銀髪の王女(シオン視点)
「そんな話、信じられる訳がない…!」
相手は他国の王女だ。なるべく語気を強めないで言ったつもりだったが、ふうふうと上がる息は止められなかった。
ゾッとするほど美しい銀髪の王女は、「そうですよね…」と言ってから節目がちに俯いた。
「…ことの発端は半年前に遡ります。父が亡くなったことで王城の全てのバランスが崩れました」
「ヤイレスの国王陛下が崩御されただと!?そんな話は、まるでこちらに届いていないが…」
「それは、父の死に隠蔽しなければならない隠された事実があるからです」
一貫して黙していた父、この国の国王陛下は喉から低い声で「むう…」と言うと、僕ですら初めて見る恐ろしい顔で問うた。
「突き放すような言い方になるが、ヤイレスの王が身罷った事実よりも、儂の娘が囚われている事態の方が極めて重要だな」
「娘…ですか…」
「あれは息子の妻という以上に、儂にとっても大切な娘なのだ。どうか、返してくれ」
「…私は、メイリー様ならば、きっと兄を糺してくれると、そう思ったのです」
僕は、ため息の後で「兄弟喧嘩は家でしてくれ」と毒づいた。
「父は、私を次期国王に望んでいたのですが、兄はそれがずっと気に食わなかったようです」
「アレン殿が、国政に向いていないとは思えないが…」
「兄もそう思っているようです。なぜ自分ではないのか、と。私が父に寵愛されていたからではないのか、と。けれどそれは違います」
「回りくどいな」
「…父を…っっ…国王を殺したのは、兄のアレンです!!」
一瞬場が凍りついた。ゆっくりと父の顔を覗く。アニエルを見つめたまま、何も言葉を発せないでいた。
アニエルは涙をいっぱいに溜めて懇願する。
「どうか!我が国を…ヤイレスを助けてください!」
それでまさか、と思う。緊張に口が乾いた。堪らず渋い紅茶を飲み下して問う。
「メイリーに、同じことを言ったのか」
そんな依頼をされたら、メイリーは自分の体調など一切鑑みずに二つ返事で了承しただろう。
けれど、僕の予想に反してアニエルは首を横に振った。
「…そんなことを言う前に、メイリー様のお腹にはお子がいると気がついたのです。そして、倒れるメイリー様を兄が…」
僕は思わずテーブルを拳で叩いた。「シオン」と父が窘める声がする。
「ならば不思議だ。メイリーならば、簡単に扉を破いて帰ってくるだろうに」
「…監禁などと物騒なものではなく、兄はあくまで介抱のつもりなのでしょう」
「ふむ、ならばこちらから迎えに行けば良いだけの…」
「なりません!!!」
アニエルは突然真っ青になって叫んだ。過呼吸気味になって、両手で耳を塞いだ。
「それだけは…いけません!」
「これは国際問題だぞ。そちらの都合ばかり押し付けられても困る。1日でも早くメイリーを返していただきたい」
「兄は…それこそメイリー様に何をするか…」
「あれは死竜を倒した勇者だ。人間相手にどうこうなる奴じゃないので、そこは安心している」
「そうでは!!そうではないのです!!」
必死に懇願するアニエルに、僕は何を信じれば良いのか分からなくなって、困惑する。
その時、扉がたたかれて、血相を変えた執事が父と僕に耳打ちした。
アニエルはまだ震えている。
「顔を上げてくれ。…メイリー付きの侍女がヤイレスから、命からがら逃げ戻ってきたらしい」
「え…」
「彼女の話も聞いておこう」
まだ胸のざわつきが治らないという顔で頷いたアニエルは、宝石のような目で僕を見つめていた。
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