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血の味(前半:ラピ視点、後半:シオン視点)

「あら?これは…あの女のパパかしら?計画にはなかったけどぉ、ふふ、面白いことになりそう!えーい!!国王を殺しちゃって!!」


 くるくると人差し指を回して突き上げる。瞬間、金平糖のような星が爆ぜて消えた。


 傀儡達は、命令を遂行するまで動き続ける。

 ちょっとだけ顔の良いのは、私のそばに置いて話し相手にさせている。


「ラピ様は、今日も大変お美しい」

「当然でしょう?ちゃあんと男の人に大事にされるのが美しさの秘訣なのよ。…こんなところに閉じ込められて一時はどうなることかと思ったけどぉ」


 アルソンは新婚らしい。そんなの知ったことではない。私がちょっとだけ誘惑してみたら、すぐに誘いに乗ったのが彼だった。なんだ、新婚だなんて言っているけれど、本当は全然お熱くないのだ。


(新妻なのに、哀れね)


 つまり私の舞台は、彼から始まった。

 その時既に皺がより始めていた私だけれど、それでも彼の新妻より美しい自信はあった。

 当たり前だ。世界中の誰よりも私が一番美しいのだから。

 ううん、一番美しくいなければいけないのだから。

 だから、神は私を決して老いさせないように策を弄してくれたのだ。

 聖女という私の力は、私の美貌を保つためだけに使うべきである。


「アルソン、少し乾燥するわ」

「ここはあまり環境が良くありません。故にラピ様の玉のようなお肌を乾燥させてしまうのです」

「…仕方ないわね、もう少しの辛抱だわ。だってあの女のパパがきっと国王を殺して、私を迎えにきてくれるの。そうしたら、堂々とここを出てやるのだわ。素敵なエンディングだと思わない?」

「それまで今しばらくご辛抱ください」


 それにしても、乾燥が気になる。ぴしぴしと肌が乾いて、皺が寄り始めてきている気がする。

 困った。普通の十倍くらいのスピードで老化が始まってきた。

 それくらい私にとって乾燥は大敵なのである。

 だから、地下牢に放り込まれてすごく焦ったというのに。

 でも、そんな時アルソンは、仲間を一人ずつ連れてきて私の傀儡を用意してくれた。

 そんな傀儡にも弱点がある。

 ほら、アルソンががくがくと震え始めた。


「ラピ様…もう…ラピ様……お願いです」


 肉体関係を結んだ彼らとは、定期的に関係を結び直さなければ契約が維持されない。

 時間が経てば、麻薬中毒のそれのように私を求め始めるのが合図であるが…


「アルソン、あなたもうシワシワだわ」

「え…」


 彼は私が若さを保つために生気を吸いすぎて、かなり老化し始めている。あと二回が限度だろうか。生気を吸いすぎれば彼は死ぬだろう。

 しかし、アルソンは良くやってくれた。このまま殺さず生かしてあげても良い。どうせもう老人だ。意識を取り戻したとして、もう彼が誰なのか分かる者もいないだろう。


(まあ、禁断症状に耐えられれば、の話だけれどね)


 殆どの者は、私に飢えて死ぬ。耐えられたのは神官長くらいのものだろうか。あいつとは成り行きだったけれど、本当に失敗だった。いらない子供を孕むことになったのだから。


「ねえ、誰かいい男を連れてきてよ、早く」

「かしこまりました」


 身体は私を欲しているけれど、私の命令の方が優位に働くので、吐息を荒くしてお辞儀しているのが堪らない。


「いつものように、自分の血を舐めさせますか」

「そうねぇ、でもそれだと本当は面白くないのよね」

「ラピ様の良きように」

「はあ…。まあ、この混乱した状況では、普通に連れてくるのは難しいわね。仕方がないわ、あなたの血を舐めさせて連れきてちょうだい」

「かしこまりました」


 私に生気を吸われ続けて骨と皮だけになった死体が累々と重なっている。

 彼は仲間達を踏みつけながら、私の命令を遂行するために駆けて行った。


 ぴしりぴしりと肌がひび割れる。


「アルソーーン!早くね!!」


 背中にそう叫んだけれど、どれくらいかかるか分かったものではない。


(しょうがない)


 そんなにタイプじゃないけれど、私を守るために立っている十人の衛兵の中から、一番マシなのを側に呼んだ。

 この衛兵はアルソンの血を舐めただけ。

 傀儡の血を摂取した者も、私の傀儡となる。

 あの女のパパもきっと何らかのきっかけで血を摂取したのだろう。どうでもいいことだけれど。


「いい男を連れてくるまでの繋ぎに、あなたの生気を吸わせて貰うわね」


 衛兵は無表情のまま、私の唇を奪った。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 ゴーン、ゴーン


 遠くの教会から鐘の音が響いてくる。


「おいおい、王太子様よ。王城ってのは中で戦争でもするものなのかい」


(これは、一体…)


 わあわあと争い合っているのは、この王城を守る衛兵とミュークレイ騎士団の騎士達だった。


「メイリーは…父上は……」

「落ち着けよ、アンタここの王子様なんだろ?だったらどうするべきなんだ」


 腹が立つけれど、ワカナチの一言で腹を決める。

 ザクザクと大股で門をくぐり、声を張り上げた。


「控えよ!!この事態は何事だ!!!」


 僕の声に、ミュークレイ騎士団の者達は「シオン王太子殿下!」と驚いていたが、容赦なく注がれる剣の嵐を防ぐだけで手一杯のようだった。

 対して、衛兵の一部は僕の元へ駆け寄ってきたものの、それはどうやら望まない事態を招いたようだ。

 魔杖を構えて、少しだけ魔力を抑え気味にしてから魔法を放つ。


「ブリザード・ストーム!!」


 凄まじい雪嵐が剣を巻き上げ、雪礫が彼らの視界を遮った。


「走れ!!ワカナチ!!!」

「お、おい、どこに行く気だ!?」

「仕方がない、父上とメイリーを探しながら事態を把握するしか、今は…」


 走って走って走っているうちに分かったことがある。

 一方的に攻撃しようとしてくる者は、何かに操られているのではないか、ということだ。

 様子があまりにもおかしいのだ。


「とにかく、作戦を立てるぞワカナチ…おい、何やってんだ?」

「高そうなワインがあるじゃねぇか。一本頂いてくぜ」

「おい、勝手なことをするな」


 厨房には、昼食を準備しようとしていた形跡がった。

 今はちょうど午後一番の鐘が鳴る時刻。ということは、父もまだ王城にいるということだろうか。


(あの父だ。きっと何があろうが、最後まで指揮を取ることを選ぶだろう)


「ワカナチ、父上の執務室まで走るぞ」


 そう言って振り返った時だった。衛兵の一人が背後に立っていた。

 驚き、思わず魔杖を構える。


「シオン王太子殿下!!お戻りだったのですか!!良かった…実はメイリー様が階下で……」

「何!?何があったのだ!!」

「とにかく早く!!!」


 話せるところを見ると応戦側だろうか。

 しかし、随分と老け込んでいる。


(このような老人はいないはずだが…)


 疑問に思いながら構えた魔杖を下ろした時だった。

 僕とワカナチの口元を、彼の親指が走った。


「な、」

「ああ、きっとラピ様が大変お喜びになります」


 血の味がする。

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