしてしまった。


(ドリトンは、あの二人を精神的な病だと結論づけている…。けれど、私にはとてもそうは見えなかった)


 紙片と、燃え滓が舞っている。それが戦火に思えて、恐ろしくなってしまった。


「折角魔物がおとなしい平和な世界になったというのに、今度は人間同士で争うのですか?」

「…勿論、国としては許す体で話を進めるさ。僕が個人的に許せないんだ。そもそも、ヤイレスが我が国に勝てるわけがない。あちらは生活魔法しか使えない奴らばかりなのだし。戦い方も忘れて久しいからな」

「魔物が侵略しなくなったので、この国もいずれそうなりますよ」

「だが、我が国の、魔物が湧く地の牙は抜かれない」


 ギラつく瞳はその国の方角を向いていた。「落ち着いてください」と言いかけた時、慌てて執事が入室してきた。


「どうした」

「ヤイレスの…王子殿下と王女殿下が…」

「またヤイレスの、しかもその二人の話か。当分は聞きたくないな」

「で、ですが…」


 困ってしまった執事は、慌てているのか額から汗が滴っていた。焦燥感が伝わってきて「良いわ、話して頂戴」と言った。


「あ、ありがとうございます。それが、そのお二人が行方不明だそうで…。ヤイレスから使いの方が来ております」

「なっ!そんなもの、こちらが知ったことか!」


 薄い皮膚に透けて、青筋が立っている。「シオン様」と窘めると、私の両耳を大きな手が塞いだ。私は心配しなくて良い、関与するなと言いたいのだろう。

 けれど、そのような言いがかりに門前払いせず取り継いだのならば、何か訳がありそうである。

 私は、熱感を帯びている大きな両手を耳から離した。


「…なぜそれを私たちに?」

「はあ、それが使いの方が言うには、こちらが関与しているのではないかと。いかがしましょう」


 その言葉に、シオン様は意を決した様に立ち上がり、マントを翻して退出した。執事がオロオロしながら後に続いていく。


「全く、つくづくふざけている!メイリーがいつ産気づくか分からないから、そばにいてやりたいと言うのに!」


 静かに閉まった扉の向こうに、不穏の気配を感じる。

 その日、夜になっても結局シオン様は戻ってこなかった。

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ