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神殿戦③

 周りを囲む神官達がわあわあと叫んでいる。

 ワカナチはすっかり酒が回ったらしい。踵を僅かに浮かせた爪先立ちの、見覚えのあるファイティングポーズをとった。一見してふらついているようにしか見えない。


(神官長はかなり高齢のはず。それを、まさか本気で殴るつもりはないと思うけれど…でも相手は銃を持っている…)


 どうするつもりなのか、見守るしかない。この二人には、二人にしか分からぬことがありそうだ。


 私が睨み合う二人に気を取られていたその隙をついて、後ろから神官の一人に締め上げられてしまった。


「ぐっ!!!!」

「おいおい、随分油断してるんだなあ。背中が甘いぞ」

「この!!!」

「ラピがいなくなって、神殿内は色を失ったように随分殺伐としてたからなぁ。ああ、久しぶりの女だ」

「まさか…あなたもラピに…」

「ばァーか。簡単に聖女様に手出しできるかよ。みんな聖女様に気に入られようと必死だったんだ。…まァ、気に入られた奴らはみんな死んじまったけどな」

「え…?」


 れ、と首筋を舐め上げられて、不快感がつま先から這い上がってきた。


「メイリー!!!!」


 ガン!!!!


 ワカナチが駆け寄ろうとしたが、弾丸が耳を掠めたらしい。耳を押さえて神官長の方へ向き直った。


「危機感が足りんようじゃのぉ。そんなんで儂が倒せるんじゃろうか」

「クソジジイが…っ!!!」

「…次は、当てるぞ」


 まるで獲物を狙う肉食獣のような目つきに、ゾッとした。こんな感覚は初めてだ。

 今まで戦った誰よりも、本能で恐怖を感じている。


(あんな老人に…?)


 緊迫に思わず身を硬直させた。


「勇者殿も女だなぁ。大の男に抱きすくめられるのがそんなに怖いなんて、かわい……え?」


 私を締め上げていた男を背中に担いで、ぶん投げた。

 ドカッ、とものすごい音がする。肋骨にでもヒビが入ったかもしれない。


「っっっ!!!!」


 床に転がった男は、まともに呼吸すらできないらしい。浅く、早く、痛みを逃すような呼吸を繰り返した。


「さあ、次は誰が相手になる?悪いけれど、武器がなければあなた達なんて全然相手にならないの。まとめてかかってきてくれると効率的で助かるわ」

「このっ!!!」「くそが!!!」「やっちまえ!!!」


 わあっ!!!と何十、何百の神官達がナイフや猟銃を手に襲いかかってきた。


「くすっ…良かったわ。あなた達が挑発に乗りやすくて。ワカナチ!死なないでよ!?」


 あれから睨み合いが続いて膠着状態だった二人だが、ワカナチがぼそりと「うるせぇ」と言ったのを皮切りに拳を交わし合った。

 ものすごい覇気に、神官長の足元に大きなヒビが入る。急激なパンプアップは、老人の腕を二回りも大きくした。


(重い!!)


 ギリギリで正拳を躱したワカナチも肝を冷やしたようだ。額から大量の汗が噴き出ている。


「…ワカナチよ。お前のそれは、ただ酒に酔うた勢いに任せて体勢が思わぬ方向に動いているだけに過ぎん。そもそもが強くなっておらんのに、なぜ儂に勝てると?」

「あんたは相変わらず頭でっかちだ」

「何?」


 心配で目を離すことができない。雑魚の相手なんて片手一本で十分だけれど、いかんせん数だけは多い。挑発に乗ってくれたので、纏ってかかってきてくれて助かるが。

 私はよそ見の隙に十人に取り囲まれていて、ナイフで切りつけられる。その瞬間頭上へと舞い上がり、十人とも蹴りをお見舞いした。


 ワカナチは変わらず苦戦しているらしい。一向に攻撃しようとせず、躱すだけで精一杯のようだ。いや、むしろあの老人相手に躱しているだけでもすごいと言えるが。


「…もう諦めろ、ワカナチ。貴様は知り過ぎた。大人しく神殿に仕えていれば良かったものを」

「俺が信仰するのは、生まれた島の神だけだと、アンタに拾われた日にそう言ったはずだ」

「頭でっかちはお前の方じゃの。因習を押し付けられて尚縋り付くとは惨めじゃ」

「…ここを巣立つまで面倒を見てくれたことには感謝する。だがリーリエのこととなれば話は別だ」

「なぜあの娘に拘る」

「拘ってるのはアンタだろ」


 再び睨み合いが始まる。


「もう黙れ、ワカナチ。そろそろ終いにしようかのぉ」


 神官長が右手を懐に差し込んだ。その懐をまさぐる。尚まさぐる。遂に衣を剥いでペタペタと割れた腹筋や大きく隆起した胸筋を触り始めた。


「な、ない…なぜ…」

「…ジジイ、アンタが探してるもんはこれか?」

「…あ…」


 神官長が探していたのだろう、小型のリボルバーはしっかりとワカナチの手にあった。おちょくるように、引き金に指を入れてくるくると回している。


「アンタ、俺が逃げてばかりだと油断しただろ。勝機を見極めようと必死になっていると思っただろ。残念だったなぁ。俺はそんなに人間ができちゃあいねぇんだよ」

「クソガキがああぁぁあ!!!」


 コツコツと、膝をつく老人の前まで近づくと、歩みを止めて銃口を眼前に突き出した。

 老人は咆哮する。


「コイツを撃てぇぇ!!!!何をしている!!役立たず共!!!」


(何を言っているの…)


 神官達はほとんどが気絶して、残っている者は銃を持っていない。それに気がついた神官長は、思い切り顔を歪ませた。


「終いなのはどっちだろうなぁ。ご自慢の筋肉で俺の首を折ってみるか?それより先に頭の風通しが良くなるだろうけどなぁ」

「……早く撃て。どうせ残り少ない人生だ。何を惜しいことが…」

「その前に、リーリエの言葉を戻す方法を教えろ」

「…馬鹿が。儂に、おいそれと治せる力があると思うか?」

「おおかた検討はついている。リーリエは…聖女なんだろう?」

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