地獄絵図
「くそ!やめろよ!!どうしちまったんだ、お前…っっ!!!」「目を覚ませ!!俺だ!!」「しっかりしろ!!こないだ子どもが…産まれたばかりなんだろう!?」「おい!!しっかりして…うわああああっっっ!!!!」
玄関ホールへと続く道は地獄絵図だ。交戦している相手が、古くからの仲間などとは思わず、ラピの命令に従うがまま、サーベルを向けている。まるで、ハリガネムシに自我を乗っ取られたカマキリのようだ。
私と父は駆け出し、囲まれている彼らの前に立った。
「ミュークレイっ公爵、様…っメイリー公爵令嬢様…」
息が上がって、ほとんど呂律が回っていない。彼らの体力は限界なのだろう。
私は、目の焦点が合わない傀儡となった衛兵達に向かって叫んだ。
「目を覚ましなさい!!」
けれど、それを合図にしたかのように、傀儡にされた五人の衛兵が、一斉に襲いかかってきた。
眼前に突きつけられたサーベルを突き上げるように真っ二つに割ると、振り下ろしの二太刀目で鎧を破壊した。
勢いがついた私は、踊るような太刀筋で、五人とも兜や鎧を割っていく。
けれど、彼らはそんなことお構いなしに、こちらに向かってきた。
(とにかく、武器を破壊しなければ)
できることといえばそれより他ない。それ以上どうすれば良いというのか、活路が見出せない。
「メイリー公爵令嬢様!!!ここは我々にお任せください!!お二人はどうか…ラピを捕らえてください!」
「貴方達をこのまま置いて行けないわ!」
「…ラピを捕らえなければ、果たしてこいつらにかかった術を解くことができますでしょうか!?」
確かに、それはそうなのだ。ラピを捕らえて止めさせるか…もしくは彼らが死ぬか。今のところ、選択肢は二つに一つである。
珍しく、父が対戦中に構えるのを止めた。
「メイリー、ここは彼らに任せよう」
「しかし…」
「彼らの言うとおり、今はラピを捕らえることが最短だろう」
「……っっっ。どうか、自分の命を最優先に」
全てを放棄して逃げることなど叶わない彼らに、残酷な一言をかけた。唇を噛み締める。
けれど、私たちを目線で見送る彼らは、誰よりも勇敢だった。
「メイリー公爵令嬢様、ミュークレイ公爵様、ご武運をお祈りします」
(決して振り向いてはいけない)
振り向いてしまえば、決断が揺らぐ。
ぐっと堪えて、走り出した。その直後、金属音と悲鳴がこだました。
「…今は耐えろ、メイリー」
「私は、悔しいです。自分の無力さが」
「お前の長所であり、弱点だな」
「重々承知しております」
ホールへ続く扉を開けると、そこは外よりも更に混乱を極めていた。片腕が取れようが、片足を失くそうが、血を滴らせてなお、仲間を襲い続けている。
泣き叫びながら、それぞれの名を呼んでは逃げ惑う者、覚悟を決め震える手で正気を失くした仲間を刺し殺す者。
(ここは、本当に王城なの…?)
ひどい眩暈を感じた時だった。私たちの姿を認めた一人の衛兵が叫んだ。
「メイリー様!!!助け…ぎゃああああ!!!」
私へと手を述べて絶命した。悪魔のような光景に、絶句するしかない。
何十人もの衛兵達が争い合っている。信じられない、彼らは目的を一つにした仲間であるはずなのだ。
明らかに全衛兵の半数以上の者が傀儡になっていたことが分かる。
武が悪いことに、なんとか生き残って戦っている者達の方が少ない。それはそうだろう、相手は自我をなくした操り人形なのだ。武器を向ける目の前の人間が、自分の仲間だということすら認識していない。それどころか、死への恐怖や、痛みすら欠落しているのだから。
「こんなにも…多くの者達が…」
「ラピめ、どうやって数多の者達を誑かしたのだっっ」
地下牢は堅固だ。
数々の衛兵達が、ラピを求めて肉体関係を結ぶなど、極めて難しいだろう。
「父上…こんなこと…わ、私……っっ!!」
「絶望を口にするな、メイリーよ」
父はまるで獅子のような目になると、混乱を極めるホールの中へと突進した。
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