決断を(ミュークレイ公爵視点)
「国王…へい、か…」
勢いよく開けた扉の向こう側、午後の日差しが窓から眩しく照りつけて、この国の王の執務室の光景をありありと映し出した。
仁王立ちになっている衛兵の顔は、逆光でよく見えない。けれど確かにその手にはサーベルが。そしてそれは、衛兵の足元に転がる国王に対して向けられていた。
国王は、どこかを負傷しているのだろう、血だらけの上に肩で大きく息をしている。
「陛下ぁぁあああ!!!」
「ミュークレイ…!お前がいなくとも、儂だってまだやれるんだ…お、恐れ入ったか…」
この国の王は、怒りに歪んだ顔で衛兵に刀を突きつけていた。手がぶるぶると震えている。
よく見れば、それは確かに国王陛下の執務室を守っていたはずの…「異変があればすぐに報せろ」と言い置いたはずの衛兵だ。
(そうか…衛兵、ああっ…!!!)
自分の愚かさに、床の底が抜けるような衝撃が走る。だがこの状況で、果たしてどうすれば良かったと言うのだろう。違った手を思考する。けれどそれはどれも今と対して変わらぬ状況になったはずだ。一気に脳裏を駆け巡ったそれらを、頭を振って追い出した。
「…許可を。国王陛下」
「くっ……ならん!!ラピを捕らえて…この者達の術を解くのだ!!」
「陛下!!!!既に階下は地獄絵図でございます!!娘が…!!メイリーが階下で時間を稼いでくれておるのです!!!」
「ならん!!!!」
「陛下!!!!!」
衛兵のサーベルが国王目掛けて振り下ろされた。持てる全ての力を最大限に開放し、一足飛びに跳躍して、そのサーベルを剣に受けた。
「ミュークレイ…」
意識を奪われた衛兵は容赦がない。何度も上から突き刺してくるのを、剣で受けた。
(だがしかし、遅い!!)
サーベルを小脇でがっしり挟むと、思い切り曲げた。
武器が使い物にならなくなった衛兵は、サーベルを投げ捨てると、最後の手段とばかりに歯を剥き出しにして噛み付いて来た。
まるで獣が獲物を狩るようだ。
「知性すらも奪われたか」
わざと腕を噛ませ、その腕を上げて見せる。決して離そうとしない衛兵は噛みついたまま、ぷらんと足が浮いた。バキバキと歯が折れる音がする。
ぽたぽたと血が滴るけれど、私のものか彼のものか判然としない。
思い切り腕を振る。壁に叩きつけられた衛兵はズルズル落下すると昏倒した。
「…た、助かった、すまない」
「まだです。あれは10秒も経たないうちに起き上がるのです」
「なんと…!!」
「疲労すらも忘れさせられた彼らは…心臓が破れるまで戦います」
ゆら、
衛兵が起き上がると、パラパラと何本か歯が抜け落ちた。
「まさか、そんなことが…」
「…あの姿を見たら…とても…。彼らはもう限界です」
衛兵が突進してくる。
勢いで兜が後ろに飛んだ。
「陛下!ご許可を!!」
「王命だ!ミュークレイ!!その者の首を刎ねよ!!」
私の剣技は獲物を屠る為に向上してきた。人間ならばひとたまりもない。
思い切り前へと跳躍して、身体を半回転させて、剣を突き上げるように首を刎ねた。
前に回転して勢いを殺してから着地し、ゆっくりと立ち上がった。
「苦渋の決断に、感謝申し上げます。陛下」
「ああああぁぁぁあああっっっ!!!!!!」
国王は床に蹲って叫んだ。
剣を鞘に収める。早くメイリーに加勢しなければ。早くラピを探しに行かなければ。
「陛下、傷はどこですか?すぐに手当を」
「儂は良い。早くメイリーの所へ行ってやれ。……ミュークレイ?」
早くメイリーに加勢しなければ。早く。
「ミューク」
ミュークレイ公爵の剣技は、魔物を屠る為に向上してきた。人間ならばひとたまりもない。
ごと、
重たい音が響く。
「!!!!!」
ミュークレイ公爵へと伸ばされた国王の左腕が落とされた。
不思議と上がっていた息が整う。
目線が合わなくなったミュークレイ公爵は、鬼神と呼ばれたオーラを纏って国王へ剣を向けた。
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