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ニゲラの花言葉(シオン視点)

 青い花をいくつか摘んで、盛り上がった土の上にそっと手向けた。


「おや、ニゲラかい」

「…綺麗だと思って。供えるのには不向きか?」


 ハーリーは首をゆっくりと左右に振った。


「そんなことはないさ。夢で逢えたら、なんて、やっぱり王太子様となるとロマンチックだねぇ」

「…?僕がか?」

「ニゲラの花言葉さ。知らなかったかい」

「僕はそういうものに疎いんでな…。…そうか…、ならばこの花を選んだのは必然だろう」


 ざっと強い風が吹く。けれど、花は靡くこともなくそこに留まった。まるで意思があるみたいだった。

 呆然とそれを見ているワカナチの腕あたりを拳で軽く叩いた。それを合図にしたかのように、皆手を組み合わせて祈り始める。

 ワカナチだけは、合掌してなにやらブツブツと唱えている。それは地を這って天に昇るような不思議な抑揚の歌だ。異国のリズムは聞き馴染みがないはずなのに、なぜかこれが葬儀の為の歌だと分かる。

 誰ともなく、ワカナチが歌い終わるまで祈り続けた。


「ウートゥー…」


 暫くして歌が止み、それぞれが無言で歩き出した。

 ワカナチが僕の肩を掴む。


「…おい」

「なんだ」

「メイリーの後を追いかけるつもりか?」

「お前には関係のないことだ。この街に留まるなり、祖国に帰るなり、好きにしたら良い」

「生憎祖国には帰れねぇんだ。俺も連れて行けよ、王太子サマ」

「……」


 僕は大層嫌だという顔をして、ワカナチをじっとりと見た。


「なんだよ…」

「冗談じゃない。こちらの問題に首を突っ込まないでくれないか」

「おーおー、そのメイリーが俺たち兄妹の問題に土足で踏み込んできたんだぜ?」

「はぁ、あれは根っからの冒険者だからな。困ったものだ」

「それにメイリーとの約束が果たされてねぇんでさぁ」

「あ?」

「おっと、そんな怖い目で見るなよ。神殿からザダクに戻ったら何でも言うことを聞くって言ってたんだけどなぁ」

「貴様、本当に死にたいらしいな」


 魔杖を構えて力を込める。

 ワカナチは両手を前に出して「まあまあ」と言った。


「何でもすると言ったのは、メイリーだぜ?俺じゃねぇ」

「そんなもん反故にする」

「…へえ?」


 今度はワカナチが挑発するように首を傾げて、へらっと笑った。


「この国の王族ってのは、一般庶民との約束を簡単に破るんですねぇ。これは随分とご立派だ」

「貴様の挑発には乗らない。僕はメイリーを守るだけだ」

「そのメイリーを守るのにうってつけがいますぜ?俺は回復師だ」

「だから、いらぬと言っている」

「ほお?俺の推測が正しければ、メイリーはラピを殺しに行ったんでしょう」

「まあ、そうだろうな」

「…アンタもメイリーも、ラピの本当の恐ろしさを、知らねぇ」

「何のことだ」

「それに、もしものことがあったら、どうやって回復するつもりで?殆ど回復師がいないのに?メイリーは瀕死でも自分以外を回復させようとするだろうよ。その時、王太子サマは俺を連れて行かなかったことを後悔するぜ」


 ぎり、と奥歯を噛み締める。

 殆ど呆気に取られていたハーリーとレノンに「世話になった」と言って歩き出す。二人は「ああ、」とか「いえ、」などと微かに言って、困惑しているようだった。

 ワカナチが慌てて走って来て、僕の後ろにつく。


「行っても良いってことっすよね?」

「勝手にすれば良い。それから、メイリーを呼び捨てにするな」

「へいへい、分かりましたよ、王太子サマ」

「くそ!王城に着いたら、こき使ってやる」


 二人を見送ったハーリーとレノンは「喧嘩ばっかりするから仲が悪いかと思ったら…あの二人、意外と気が合うんだねぇ」などと言いながら、ため息をついた。

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