表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/114

やっと会えた人

 この山を越えれば、間も無くザダクの街に着く。

 何の収穫も得なかったどころか、神官長が自害したことで、リーリエの言葉の回復はかなり難しくなった。

 行きは嫌味ばかり言っていたワカナチも、随分としおらしく歩を進めている。


(トボトボ、と言った方が良いかもしれない)


「…ワカナチ、私一度王都に戻って今回の報告と騎士団の派遣をお願いするわ。私はここから王都まで走るから、ワカナチはザダクに戻って街の人たちを起こして。それが終わったらリーリエちゃんと待っていてくれる?」

「神殿の地下牢に全ての神官達を押し込めたんだ。暫くは大人しくしてるだろ、多分」

「そうだと良いけれど…。調査部隊の犠牲を無駄にはできないわ。急がないと」


 ワカナチは深くため息をついて、足を止めた。


「ワカナチ…」


 振り向いた私の腕を、ぐん、と引っ張った。


「え?」


 木の幹に押し付けられる。なぜか顔が近い。


「お前、ムカつくんだよ」

「なによ、それ…?」

「…王太子妃様なんだろ?なんなんだよ、わざわざそんな鎧なんか着やがって。異国人のいざこざに首突っ込みやがって」

「異国から来た貴方が、この国の民を害したのよ?自覚はあるの?」


 ぐっと顎を掴まれる。

 痛い。尊厳が踏み躙られるような、心の痛みだ。


「本当に腹が立つ」

「っ…?」


 ワカナチは、私の唇を喰んだ。


(心底、私のことが嫌いなんだわ)


「…なら俺なんぞ虫ケラ同然なんだろうが」

「あなた、そうやってずっと拗ねてるわよね。リーリエちゃんの方がよっぽど大人だわ」

「誰が拗ねて…」


 その時、尋常じゃない威圧感に、重力が十倍にも感じられた。

 おぼつかない足を庇うように、魔法使いの杖を拠り所に必死にこちらへと向かってくる人。


「なにを、している」

「…誰だお前」

「メイリーから離れろ」


(ああ、)


「シオン様…!!!シオン様!!!」


 ワカナチを振り切って、駆け寄ったが、シオン様の意識は朦朧としているようだった。


「まさか…回復、しきっていないのですか?どうやってここに…?」


 けれど、シオン様は私を制してワカナチと対峙した。


「おい、貴様か。回復師の兄とやらは。ざまあみろ、自力で起きてやったぞ」

「…へえ?おーたいしサマってのは随分と丈夫にできてんですね」

「メイリーに触ったな?土下座しろ」

「そんなに大事なら首輪でもつけとけば良いんじゃないですかね?」

「おい」

「あー、不敬でしたか?どうもすいませんね、野蛮な異国人なもんで」


 暫く睨み合いが続いたが、くるり私に向き直る。


「あいつ、一発殴って良いか?」

「〜〜っっっ!!!もう、良い加減にしてください!全然本調子じゃないじゃないですかっ!!!!ワカナチも!早くシオン様を完全に回復してちょうだい!!!」


 殆ど絶叫に近い訴えに、二人はたじろぐ。

 ワカナチは、「くそ」と悪態をつきつつも、シオン様を座らせて、大人しく回復を始めた。


「…で、回復したらいくら渡せば良いんだ?」

「畏れ多くて貰えませんね」

「どの口が言ってるんだ…?」

「……」

「妹殿から諸般の事情は聞いているぞ。ザダクに戻ったら街の人たちを一人残らず回復させるんだな」

「うるせぇっすね、分かってますよ。それくらい」

「で、神殿で有益な情報は得られたんだろうな?」


 この質問には、私もワカナチも黙って俯くしかなかった。

 回復を終えたシオン様は、首を回したり、腕を回したりしながら「礼は言わない」と悪態をつき返す。

 それから、回復しきった身体でワカナチを思い切りぶん殴った。


「人の妻を連れ回しといてそれか?うん?」

「これはメイリー……様の提案だ!大体俺は貴族女が嫌いなんだよ!」

「ほお?良い度胸をしているな。今そこで、くちづけしているのを見たぞ。僕の妻だということは知っていたんだろう?」

「…そのアンタの妻とやらは随分と隙だらけだ」


 そう言って、懐から翡翠の髪飾りを取り出すと、悪ガキのようにシオン様の目の前にチラつかせた。


「お前、それ牽制のつもりか?」

「さァて、どう捉えるかは王太子サマ次第だと思いますけど」


 シオン様は何故か杖を放り投げる。二人は間合いを取って、構えあった。


「誰かと拳を交えるのは久しぶりだ」

「…俺が勝っても不敬罪になりませんよね?」

「ああ、それなら大丈夫だ。勝つのは僕だからな」


 思い切り意味がわからない、けれど気がついたら叫んでいた。


「ちょっと!!!ふたりともやめて下さい!!!何してるんですか!?シオン様まで…っっ!!!」

面白かった!続きが読みたい!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ