対峙(ラピ視点)
目が眩む。決して強くはないはずの西陽が目に刺さる。
(外の空気だ)
思い切り吸い込んで咽せる。汚れた地下の空気に慣れた肺は、冷たく澄んだ空気を少しだけ拒絶した。
まるでよく描かれた宗教画のように、光から出現した人が私たちを待っている。
それは逆光になってよく見えないけれど、私とシオンを祝福する為にいるのだろう。
振り返ると、ワカナチが闇の底から、ふらふらと私たちの後に続いている。
「ああ、神よ……」
目が慣れてきて、神と見紛った女の顔がはっきりとした輪郭線を得る。
石造の階段を登る足を止めた。
「ラピ、貴方を救う神などいないわ」
「…メイ、リー!!!!」
「!!!…シオン様、ワカナチ…」
メイリーは彼らに気がついて動揺している。
私はおかしくって、笑ってしまった。
「ふふふ、ははははは!!!ねえ、囚われてもやっぱり私って神が愛してやまない聖女だったのよ!!!」
「…だから?聖女なんて止めるんじゃなかったの?」
「そんなに怖い顔しないでよ、王太子妃様。だって仕方がないじゃない。神が私を手放さないんだから」
「シオン様を離して」
「…うーん、でもぉ、シオンはやっぱり私が良いみたい」
「貴方が操っているのでしょう!?城の衛兵達と同じように!」
今まで散々馬鹿にされながら私を守ってきた勇者の剣を私に向ける。
ムキになっちゃって、面白いったらない。
「ねえ、メイリー。どうやって傀儡にするか知ってる?私とね、褥を共にするのよ」
「な、」
「つまり、それってどう言うことかわかる?」
顔を真っ青にしたメイリーは、それでも歯を食いしばって剣を突きつけてくる。その手は震えていた。
メイリーの後ろから、にゅっと姿を現した者がいる。間違いない、メイリーのパパだ。心底嫌悪するとでも言いたげな目で、この私を見た。
「儂はどうやらお前に傀儡にされたようだが…生涯で一度たりとも妻を裏切ったことなどないがなぁ」
「ちっ…あーあ、つまんないの。でも、私を抱いた男が傀儡になるのは本当だわ」
「…ふむ。儂は戦闘の最中で操られたからな。思うに血だろうか?傀儡の血液を摂取させることで、二次感染させるのではないか?考えられるとすれば…これか」
言って、獣が噛み付いたかのような腕を掲げて見せた。
「うるさい!!!うるさいうるさい!!!感染ですって!!?人をなんだと思ってんのよ!!!」
「ほう…図星のようだな。王太子殿下に限って愚かな過ちを犯すなど、あり得ないことだ」
「…お、愚かな過ち…?聖女である私を抱くことが、愚かだと言いたいの!?」
「神も、とんだ女を祝福したものだ…」
「〜〜〜っっっ!!!!シオン!!こいつら殺しちゃってよ!!」
シオンは、小鳥を枝に移すように丁寧に私の腕を解くと「仰せのままに」と言って頭を垂れた。
メイリーは、シオンに剣を突きつけることができず、反射的に構えを解いた。
「シオン、この人たち、術を解く方法を見つけたみたいだわ。厄介だから気をつけてちょうだい」
「御意」
「だから、御意て…。ああ、そうだわ。ねえ、シオン口付けしてよ」
腰に手が回る。頬を滑る指が私を蕩けさせた。メイリーに見せつけるように、何度も何度も唇を重ねた。
「シ、シオン様…」
そうよ、その顔よ。アンタのその顔が見たいの。もっと、もっと!
「ねえシオン、私のこと愛してる?」
「僕が愛しているのは、この世で貴方だけです。ラピ様」
「…ですって、メイリー」
勇者は、ほとんど泣きそうになりながら、怒りに打ち震えている。
「下衆が…!!挑発に乗るな、メイリー。殿下は操られているだけだ」
「っっっ!!!」
「メイリー!」
胸を鷲掴みにして、過呼吸気味に膝をついている。
剣が手から落ちて、重たい金属音が響いた。
(あー、おもしろーい)
「シオン、ほらメイリーも貴方のことが好きなんだって。かわいそうねぇ、どうする?」
「…僕たちの愛を引き裂くのなら、殺してしまいましょう」
シオンが駆け出し、勇者の剣を奪い取った。
メイリーは項垂れたまま、地面に大粒の涙を落とした。
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