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ある初夏のこと②(ワカナチの懐古)

「ミンミン!!」

「っ…ワカナチ、どうしたんだ血相を変えて…」

「俺を…俺を早く西の大陸に捨ててくれ!」


 朝餉を囲むミンミンの家族たちが俺の存在を認めて、悲鳴をあげ部屋の隅に逃げ込んだ。

 椀がひっくり返り、食卓が散乱する。


「ワカナチ、なぜ…なぜ我が家にケガレを持ち込んだ…」

「聞いてくれよ!父ちゃんが、母ちゃんを!!」

「たわけが!!今すぐ出て行け!!」

「ミンミン!!」

「…穢らわしい。その口で名を呼ぶなっっ」


 ミンミンは唇を戦慄かせて戸口までずんずん歩み寄ると、仁王立ちになった。会う度顔の変わらないミンミンの、初めて見る怒りの表情だった。


「あ、あ、っっっ!!!」

「自分が何者なのか自覚しておらんやつ程扱いにくいものはない。だから、穢れに選ばれる者は赤子と決まっているのだ、ワカナチよ」

「ミ、ミンミ…」


 大人の濁った眼に見下ろされて、恐ろしさと悔しさとで己が分からなくなった。

 何度も何度も叫んで、再び島中を走り回った。

 島の人たちは、なんだなんだと戸口を開けて、俺を見ては扉をピシャリと締めた。

 泉のほとりにたどり着いたが、足が絡まって派手に転ぶ。


「ってぇー…」


 水面に映った恐ろしげな顔の刺青が否応なしに現実を突きつける。


「くそっ!」


 何度も水面を殴って、水飛沫が舞った。


「は、はあ…はあ…」


 涙なのか水滴なのか判然としない。顔をがしがしと拭った。


 がさり、

 音がした方を振り向いた。

 そこにいたのは、昨日俺に目線を汚されたと言う少年だった。島の子どもと遊んだことなどないので名前は知らない。


「う、うわ…最悪だよ。二日続けて…。また目ぇ洗わないといけないじゃん」


 ぶつくさと文句を言って足早に俺から離れようとした。


(もし、産まれた順番がこいつと逆だったら、こいつが穢れだったのだろうか)


 思わず手を伸ばした。


「…いちいち面倒くせぇ。ふざけんなよ」


 文句が止まらないそいつを、思い切り抱きしめた。ぎゅう、と力一杯身体を密着させる。


「え……?…へ?」

「……」

「お、おおおい、お前、お前っっっ!!!!!」


 少年は身体をがちがちに硬直させて、首の筋がはっきり浮き上がるほどに絶叫した。


「うわあああああぁぁあああ!!!!」


 喉が潰れるまで叫んで、ただ身体を固めるしか術のなかった少年は、やがて逃げることを思い出した。


「ひっひっ!!!!!」


 ひくついて、うまく言葉が出ない上に、腰が抜けたらしい。尻餅をついて、俺を凝視した。

 俺を見てから自分の手のひらを見比べて、また絶叫した。

 恐ろしくてもまず状況確認したくなる人間の心理とは面白いものだ、などと思う。


「あ、お、お前…なんで…なん……うううう…ぐすっ…うえええん!!!」


 なんとか立ち上がって、躓きながら逃げ帰って行った。


(こう言う時、どうなるんだろう。殺されるのかな。別に良いけど)


 不思議と清々しい気持ちが訪れる。


(変なの…。今帰ったら、きっと大変なことになるんだろうに)


 ほとぼりがさめるまで、しばらく泉で時間を潰すことにした。


 多種多様な鳥が飛び交っている。ごく小さな鳥が、朝露に濡れた身体を懸命に振るっていた。

 俺と目が合うと首を傾げて毛を繕っている。


「…お前も、目が汚れるぞ」


 声をかけたが、小鳥は陽光を探して飛び立った。

 しばらくすると、餌になる木の実を咥えて俺の肩に止まった。


「おい、俺に触ると…」


 ちゅんちゅん、小さな声で鳴くと、咥えた実を飲み下した。

 ぐううぅ…思い切り腹が鳴る。そういえば、夕飯も食べずに夜中中穴を掘って、朝から走り回っているのだ。それは腹も減るだろう。

 仕方がなく、家に帰ることにした。


 鳥はすぐに飛び立ってしまったし、とぼとぼと家に戻ると、島中の人が家の前で仁王立ちに立っていた。

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