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絶叫

 戦場の鬼神と呼ばれ、恐れられた父は、齢五十に差し掛かろうという今もなお、その強さは健在である。


 一太刀が重い。そして、疾い。


 本来、父の剣技は、魔物を屠る為に向上してきた。人間ならばひとたまりもない、はずだった。

 しかし今回ばかりはその愛国心が仇となっている。つまり、思い切った攻撃ができない。防戦一方だ。仕方がない、相手はこの城を守っているはずの、同じ国の仲間なのである。


 ここまで息が上がった父を、私は初めて見る。

 相手は、疲労や苦痛といった感覚さえも断絶されているようだ。


「くっ!!息をつく間も無く…!これではキリがない!!」


 その時だった。父を襲っていた衛兵の一人が、口から血を吐いて倒れ込み、痙攣して絶命したのだ。

 床の夥しい鮮血が、壮絶な最期を物語っている。彼が必死に伸ばした腕に沿って血が掠れていた。


「…!!!心臓が破裂したのか!!くそっ!!!」


(心臓が破れるまで戦い続けるなんて…)


『聖女様に気に入られた奴は、みんな死んじまったけどな』


 神殿で聞いた、神官の声が耳元に蘇る。


「貴方達、ラピの目的のために、使い潰しの道具にされているのよ…!お願い、目を覚ましてちょうだい!!」


 懇願も虚しく、八方から容赦なくサーベルを突きつけられる。私を確実に突き刺したつもりの彼らは、暫く静止した。けれど、天井まで跳躍していた私は、まるでよく編まれた籠に包まれるようにサーベルの上に着地すると、もう一度跳ね上がり彼らの顔を回し蹴りして昏倒させた。


(1,2,3……10)


 昏倒していた彼らは、10秒の間に跳ね起きて再び襲いかかって来た。

 彼らのサーベル捌きはそこまで下手ではない、けれど勇者である私や騎士団長である父にとっては、本来一太刀で倒せる相手である。

 彼らの強みはただ一つ、ラピに操られているが故の、そのタフネスに他ならない。


(ならば…!)


 昏倒してからどの衛兵も凡そ10秒で起き上がる。それはつまり、裏を返せば、その10秒間はラピが支配する何らかの作用が断絶しているということではないだろうか。

 そう、まるでインクの掠れのような具合に、ぷつぷつと。


(ならば、それを断絶することができれば、あるいは…)


「うわあああああっっっ!!!!」


 その時、突如上の階からこだました絶叫は、聞き馴染みのある人物の声だった。


(これは…)


「こ…国王、陛下…っっっ!!!!」


 それは忠誠を誓った国王に御身を捧げる意識が人一倍強い父にとって、一番避けたい事態を報せていた。

 父の元へと駆け寄って、お互いの背中をピッタリとくっつける。


「お父様…!!」

「メイリー、ここは二手に分かれるぞ」

「…では、私は引き続きラピの探索を…」

「頼んだ。…死ぬなよ」

「お父様こそ」


 駆け出す間際、父は私と拳を突き合わせ、互いの健闘を祈った。

 私はすぐさま階段への通路に立ちはだかり、父に着いた追手を一気に払いのける。


 ちら、と目線を送ると、父はすごい速さで階段を駆け上がり、国王がいる間へと急いだ。

 私は、剣を鞘に収めると、拳を握ったファイティングポーズに切り替えた。


(イチかバチか、賭けてみるしかない)

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